第九話 フィレンツ①
前半は暴力的なシーンが続きます。
苦手な方は、
中程の空白以降から
お読みください。
僕は今、フィレンツ街の手前、約2キロメドルの辺りにいます。
僕の足元には、後ろ手に縛りあげた三人の男が転がっています。
真ん中に転がっている男に問います。
「お前達のような、他人を害する者に一切容赦するつもりは無いと伝えておきます。誰に頼まれたか、白状する機会を一度だけあげます」
「お前みたいなガキに言う訳ねーだろ」
僕は容赦なく【ガルガノの木剣】力+30 体力+30を振り抜きます。
ゴキンッと手の骨が砕ける音がします。
少し遅れて男の野太い悲鳴が上がります。
左隣りで横たわる男の前に立ちます。
「あなたにも誰に頼まれたか、白状する機会を一度だけあげます」
「い、言えねーんだ」
僕は容赦なく【ガルガノの木剣】を叩きつけ男の両手を潰します。
男の悲鳴があがります。
一番右端で転がっている男の横に立ちます。
「お前達がただの野盗でない事は見れば分かります。三人とも二周目は発言権がありません。あなたにも一度だけ白状する機会をあげます」
僕は怒りを込めて、しかし静かに問います。
「エ、エンツォの野郎にグフゥ・」
ヒュッという風切りがします。
男のノドに矢がはえます。
僕は頭を手で庇いながら、前のめりに伏せます。
矢の生えた男の体を抱え、僕の身体の上に被せます。
トスッ、トスッと矢の突き刺さる音が続きます。
しばらくして飛び道具の襲撃が止みます。
沈黙の時間が流れます。
注意深く、周囲の気配を探ります。
襲撃者の気配はありません。
ですが気は抜けません。
横になったまま、マジックバッグを探ります。
【軽業師の長盾】
守り+15
重量−100%
を取り出します。
慎重に長盾と男の体を入れ替えます。
もう一度、襲撃者の気配を探ります。
気配はありません。
盾の下で、身体をうつ伏せにします。
出来うる限りの低姿勢で立ち上がり、駆け出します。
左手で長盾を背中に貼り付け、背後をカバーします。
首から下げた【オリーブ古木の笛】魔力+10を吹きます。
しばらくして、街道の前方に砂煙が立ちます。
フォルトゥーナが全力で駆けて来ます。
フォルトゥーナが速度を緩め、僕の横をすり抜けます。
タイミングをはかり御者台に飛び乗ります。
「ありがとう、フォルトゥーナ」
一声掛けて、馬車を急旋回させます。
「フィレンツまで、あと少しのはずなんだ。全力で駆けてフォルトゥーナ」
「ヒヒィ〜ン」
フォルトゥーナが力強く嘶き、グングン加速します。
駆けながらニンジーノの言葉を思い出します。
「日頃は温和な性格で、いざって言う時は力を出す。賢い子でさぁ」
一対多の立ち回りを教えてくれたのもニンジーノです。
お土産案件です。
前方にフィレンツ街の南門が見えて来ます。
速度を落とします。
二人の門番に家紋を見せます。
「ヴェネート公爵家、トキン・ヴェネートです」
「ポーロ商会より、伺っております。どうぞお通り下さい」
「このまま直進して、ベッキオ橋を渡り、右手に見えて来ますベッキオ宮殿を目指しますと、ポーロ商会がありますシニョリーア広場となります」
紳士な態度の門番二人ににっこりで頷きます。
「お二人の礼儀正しい仕事ぶりに敬意を表します。ありがとう」
初めて見るフィレンツの街をフォルトゥーナと進みます。
御者台に座る、小さな僕を見て、街の人達は笑顔で道を譲ってくれます。
僕はフィレンツ侯爵とメディツ商会は嫌いです。
ですがフィレンツ街はとても素敵な所だと思います。
街が綺麗で通りも良く整備されています。
建物の色も明るくて元気が出ます。
聞いていた大きな橋を渡ります。
ヴェッキオ橋と言うそうです。
なんと橋の上にもお店があります。
小さな宝石店が何軒も並びます。
「フォルトゥーナ、フィレンツ街は大都会なんだね」
「ブルルルゥ」とフォルトゥーナが返事をします。
右手に大きな建物が見えて来ます。
あれがヴェッキオ宮殿だと思います。
あの宮殿はフィレンツ侯爵の住まいではなく、メディツ家の住まいらしいです。
シニョリーア広場に着きます。
まずはポーロ商会フィレンツ支店に挨拶です。
ガラス張りの扉を開けます。
「こんにちは、トキン・ヴェネートです」
店の奥から二十代前半に見える若者が現れます。
「トキン様、お待ちしておりました。店長のマルコです。どうぞこちらへ」
応接室に通されます。
若い店員が飲み物を出してくれます。
「ありがとう」
にっこりで声を掛けてジュースを口にします。
よく冷えたオレンジジュースです。
僕は小声で話します。
「マルコ店長、街の手前の街道で襲撃にあいました」
「なんとっ、襲撃とは。よくぞご無事で」
マルコ店長も小声で答えます。
「エンツォという名前に聞き覚えはありますか」
「フィレンツの街は大きいですから。おそらくこの街だけで、エンツォは何人もいると思います」
僕は頷きます。
マルコ店長が続けます。
「ただの偶然かもしれませんが、隣りのメディツ商会本店の店員にもエンツォはいます」
誤字報告ありがとうございます
定員→店員




