第三話 モンタルチーノ③
「これはこれは、お初にお目に掛かります。トキン・ヴェネート様とソフィア・トツカーナ様でございますね」
初老の紳士は僕とソフィを知ってるようです。
「私、アレンツォ子爵家で執事をしておりますジジーノと申します」
と言って深く綺麗な礼をとります。
「お楽しみの所、お邪魔してしまい申し訳ございませんでした。お詫びの挨拶も出来ましたゆえ、これで失礼させて頂きます」
「ちょっと待って下さい、ジジーノさん。折角アレンツォ領から来られたのは温泉に入る為でしょう。馬車の中にどなたか居るのでしょう」
「そうですわ、ジジーノさん。遠慮なさらず一緒に楽しめるはずですわ」
ジジーノさんは深く頭を下げて言います。
「お気遣いありがとうございます。確かに馬車にはアレンツォ家ご令嬢アリーチェ様がおります。ですが流石に身分違い、本日はこれにて」
「ふぉふぉふぉ、ジジーノ殿。ここで会ったのも何かの縁。そう言わずに共に温泉を楽しむことはできんかのぅ」
「そうですわよ、ジジーノさん。ここモンタルチーノの温泉は身分を問わず楽しむものですわ」
ジーヤもバーヤさんも、ジジーノさんを引き留めます。
「ジジーノさん。アリーチェさんは何歳くらいの方なのでしょう」
ソフィの問いに、ジジーノのさんが恐縮しながら答えます。
「アリーチェ様は今年五歳になられます」
「ソフィ、行こう」
僕はソフィの手を引いて馬車に駆け寄ります。
馬車のドアを優しく二回ノックします。
「アリーチェさん。僕はヴェネート家のトキンです。一緒に遊びましょう。よかったらドアを開けてもらえませんか」
「アリーチェさん。私はトツカーナ家のソフィアといいます。一緒に温泉を楽しみたいの。どうかしら」
しばらくして、馬車のドアが遠慮がちにそっと開かれます。
バスタオルを巻いた可愛らしい女の子が降りてきます。
「この様な姿で失礼をお詫びします。アレンツォ子爵家のアリーチェと申します」
アリーチェさんが上品に膝を折り挨拶します。
「こんにちは、僕はトキンです。会えて嬉しいです」
「こんにちは、私はソフィアです。よろしくね、アリーチェさん。トキン、連れて行っちゃいましょ。フフフ」
ソフィがニコニコでアリーチェさんの手を握ります。
僕もにっこり頷いてアリーチェさんの手を握ります。
二人でアリーチェさんを引っ張り温泉に向かって走ります。
「ちょ、ちょっとお待ち下さ〜〜い」
アリーチェさんの懇願虚しく、三人は温泉に足を浸します。
アリーチェさんのバスタオルがほどけます。
ソフィが、サッっとキャッチします。
アリーチェさんの水着姿が露わになります。
「アリーチェさんも『スクルミッツォ』ね。私とお揃いよ、フフフ」
ソフィがニコニコしています。
アリーチェさんの顔は真っ赤です。
しばらくしてアリーチェさんが口を開きます。
「トキン様もソフィア様も強引過ぎです・・・でもお陰で楽しみにしてた温泉に入ることができましたわ。誘って頂き感謝致します」
アリーチェさんが上品な笑顔を見せます。
「アリーチェさん。僕もソフィも同じ五歳なんだ。様とか無しで呼びあえる友達になりたいな」
「私もアリーチェさんとお友達になりたいわ。ソフィアじゃなく、ソフィと呼んでほしいの」
アリーチェさんが顎に右手を添えて考え込みます。
「う〜ん。お二人とも一度言ったら引かない気がしますわ。わかりました、今から私達は友達ですわ。私のことはアリスと呼んで、トキン、ソフィ」
アリスが上品にクスクス笑います。
「はははっ、よろしく、アリス」
「よろしくね、アリス。フフフ」
新しい友達アリスは、茶色の髪をポニーテールにした、とても品のある美少女です。
僕とソフィよりちょっと背が高いです。
成長が少し早いのでしょうか、ペッタンじゃないです。
三人でぬるま湯をかけあったり、鬼ごっこをしたり、石灰岩の滑り台を楽しんだりして遊びます。
ジーヤ達三人も談笑しています。
温泉を満喫してあがります。
カエルのリュックから、銀製カップ三つと、
【冬竹の水筒】
空間×500%
腐敗耐性+50%
を取り出します。
アンナおば様が用意してくれた、氷入りブドウジュースをそそいで、ソフィとアリスに手渡します。
「冷えてて美味しいわ」
「うん、本当に美味しいね」
アリスは色々教えてくれます。
今、カイン王国では国民の関心はシェーナの魔物襲来事件で、貴族の関心は僕だそうです。
突如現れたヴェネート公爵家唯一の後継候補であり、なんとかしてお近づきなりたいが、ヴェネート公爵様が「勝手な接触は絶対に許さない」と公言しているうえに、ソフィア・トツカーナ伯爵令嬢との婚約発表がなされ、皆、静観せざるを得ないとのことです。
僕が鑑定屋さんをやっているのも、幸運アイテムを集めてるのも知ってると言ってます。
僕の個人情報は盛大に漏れまくりのようです。
アリスが言います。
「トキン、この竹の水筒は、銘を【冬竹の水筒】効果は空間×500% 腐敗耐性+50%の凄い【古代の逸品】ね」
「えっ、アリスも鑑定スキル持ちだったんだ」
アリスが口に手を当ててクスクス笑います。
鑑定スキル持ちなりの悩みを聞きます。
僕はにっこり答えます。
「シェーナ街に腕利きの鍛治師が居るんだ。でも修理依頼は数年間の順番待ちになるらしいよ。僕から頼んでみるよ。どうしても直したいアイテムは僕宛てに送ってよ」
「ありがとう、トキン」
「よかったわね、アリス」
「えぇ、腕利きの職人がいる都会のシェーナが羨ましいわ、ソフィ」
僕達三人は手紙のやり取りと、再会を約束して別れます。
また一つ良い縁に恵まれます。
プリオーリ宮殿に帰ったら【古代の逸品】の修復祭りです。