番外編 SS ベニス案内後の大聖堂
大聖堂本堂の真ん中を、修道女姿の小さな女の子が進みます。
上気した顔をうつむかせ、足取り軽く進みます。
最奥でひざまずき、瞳を閉じて聖マルコ様に感謝の祈りを捧げます。
立ち上がり、大聖堂の一角を目指します。
家族が待つ、居住スペースへ足取りを緩め進みます。
「ただいま、戻りました」
左手を右手で覆う形で、前に組みペコリとお辞儀します。
「お帰り、マルティーナ」
大司教である、おじいさまがいつも通りの笑顔で迎えてくれます。
「ティナ、お帰り」
大司教の娘婿である、おとうさまが優しく迎えてくれます。
「お帰り、マルティーナ。待ってましたよ」
大聖堂に似つかわしくない、はやくて高い声で、おかあさまが迎えてくれます。
今日の出来事を、事細かに報告します。
おかあさまの表情が、みるみる笑顔にかわります。
「僥倖です、マルティーナ。あぁ、こうしてはいられません。本堂に行って聖マルコ様に、感謝をお伝えしなくては」
おかあさまが、部屋を飛び出します。
「トキン様に、その指輪を頂いたとき、ティナは嬉しかったかい?」
「はい、おとうさま。とても嬉しくてドキドキしました」
「それは良かった。ティナが嬉しいなら、お父さんも嬉しいよ」
物静かな、おとうさまが笑みを浮かべます。
「次があるというのも、また良いのう。マルティーナ、楽しめたようじゃのう」
「はい、おじいさま」
修道女姿の小さな女の子は、にっこり頷きます。
顔を赤らめ、左手に輝く指輪を、右手でそっと覆い、胸に抱きます。




