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#X 花散れど尚。

更新遅れて本当に申し訳ありません……(平身低頭)

せめて週一のペースは取り戻して行きたい所存


 †


 時を刻む鐘の音が響き渡る。

 昼の無いこの世界において、数値で定められた時の重要性は高い。何故ならば、それ以外に時を知る術は無いのだから。

 鐘の音は十二回続き、そして静寂が戻った。


 静かになった屋敷のエントランス。複数人が思い思いに調度品を用意したせいでカオスを描いている空間で、堪えられなくなったかのように静寂が破られる。


「……あぁクソッ、俺様はあとどんだけ待てばいいんだ、ぁあ!?」


 ダン!! と、床が強く踏み鳴らされ、屋敷全体が震える。

 パラパラと落ちる埃を浴びながら、粗野な雰囲気を放つ金髪の青年は、更に苛立ちを募らせて舌打ちをした。


「なぁオイ〈アルカディア〉、これはどういうことだ? まさかとは思うが俺様喧嘩売られてんのか? だったら、臨むところだがなぁ!?」


「五月蝿いよ、〈シャングリラ〉。相変わらず知性のカケラも無いな」


 その姿に辟易した様子で、壁に寄りかかって腕組みをしていた緑髪の青年が溜息を吐く。


「少しくらい大人しくできないのか? 君みたいな奴がいると、理葬卿(パラディエ)の品位が疑われる」


 ガン! と、机が蹴り倒された。

 どうやらシャングリラにしては相当手加減しての行為らしく、哀れな机はなんとかその面影を残したままにバラバラの木片と化し、その生涯を終えた。


「おうコラ喧嘩売ってんのか? いいぜ言い値で買ってやる」


「まさか。君と一緒にするなよ」


 剣呑な空気があたりに満ちる。

 先に折れたのは、シャングリラの方だった。


「……チッ。やめだやめ。テメエとやり合ってもなんも楽しくねえんだよ」


 毒気の抜けた様子で、シャングリラはアルカディアの横で、壁にもたれかかった。


「っつーか、マジでなんで誰も来ねえんだよ。何考えてんのかわかんねえ〈エリュシオン〉の野郎や気ままな我らが〈ユートピア〉サマならともかく、〈エルドラド〉の坊ちゃんと〈エデン〉の奴は来てると思ったんだがなぁ?」


