第十一話 ボローニャ①
僕は今、学園都市ボローニャに来ています。
ポーロ商会のマルコ店長との商談もまとまり、早めにフィレンツ街を離れた方が良いと判断したのです。
地元の人と思われる、おばあちゃんに道を尋ねます。
「こんにちは、中央広場に行くには、この通りで大丈夫でしょうか」
「おや、かわいい御者さんだね。そうさね、マッジョーレ広場に行くには、ここからも見える、アックルージオの塔を目指すとええよ。気をつけて行きなさい」
「おばあちゃん、ありがとう」
僕は笑顔でお辞儀します。
フォルトゥーナ号でパカパカ進みます。
歴史ある大きな大学があるらしく、学生と思われる若い市民が目立ちます。
看板を発見します。
今、進んでいる通りは、
「リアルト通り」
交差する大通りは、
「マッジョーレ通り」
らしいです。
おばあちゃんに聞いた、高い塔も左手に見えてます。
マッジョーレ通りを左に行きます。
大きな広場が見えてきます。
ここがボローニャの中央広場、マッジョーレ広場のようです。
広場の横には、立派な宮殿が建っています。
おそらく、ボローニャ伯爵の宮殿だと思います。
ボローニャ伯爵とは、一度だけ会っています。
僕の婚約お披露目会で挨拶しています。
ヴェネート公爵派閥の重鎮、お爺ちゃん伯爵です。
今日は顔をだしません。
夕食前のこの時間に、先触れも無く訪ねては、伯爵にも家人達にも迷惑をかけてしまうからです。
広場手前の立派な宿を見つけます。
素泊まりで、一部屋借ります。
フォルトゥーナ号を預けて、部屋には行かず、街に繰り出します。
マッジョーレ広場に来ます。
ここにも看板があります。
正面のボローニャ伯爵邸は『ポデスタ宮殿』と呼ばれてるそうです。
広場中央にある水場は『ネプチューンの噴水』だと書いてあります。
キョロキョロしながら、初めてのボローニャ街を探索します。
「ちょっと、そこの坊や」
声を掛けられ、振り向きます。
魔女のような、黒の三角帽子に、黒のローブを羽織った、同い年くらいの女の子がいます。
占い師でしょうか?
「坊や、こっち来て」
一応、行ってみます。
「坊や、一人なの?その鳥は何者なの?」
同い年くらいのはずなのに、妙にお姉さんぶった話し方をします。
「一人だけど、君だって同い年くらいなのに、一人じゃないか」
魔女っ子の顔がみるみる赤くなります。
「ムキィー。同い年位じゃ無いもん。エストロはもう十二歳の大学生だもん。レディなんだもん」
もんもん言い出します。
十二歳には全く見えません。
「それで、何の用ですか」
「ムキィー。同い年位と言ったことはスルーするつもりね。まあ、いいわ」
いいんですかっ。と、思わずツッコミそうになりましたが、何とか耐えます。
「その鳥、何なの。生きてるの?」
カエルのリュックに、ぶら下げた鳥かごの中の、アルジェントを指差します。
「この鳥は・」
グゥ〜ウググゥ〜♪
アルジェントの説明をしようと思ったら、魔女っ子が広場中にとどろく轟音を響かせます。
「ぷぷっ、あははっ。こんな大きな腹の虫が鳴く音、初めて聞いたよ」
またしても魔女っ子の顔がみるみる赤くなります。
「ちょっと、お腹が鳴っただけだもん。普通、レディに気を使って、そういうのは言わないものだもん」
「はははっ。ちょっと鳴った音じゃないでしょ。マッジョーレ広場を越えて、ポデスタ宮殿まで響いたでしょ」
「ムキィー。本当に失礼しちゃうわね。まあ、いいわ。夕食おごって」
「まあ、笑わせてもらったから、夕食くらいおごります」
ちょうど何か食べたいと思っていたので、オススメの店について行きます。
おかしな出会いに、少しだけワクワクします。
「ここのボロネーゼは極盛りよ」
貧乏学生食堂
『味のことは言うな』
二人席に座り、改めて自己紹介します。
「こんにちは、僕はトキンです。五歳です」
「こんにちは、私はエストロ。十二歳の大学二年生。専攻は占星術。立派なレディよ」
どう見ても五歳くらいですが、レディだと言い張ります。
スルーしてあげます。
「それで、このカラクリ鳥が気になるの?」
僕は鳥かごを持ち上げます。
「その鳥、話せるわよね」
「確かに定型文を話すみたいだけど、一度しか聞いたことがないんだ」
「まだまだ子供ね。エストロお姉さんには、その鳥の心の叫びが聞こえるわ」
「あ〜、はいはい」
「ムキィー、信じて無いわね。まあ、いいわ。その鳥が訴えていること知りたくない?」
極盛りと普通盛りのパスタがテーブルに並びます。
「これこれ、ボロネーゼは極盛りに限るわ」
大味のパスタを食べながら、会話を続けます。
「エストロお姉さんの言ってること、信じて無いわね。その鳥の名前、当ててみせるわ。その子の名前はアルジェントよ」
「えっ」
アルジェントの名前は、まだ教えてないはずです。




