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迷宮都市の小さな鑑定屋さん。出張中です。  作者: ジン ロック
モンタルチーノ編
1/64

第一話 モンタルチーノ①

前作『迷宮都市の小さな鑑定屋さん。開店中です。』の続編となります。


よろしくお願いします。

 僕は今、トツカーナ伯爵領の領都シェーナから、南東へと伸びるフレンチーナ街道を走っています。


 トツカーナ地方特有の丘陵地帯がどこまでも続き、ブドウ畑とオリーブ畑が一面に広がってます。 


 そんなのどかな風景のなか、要塞都市モンタルチーノを目指して、暴走馬車に揺さぶられます。


 周囲の景色が高速で流れます。

 小石を拾った車輪が跳ね上がります。

 馬車の後輪がザザァーと音を立てて横に流れます。

 街道に出ていた野ウサギが、慌てて森の茂みに飛び込みます。


「ふぉふぉふぉ」


 六頭立て馬車の御者席には、ヴェネート公爵家別邸の、筆頭執事のジーヤがいます。

 ジーヤが高速馬車を操ると、暴走馬車になるようです。


 馬車の前列席には僕と、婚約者のソフィア・トツカーナ伯爵令嬢が座ります。

 後列席にソフィお付きのメイド、バーヤさんが座ってます。


 身体が左右に揺さぶられます。

 馬車の天井からぶら下がる、捕まり紐を必死になって握ります。


 そんな状況ですが、全員笑いっぱなしです。

 単純に高速で移動することが楽しいのです。

 高齢のバーヤさんまで声をあげて笑っています。


 僕が用意した【古代の逸品】も効いています。

 高速馬車移動対策アイテムの面々です。


春蓑虫ミノムシのバネ】

 振動耐性+25%


【若糸杉の癒し箱】

 疲労回復+20%

 振動耐性+20%


【小蜜蜂の陶置物】

 清浄+20%

 

 振動耐性は40%あります。

 疲労回復効果がお馬さんにまで効いてそうです。


 シェーナ街を出発して、まだ一時間半程です。

 それなのに前方の小高い丘の上に、モンタルチーノ要塞が見えてきます。


 一本道の街道を砂煙をあげて暴走馬車が駆け抜けます。

 三十分程たって、ようやく馬車の速度が落ちます。


 街の門をくぐります。

 モンタルチーノは要塞都市です。


 北東にアレッツォ子爵領、

 東にペルージャ伯爵領、

 という別派閥と領地を接しています。

 

 さらに北西のシェーナ街が攻められた場合、市民の避難先として選定されているそうです。

 

 元々はモンタルチーノ家でメイドをしていたバーヤさんが教えてくれます。

 ソフィのお母様であるヴィットーリア様が、トツカーナ伯爵家嫁入りの際に、一緒に移ったそうです。


 威圧感のある城壁を横に眺めながら、街中に入ると様子が一変します。


 緩やかな坂を登って街中を進みます。

 モンタルチーノは灰色の石畳と、薄茶色、灰色、焦茶色のレンガを使った色味の建物が、入り混じる街並みが続きます。

 

 道と階段が縦横に入り組んでいます。

 お散歩して素敵なお店と出会う。

 そんな楽しみを味わえそうな迷路の街でもあります。


 丘の上のポポロ広場前に建つ、プリオーリ宮殿に着きます。

 可愛い小さな広場と、細長くて面白い形の宮殿です。


 モンタルチーノ子爵、アンナ夫人、赤ちゃんのロッソ君と執事のソロさん、四人総出で迎えてくれます。


「トキン様、ソフィア嬢、ジーヤさんにバーヤ。ようこそお越し下さいました。歓迎致します」


 笑顔で挨拶を交わします。

 宮殿内に案内されます。


「狭い屋敷ですが、その分気兼ねなく、くつろいで下さいね」


 寝ているロッソ君を抱っこしながら、アンナ夫人が声をかけてくれます。


「馬車移動でお疲れでしょう。まずは飲み物で喉を潤してください」

 

 使い込まれた上品な椅子に腰掛けます。

 

 三つのグラスが並びます。

 僕とソフィには、よく冷えたブドウジュース。

 ジーヤには、年代物の高級赤ワイン「ブルネッロ」が振る舞われます。

 バーヤさんはモンタルチーノ家のメイドとして振る舞うようです。


 二階にある応接室の窓から外が見えます。


 プリオーリ宮殿から見渡す景色は、緩やか丘陵がどこまでも続いています。

 心穏やかに過ごせそうな、素敵な田舎町です。

 

