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迷宮都市の小さな鑑定屋さん。出張中です。  作者: ジン ロック
ベニス編
30/64

第二十二話 ベニス⑩

 僕は今、お店の開店準備をしています。


 僕が掃き掃除、エリーゼが拭き掃除です。

 綺麗にして、お客さんを迎えます。

 ふと、カウンター上の、鳥かごに目がいきます。


「あっ、アルジェントにあげた宝石と金属が減ってる」


「本当ですね。「銅のペン先」だけ残して他は消えてます」


「そうか、銅は貴金属じゃないや。ちゃんと見分ける力もあるんだね。アルジェントは偉いね。僕も気をつけるね」


「トキン様、アルジェントに宝石や貴金属をあげ続けたら、成長したりするのでしょうか」


「ふむぅ〜ん。そうだと嬉しいけど、どうなのアルジェント?」


 アルジェントは何も言いません。


「確かアルジェントは、魔女っ子にこういったんだ」


『ボクはいにしえの銀梟。今はアルジェントと呼ばれていル』

『ボクに宝石か貴金属をあげるよう伝えてほしイ』


「だから、あげたいって思っちゃたんだ。たとえこのままでも、お話できて可愛いからいいんだ」


「わかりました。トキン様は本当に可愛いものが大好きですね」


「うん。可愛い物が大好きなんだ。ねぇ、アルジェント」


 アルジェントは何も言わず、ただお店の入り口を見つめます。


「看板出してくるね。エリーゼは、掃除用具の片付けお願い」


 A型の看板を持って外に出ます。

 店頭の水がめの前に人がいます。


 ゴクリと音が聞こえます。

 小さな男の子です。


「こんにちは、僕はトキンです」


 僕はにっこりで言います。


「こ、こんにちは、オイラは狸獣人のクワドリフォーリオって言います」


 クワドリフォーリオ君は、ペコリとお辞儀します。


「トキン様が、ベニスにお店を出したと聞きつけて、田舎から出てきたんです」


「僕を訪ねてきたの。わかった、中でお話を聞くよ。さあ、入って」


 僕はクワドリフォーリオ君を、お店の中に招き入れます。

「お邪魔します」と礼儀正しく付いてきます。


「エリーゼ、紹介するよ。狸獣人のクワドリフォーリオ君。僕に用があるらしいんだ。作業場でお話するから、お茶をお願いね」


「オイラは、クワドリフォーリオです。お邪魔します」


「こんにちは、エリーゼと申します。トキン様の専属メイドをしております。すぐお茶をお淹れします」



【おい、お前。よく来たナ。待ちくたびれたゾ】



「あっ、アルジェントが話した」


「トキン様、本当ですね。初めて見ました。かわいいですね」


 アルジェントが金属の羽を、上下にばたつかせます。


「え〜と、あのカラクリ鳥は・・」


「はははっ、後で説明するよ」

 

