第十七話 ベニス⑤
「トキン様、朝でございます」
綺麗なエメラルド色の髪が見えます。
「うん。おはよう、エリーゼ」
エリーゼに手伝ってもらい、洗顔と着替えをします。
エリーゼと二人で、広い宮殿内を移動します。
縦長の大きな食堂に入ります。
レオナルド様も、入ってきます。
「レオナルド様、おはようございます」
「おはよう、トキン」
食後にお話します。
「レオナルド様、真水が湧く【古代の逸品】が手に入りました。優先的に使いたい場所はありますか」
「ほう、ありがたい話だ。だが設置を急ぐ地域は思い当たらないな」
「良ければお店に設置して、地域の人にも開放したいです。いいですか」
「もちろんだ。トキンのやりたい様にやりなさい」
「ありがとうございます。それで大工さんの手を借りていいでしょうか」
「ああ、ジュゼッペに言うといい」
「レオナルド様、ありがとうございます」
僕はにっこりお礼します。
ヴェネート家の家風なのでしょうか。
母さまもレオナルド様も好きにやっていいと言ってくれます。
僕はにっこりしてしまいます。
エリーゼと一緒にお店に向かいます。
フォルトゥーナ号でパカパカ進みます。
大工さんは後から来てくれます。
お店の裏の馬留めに、フォルトゥーナを繋いで言います。
「エリーゼ、大工さんが来るまで、時間があるから近所を散歩しよう」
「はい、行きましょう」
エリーゼはニコリと笑顔をみせます。
手を繋いで出かけます。
まずはお店の前の通りを右に進みます。
少し狭い通りとの交差点に出ます。
看板があります。
『海軍造船所通り』
海軍造船所・グラスダンジョン→
←大運河
↓サンマルコ広場
「エリーゼ、お店の近くに造船所とダンジョンがあるの?」
「はい、海軍造船所とグラスダンジョンは同じ通りにあります」
「グラスダンジョンってことは、ベネチアングラスがドロップするダンジョンなのかな」
「はい、そうです。ここベニスの特産品、ベネチアングラスは、この先のダンジョン産出分と、北の島で作られています。ダンジョンからは稀に陶器と磁器も産出します」
「そうだったんだ。じゃ街の中心部へ帰る冒険者が、お店に寄ってくれるかもね」
「ええ、きっと来てくれます」
「そうだといいな。あと、そこに見える看板は昨日、寄ったお店のかな」
「はい、ティラミスの意味を店名にした『私をその気にさせて』があります」
「じゃ、お茶してから帰ろうよ」
「はい、そうしましょう」
エリーゼと一緒に、ティラミスとレモンティーを注文します。
やはり、ここのティラミスは一味違います。
上手く言えませんが、やみつきになる美味しさです。
しばらくして、大工さん二人がやってきます。
お店の改装の希望を伝えます。
大工さんがすぐ作業に取り掛かってくれます。
次いで、ポーロ商会本店の店員さんがやってきます。
なんと十台の馬車を用意しているそうです。
どんどんフランネル織物の一反巻きを運び出します。
今日中に全て本店の倉庫に移すそうです。
大工さんはお店の表側で、ポーロ商会の皆さんはお店の裏手で作業してます。
僕とエリーゼは鑑定室でお話します。
「この小さな金属のカラクリ鳥は、アルジェントって名前なんだ。【古代の逸品】なんだけど、定型文を話すって鑑定に出たんだ」
「このカラクリ鳥が話せるのですか?」
「うん。一度だけ話したことがあるんだ」
「なんと言ったのですか」
「『おい、お前。ただで済むと思うなヨ。ケツの毛まで抜いてやるからナ』って言ったんだ。笑っちゃうでしょう」
「ふふ、本当にそう言ったのですか」
「うん、本当なんだ。タイミングもバッチリでね」
僕は、アルジェントが言葉を発するまでの経緯を伝えます。