「さあね。俺には関係無いことだ」


「だよなぁ。……ハァ、俺様もう帰ってもいいか?」


「それを俺に聞かれてもね。確認するなら〈エデン〉にだろう。あいつが俺達を呼んだのだから」


「その当人が何で来て無ェんだよ!」


 再び屋敷が揺れる。

 ひとしきりストレスを発散して収まったのか、シャングリラはズルズルと背中を壁に引きずって、行儀悪くその場にしゃがみ込んだ。

 その様子を軽蔑した目で見てから、アルカディアは視線を正面扉の方へと向ける。

 空間の歪みと言えるような、僅かな違和感が扉に纏わりついていた。


「ほら、誰か来たようだよ」


「っ、マジか!」


 ギィ、と音を立てながら、扉が開かれる。

 不思議と、その向こう側は闇に包まれたかのように何も見えなかった。

 闇の中から、白髪の青年がバツの悪そうな顔でエントランスへと足を踏み入れる。


「その、すまない。遅くなってしまっ──」


 一陣の風が吹いた。

 一瞬遅れて、音がそれに追い付く。

 嵐のような破壊が止んだ後には、床に叩きつけられた白髪の青年と、その首を掴んだシャングリラだけが残った。


「遅れてくるたぁいい度胸だなァ、〈エルドラド〉。テメェがいつも言ってやがる『正義』とやらに反してるんじゃ無ェか、これは? あ"ぁ!?」


「……すまない。返す言葉もないよ」


「返せよ!? どう考えても理不尽だろうが! なんでそこで折れんだよ、この消化不良をどこに吐き出せってんだよ!?」


「それくらいにしておけ、〈シャングリラ〉」


 つかつかと歩み寄って来たアルカディアは、そう言いながらシャングリラの襟を掴み、無理矢理エルドラドから引き剥がした。

 エルドラドは上着の裾を軽く払うと、広間に乱雑に並べられた椅子の一つ──拘束用のベルトで彩られた、真っ白なそれ──に、腰をかける。


「それで、遅れた理由は?」


「……完全に、ぼくの個人的事情だ。言い訳はしない」


「言えない、か。まあいい」


 それだけ聞くと、アルカディアは再び壁際へと戻り、背中を預けた。


「まったく、どいつもこいつも遅刻遅刻。唯一間に合った〈シャングリラ〉に至っては知性のカケラも無い野蛮人。君達に誇りは無いのか?」


「見解の相違だね。時を定めるからこそ、それを破ることができる。それもひとつの美しさだろう?」


 どこからともなく声が響き、薔薇の花弁が舞う。

 何も無かったはずの空間。そこに薔薇の花弁が集まると、一陣の風と共にどこかへと霧散した。

 気付けば、そこには闇を抱えたような澱んだ目をした青年が、華美な装飾のなされたガーデンチェアに腰掛け、紅茶を啜っていた。

 彼は扉の方を一瞥すると、つまらなそうな表情を浮かべた。


「もっとも、傲慢さが理由であるならば、微塵も美しいとは思わないけれどね。そこは同意見かな?」


「……来ていたのか、〈エリュシオン〉」


「ああ来ていたとも、〈アルカディア〉。何せ私が蒔いた種だからね。不義理はできないだろう」


 肩をすくめて、エリュシオンは視線を落とした。


「趣味と実益を兼ねられると思ったんだけれどね。どうやらそれほど上手くはいかないようだ。まったく、ヒトというのは、常に私の想像を超えてくる。そんなところこそが美しいのだけれどね」


「そう、それだよそれ!」


 襟首を掴んだままのアルカディアの手を払い、シャングリラはエリュシオンへと詰め寄る。


「〈シャンバラ〉の野郎を殺して、オマエまで負かしたほどのニンゲンだろ!? なァ、どんなヤツだった!? っつーか、なんでオマエなんだよ、俺様が行きたかった! ああいや待て! 過ぎたことをとやかく言っても仕方ねえ。てかオマエとやりあうつもりはねえ。クソつまんねえし。〈アルカディア〉の方がまだ何倍もマシだ。つまりだな……ええと、俺様は何が言いたかったんだ?」


「相変わらず要領を得ないね。〈アルカディア〉、通訳を頼めるかな?」


「要は君が負けたという人間の話を聞きたいということだろう。そしてあわよくば次は自分が戦いたい、と」


「そう、それだ! やるじゃねえか〈アルカディア〉!」


「なるほどね。話すこと自体はやぶさかではないけれど……」


 チラと、エリュシオンは扉の方に再び視線を向ける。


「どうせ揃ってから話すんだ。二度手間になるだけじゃないかい?」


「そ・れ・が! いつになるんだよ!? どうしたんだよ〈エデン〉の野郎はマジで!?」


「さあねえ。彼には彼の事情があるんじゃないかい?」


「……来るようだよ」


 エルドラドのその言葉に、全員の視線が扉へと集まった。

 ギィ、と音を立てながら、扉が押し開けられる。


 そこから姿を現したのは、一組の男女。

 男の方は片眼鏡に燕尾服といった出立ちの黒髪の青年。

 そして、対する女の方は侍従(メイド)服を纏った青髪の少女だった。


「すまない。遅れてしまったようだ」


「遅えよ〈エデン〉。つか〈ユートピア〉はどうしたよ一緒じゃないのかよ誰だよそいつ」


「僕の部下ですよ。空気とでも思っていてください」


「あっそ。雑魚には興味ねーわ」


 冷めた様子で吐き捨てるシャングリラを他所に、、エデンは広間を見渡す。

 そこにいるのは、エデンの部下である青髪の少女を除いて五人。

 苛立ちに足を鳴らす金髪の男、〈シャングリラ〉。

 冷めた視線で壁に寄りかかる男、〈アルカディア〉。

 心ここに在らずといった様子の白髪の青年、〈エルドラド〉。

 貼り付けたような笑顔で周りを眺める青年、〈エリュシオン〉。

 そして、彼らを呼び付けた当人である〈エデン〉。


「さて。〈ユートピア〉ですが、泣き疲れて眠っているため、不在です。よって、これで理葬卿(パラディエ)全員が揃っているようですね」


「一人、足りていないよ。〈シャンバラ〉がいない」


 そう言って手を挙げたエリュシオンを一瞥して、エデンは溜息を吐く。


「彼がどうなったかは、ここにいる全員に伝えたはずですが」


「一応言っておこうと思ってね」


 特にそれ以上何かを言うことはなく、エリュシオンは口をつぐんだ。

 それを確認してから、改めてエデンは口を開く。


「では、改めて。今日皆さんに集まりいただいた理由ですが──」


 空気がシンと静まり返る。


「──僕達の脅威になりえる人間、それを確実に殺すための話し合いです」


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