第二十話 ベニス⑧
カラン、カラン♪
お客さんのようです。
「鑑定を頼みたい」
十代前半に見える、一人のお姉さんが入ってきます。
赤い髪、赤い軽鎧に弓と矢筒を背負ってます。
「いらっしゃい、僕はトキンです。鑑定希望ですね、このカウンターに置いてください」
僕はにっこりでいいます。
「二つある、ここでいいか?」
蔦を編んだショルダーバッグから、アイテムを二つカウンターに並べます。
「はい、観てみますね」
僕は、虫眼鏡を取り出して鑑定します。
鑑定結果
「ガラスのコップ」
良品
【氷無のコップ】
保冷+15%
300,000ゴルド
「ガラスのコップ」
良品
30,000ゴルド
ベネチアングラス。
「ふむぅ〜ん、観えました。この青色が付いたコップは銘を【氷無のコップ】効果は保冷+15%の逸品です。価値は30万ゴルドになります。
こちらの赤色が付いたコップは、価値3万ゴルドのベネチアングラスになります。買取希望なら価値の25%で引き取ります」
「二つとも買取で頼みたい」
僕はにっこり頷き、83,000ゴルド(銀貨八枚、銅貨三枚)を渡します。
「欠けたり、壊れたりしてるアイテムも不良品素材として買い取ります。よかったら持ってきてください」
「承知した」
【おい、お前。ついてるナ。明日、幸運に出会うだろウ】
「あっ、話した」
カウンターの隅に置いてある、鳥かごからアルジェントが、高い声をあげます。
金属の羽を上下にばたつかせます。
「えっと説明しますね。このカラクリ鳥は【気まぐれの銀梟】といって稀に定型文を話す、古代の逸品なんです。明日お姉さんに、きっといい事があります」
「そうか、ありがとう」
ニコリと笑顔をみせ、帰っていきます。
クール美少女の冒険者さんです。
名前は聞けませんでしたが、また来てくれると思います。
そういえば、アルジェントにあげた宝石が無くなってます。
見た目は変わりないです。
鑑定してみます。
鑑定結果
「金属製のカラクリ鳥」
良品
【気まぐれの銀梟】
助言 5%
50,000ゴルド
稀に定型文を話す。
特に変化もありません。
また今度、宝石や金属をあげて様子見してみます。
コン、コン♪
作業場へ続くドアがノックされます。
「はい」
「トキン様、街の清掃員から細かな素材が届きました。鑑定室に入れますか」
「うん、お願い」
エリーゼが小さな木箱を、カウンターの足元に置きます。
「ありがとう。エリーゼ、聞いて。今、アルジェントがお客さんにお話したんだ」
「本当ですか、なんと言ったのですか」
「【おい、お前。ついてるナ。明日、幸運に出会うだろウ】だった。それで、羽をバタバタさせたんだ」
「それは、言われたら嬉しい言葉ですね」
エリーゼがニコリと微笑みます。
「うん、僕も言われたい。そうだ、素材の中に金属や宝石があるかも。エリーゼ、一緒に探して」
二人で木箱をあさります。
五つの候補素材を見つけます。
鑑定してみます。
「エメラルドの指輪」
不良品
(欠け)
3,000ゴルド
「サファイアのブローチ」
不良品
(欠け)
3,000ゴルド
「銀のペン立て」
不良品
(欠け)
28,000ゴルド
「金のヘアピン」
不良品
(欠け)
5,000ゴルド
「銅のペン先」
不良品
(欠け)
2,000ゴルド
「リペア」
一気に修復します。
「エメラルドの指輪」を手に取ります。
「エリーゼ、このエメラルドの指輪は、エリーゼの髪の色によく似てるからプレゼントするよ」
「えっ、よろしいのですか」
「うん。特別な効果はないけど、とっても綺麗な色だからエリーゼが使って」
「トキン様、ありがとうございます。大切にします」
エリーゼが嬉しそうです。
僕も嬉しくなります。
残りの四つをアルジェントの鳥かごに入れます。
「アルジェント、これあげるね」
鳥かごの扉を静かに閉めます。
「エリーゼ、ベネチアングラス以外をドロップするダンジョンがベニスにはあるの?」
「はい、あります。ベニス本島の西には「宝石ダンジョン」があります。それと島の中心、大運河そばに「無名ダンジョン」があります」
「宝石ダンジョンと無名ダンジョン」
「はい、宝石ダンジョンは強い魔物が多いらしく、実力者以外は寄り付きません。万一に備えて、真横に陸軍施設があります。それと公爵家の買取所もありますので、素材はここに届く手筈になっています」
「そうなんだ」
「はい、無名ダンジョンは特徴が無いのが一番の特徴になります。魔物は弱いのから強いのまで、ドロップアイテムも様々な物があるようです。ここも万一に備えて、真横に冒険者ギルドが建っています」
「なるほど、それでここ東部のグラスダンジョンそばには、海軍がいるんだね」
「はい、そうなります。それと海軍造船所とこのお店の間に、新しい清掃施設の、粗大ゴミ置き場が作られました。もちろんトキン様のためです。帰りに寄ってみませんか」
「近くにあるんだ、じゃ寄ってから帰ろう」
「はい、わかりました」
今日は、お店を閉めます。
戸締りして、フォルトゥーナ号に乗り込みます。
新しい清掃施設、粗大ゴミ置き場を目指します。
すぐ着きます。
エリーゼが鍵を開け、中に入ります。
今の時間は無人のようです。
広さは、シェーナ街にある「サリンベーニ商会」の半分ほどです。
ある程度、原型をとどめた、不良品が並びます。
家具、絨毯、照明、それと小物雑貨類に別れてます。
まだ施設全体の三割ほどしか埋まっていません。
「もう少し、たまってからリペアした方がいいかな。それとシェーナ行きの馬車も追加して欲しいな」
「ジョバンニ執事長に言って手配しておきます」
「うん、お願いね」
そんな会話を交わしながら、施設内を歩いていると、気になるアイテムに出会います。
小さな食器棚でしょうか。
木肌の木目が綺麗な棚です。
縦五十センチ、横三十センチ、奥行き二十五センチくらいあります。
縦五十センチのうち、十五センチほどが、四本のネコ脚になってます。
棚の中心部がぷっくりと膨れたデザインです。
天板がありませんが、とても可愛いアイテムです。
リペアして鑑定してみます。
鑑定結果
「パイン材の小物棚」
良品
【保冷の小物棚】
保冷+35%
空間×600%
12,700,000ゴルド
おっと、これは嬉しいアイテムです。
天板の上には、旅行バッグのように取っ手が付いています。
持ち運びも便利だと思います。
「エリーゼ、この棚すごいよ。保冷+35%に、空間×600%の【逸品】だった。ティラミス買って帰ろう」
「はい、そうしましょう♪」
エリーゼも「私をその気にさせて」のティラミスが楽しみのようです。
ドゥカーレ宮殿に向かって帰ります。
フォルトゥーナ号がいつもより速く進みます。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
訂正しました。
価値は15万ゴルドになります。
→30万
ジュゼッペ執事長
→ジョバンニ執事長