 僕は鳥かごを持って移動します。

 作業場の椅子に腰掛けます。

 鳥かごをテーブルの上に置きます。


「あらためてトキン様、お時間をいただき、ありがとうございます」


「うん、ちょっと待ってね。エリーゼが来たら三人でお話しよう」


 エリーゼが作業場の隅にある、簡易台所でハーブティーを淹れます。

【保冷の小物棚】保冷+35%、空間×600%の中から、ティラミスを出して切り分けます。


 三人分のお茶が用意できました。

 エリーゼも席に着きます。


「お行儀悪いけど、食べながらお話しよう。遠慮しないで食べてね」


「はい。ありがとうございます。オイラは狸獣人のクワドリフォーリオです。四歳です。トレント司教領のボルツァーノ村から、トキン様を訪ねてベニスに来ました」


「僕にどんな用事なのかな」


「オイラを雇ってほしいです。きっとトキン様のお役に立てる、ユニークスキルを持ってます」


「えっ、ユニークスキル持ちって凄いね。どんなスキルか教えてもらえるのかな」


「はい、オイラのユニークスキルは『探査サーチ』です」


「『探査』」


「はい、オイラの半径十メドル以内にある【古代の逸品】の場所がわかります。これは途中で拾って来た、不良品素材です。どうかお納めください」


「凄い!すごいスキルだね。クワドリフォーリオ君」


「ありがとうございます。トキン様、オイラの名前は長いので、クワッドと呼んでください。エリーゼさんもクワッドでお願いします」


 僕とエリーゼは、にっこり頷きます。


「クワッド君を雇うとして、希望の条件はあるのかな」


「できれば、田舎での一般的な生活費、月二十万ゴルドをいただければ、家族に仕送りできて嬉しいです」


 クワッド君が遠慮がちに言います。


「わかった。クワッド君には、僕、直属の家人になってもらいたい。手当ては月々五十万ゴルド。先払いで一年分の六百万ゴルドを、今すぐ払うよ。それでどうかな」


「ご、ご、ご、五十万ゴルド」


 クワッド君の口が、開いたままになります。


「ヴェネート公爵家の家人なら、そのくらい貰うはずだよね。エリーゼ」


「はい、私ももう少し頂いております」


 クワッド君が立ち上がります。


「トキン様、エリーゼ先輩、お世話になります。オイラ、頑張ります。よろしくお願いします」


 クワッド君がペコリとお辞儀します。


 僕も立ち上がり、笑顔で握手を交わします。


「よろしくね、クワッド」

 

 三人でティラミスを食べながら、談笑します。

 クワッドは六人家族の三男だそうです。

 手当ての一年前払いは、辞退したので、五十万ゴルド(金貨五枚)を渡します。

 細かな契約は、宮殿に戻ってからと伝えます。

 

 ティラミスを食べ終え、ハーブティーのおかわりを注ぎます。

 エリーゼが一度、ドゥカーレ宮殿に戻ります。

 クワッドを雇うことと、宮殿に住むことを伝えるためです。


 僕のことは、行商人から聞いて知ったそうです。

 鑑定屋をしていること、不良品素材も買い取っていること、幸運アイテムを集めていることを聞いて、自分のスキルを活かせると思ったそうです。

 四歳なのに偉いです。


 カラクリ鳥のアルジェントのことも説明します。

 クワッドは、しきりに感心しています。

 

 真面目で、腰が低くくて、ユニークスキルを持っていて、極め付けは可愛いです。

 見てるだけで癒されます。

 しっぽ触りたいです。


 フォルトゥーナの声が聞こえます。

 エリーゼが戻って来たようです。

 裏手の扉を空けて、フォルトゥーナを紹介します。


「こんにちは、フォルトゥーナ先輩。オイラはクワドリフォーリオです。クワッドと覚えてください」


 ペコリとお辞儀します。


「ヒヒィ〜ン」とフォルトゥーナが返事をします。


 仲間と認めたようです。


「フォルトゥーナは賢いから、ちゃんとクワッドのことを認識してるよ」


「はい、トキン様。目を見てわかりました。フォルトゥーナ先輩からは知性を感じます。んっ?トキン様。目の前の水路に【古代の逸品】が一つ沈んでいるみたいです」


「ほんと」


「はい、良品か不良品かはわかりませんが確かにあります」


「エリーゼ、この辺りで『網』を売ってるお店あるかな」


「はい、一本隣りの通りに釣具屋『太い釣り糸』があります。近いので歩いて行ってきます」


「オイラも行きたいです。お店の場所も覚えたいですし、いいですかトキン様」


「うん、エリーゼ。ご近所に何があるのか教えてあげて」


「はい、わかりました。クワッド行きましょう」


「はい、エリーゼ先輩」


 二人が出かけていきます。

 スタイル抜群のエリーゼと、小さくて少しぷっくりしたクワッドの後ろ姿に、ほっこりします。


 癒された気分のまま、鳥かごを持って鑑定室に戻ります。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最後のシーンはコミックでも見たいなぁ
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