「いいところですね、モンタルチーノ義叔父おじ様」


「私も大好きな場所よ」


「ワインは美味いし景色も良い。本当に良い所ですのぅ」


「温泉も癒されますわよ。お勧めですわ」


 四人でモンタルチーノの街を褒めます。


「はははっ、何もない所ですが、そう言っていただけると嬉しいですね」


「皆様にそう言っていただけると、なんだか凄くいい所に住んでる気になってきますわ。ふふふ」


 子爵夫妻が嬉しそうに笑います。

 

 ブドウジュースを飲み終えたタイミングでソフィに目配せします。

 ソフィがニコニコしながら頷きます。


「おじ様、おば様。私達の婚約祝いの返礼品を持ってきたの。ここで出していいかしら」

 

 小さな姪っ子からの提案に、子爵夫妻はニコニコしながら頷きます。


「トキン、お願い」


「うん」


 僕はマジックバッグから、毛布を十枚取り出します。

 一枚をソフィに手渡します。

 

「フランネル織物の毛布なの。触ってみて」


「あの高級毛布の?」

「えっ、名前だけは知ってるけど。これがそうなの?」


 夫妻は初めて見るようです。


「はい、鑑定済みです。本物のフランネル織物です」


「フフフ」


 やはり夫妻も、フランネル毛布を抱きしめたり、頬ずりしたりと、みんなと同じ反応をします。


「我が家のような、貧乏貴族がフランネル織物の毛布を持っていいのだろうか」


 子爵の感想に、皆声を出して笑います。


 返礼品フランネルは大好評です。

 特にアンナ夫人は大喜びです。

 僕もソフィもにっこりです。



 モンタルチーノ子爵の案内で、街の散歩に出かけます。

 僕とソフィの三人です。


 中央通りであるマッテオッティ通りの坂道を歩きます。

 高級赤ワインの産地だけあり、酒場が至る所にあります。

 

 それ以上に目立つのは空き店舗です。

 人通りも余りありません。

 すごく素敵な街なので、少し残念に感じます。


「ここが街唯一の小物雑貨店です」


 子爵が先に入り、案内してくれます。


「トキン様が来てくださる事になったので【古代の逸品】と思われる物だけ纏めてあります」


「ブルネッロおじ様、トキン様はやめてください。僕達は家族でしょう」


「はははっ、では思い切ってトキン君と呼ばせてもらいます」


 僕はにっこり頷きます。

 ソフィもニコニコしています。


「では【古代の逸品】を観ていきますね。ソフィ、銘と効果と価値のメモをお願いね」


「まかせて、トキン」

 

 モンタルチーノ領内には、鑑定士が居ないので僕が観ていきます。

 さすがは「小物雑貨ガラクタダンジョン」を領内に抱えるだけあります。

 四十点以上の【古代の逸品】があります。

 鑑定結果を次々と言っていきます。

 ソフィが羽ペンを走らせます。


「ブルネッロおじ様、凄いです。シェーナには一店舗で二十個以上の【逸品】を品揃えしてる店はありません。そこで提案があります」


 ブルネッロ・モンタルチーノ子爵が頷きます。


「このマッテオッティ通りの一部を『アンティーク通り』と銘打って【古代の逸品】の専門店を何店舗か始めませんか」


「そんな事が可能なのかい」


 僕はにっこり頷きます。


「そのつもりで僕の持っている【古代の逸品】百点以上をモンタルチーノに持ち込んでます」


「百点以上・・・」


「これを全てブルネッロおじ様に委託販売してもらいます。全て鑑定書を付けます。お店や店員の費用を差し引いて、残った利益を僕と半分こです」


「そんな。ありがたい話だけど、本当にそれで良いのかい」


 僕はにっこり頷きます。


「おじ様、トキンに任せてあげて」


 ソフィの援護射撃が入ります。

 ブルネッロおじ様が笑顔で頭を下げます。


「ありがとうございます。トキン君、ソフィア嬢」



 三人で手を繋いでプリオーリ宮殿に戻ります。

 

 ティータイムを挟んで温泉です。

明日7月26日より毎朝9時に予約投稿する予定です。

ストックが切れたら、ごめんなさい。

頑張ります。


番外編はランダムに投稿予定です。


ブックマークしてもらえると嬉しいです。

本作もよろしくお願いします。

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