「トキン様を襲撃・・許せません。レオナルド様はご存知なのですか」
「うん、伝えてある。でも確証はないし、どうせフランネル織物で痛い目みせるから、僕に任せてほしいと伝えてあるんだ」
「そうでしたか。もしメディツ商会やフィレンツ侯爵の仕業とわかったら本当に許せません」
「うん、僕のために怒ってくれてありがとう。でもエリーゼは笑顔の方が似合うよ」
エリーゼは「うっ」と言って固まります。
「天性の女ったらしだわ」とか「とんでもない種馬になりそう」とかなんとかブツブツ言ってます。
「そうだ、アルジェントに宝石をあげてみよう。ベニスにくる途中、ボローニャで出会った魔女っ子が言ってたんだ。宝石か貴金属を欲しがってるって」
「アルジェントが食べるのですか」
「よくわからないんだ。ただ、その魔女っ子は教えてないアルジェントの名前を当てたんだ。だから欲しがってるのは本当だと思う」
僕はポケットから、青色の宝石の欠片を取り出します。
大きさは五ミリほどです。
「リペア」
三センチほどの大粒のサファイアです。
鳥かごを開け、宝石をいれてみます。
「アルジェント、これあげるね」
アルジェントの反応はありませんが、このままにしておけば良い気がします。
大工さんから、声がかかります。
内装分の作業が終わったようです。
店内に木枠の小さな水路が出来てます。
棚の隅を利用して、高さ二メドルの位置から水路が伸び、高さ一メドルでお店の壁から、外に繋がる水路です。
お店の表側に出てみます。
向かって左手の壁から、水路が突き出し、大きな水がめにつながります。
水がめには、半分だけ木製のフタが被せてあります。
その上に、三つの水すくい、柄杓がのってます。
「エリーゼ、この壺を横にして、棚の上に設置して」
僕は【湧水の小壺】をエリーゼに渡します。
壺が動かないように、枠を作ってもらった箇所に、壺を横向きで設置します。
水が流れ出します。
もう一度、お店の外に出ます。
なかなかの勢いで水が流れます。
どんどん、水がめに溜まります。
水がめから溢れた分は、木製の管を伝って、ダンジョン方面に行きます。
その途中、一箇所とダンジョン前に、水溜めを作ります。
そこでも自由に使ってもらえるようにする予定です。
細い管をお店の裏側にも通してもらい、フォルトゥーナや他の馬達にも飲んでもらいます。
最終的には、運河に排水する水道管になる予定です。
柄杓ですくって飲んでみます。
「柔らかくて優しい水だ」
エリーゼも飲みます。
「冷たくて、さっぱりしますね」
僕とエリーゼはにっこりです。
近所の人達も喜んでくれたら嬉しいです。
ポーロ商会本店の店員さんも、フランネルを運び終えたようです。
仕立ての良いスーツを着こなす、中年のおじ様が姿を見せます。
「ポーロ商会本店の商会長を務めます、ニコロ・ポーロと申します」
「トキン・ヴェネートです」
「トキン様、この度は、よくぞ私どもポーロ商会に、お声掛けくださいました。心より感謝申し上げます」
僕はにっこり頷きます。
「これでポーロ商会は、莫大な富を得るはずです。ですが真の目的はメディツ商会を潰すことにあります。その事は絶対に忘れないでください」
「お任せください。既にメディツの顧客リストを、秘密裏に入手しております。得た利益で金融面でも攻め込みます。あとは時間の問題です。必ずやご期待にこたえてみせます」
ニコロ・ポーロ商会長と握手します。
二枚の証文を受け取り、笑顔で別れます。
やっとひと段落です。
ドゥカーレ宮殿からも、シェーナに向けて荷馬車が二台出発しているはずです。
「エリーゼ、今日は帰ろう。明日の夕方から鑑定屋さんを開店させようかな」
久しぶりの冒険者さんとのやり取りが待ち遠しいです。




