第8話 前田慶次
滝川一益の仕官を許してから数日後。
「ほら、こっちだ」
一益が那古野城に男を一人連れて来た。
滝川利益だ。日本の歴史なら前田利久の養子に入り、前田慶次になる男。現在11歳。
19歳の一益は大人の体格だが、11歳の利益はそれより大きく筋肉質の大男だった。
しかも、赤い服を着てその上に魔物の青い革で出来た上着を羽織る。まさに傾奇者。素知らぬ顔で城を見ながら、一益に袖を引かれるままに付いてきた。
「利益、良く来てくれた。俺が織田吉法師だ。一益も早速の対応有り難う」
流れるような動作で跪き無言の利益。
「御意」
素早く跪いた一益。
「吉法師様の折角のお誘い、身に余る光栄に存じますが、我が主君は己自信で心から仕えたいお方を探す所存でおりましたので──」
「利益、お主の夢はなんだ?」
利益の口上を遮り問い掛けた。
「日の本一の傾奇者でござります」
俺の目をジッと見据える利益。
「おう、存分に傾いてくれ。お主の夢はそのままで構わん。利益、争いは好きか?」
「……」
俺の真意を探る様な目で無言の利益。
横の一益は頭を垂れたまま姿勢を崩さない。
「今の世の中は争いが溢れている。老いも若いも、男も女も、強き者も弱き者も、主の都合で強制的に合戦に巻き込まれ、弱い者、運の無い者が死んでいく。弱肉強食の時代」
「……」
「今の世の中は間違っている。俺は世の中の隅々まで争いの無い世界、天下泰平の世の中にする。しかし群雄割拠の世の中で言葉だけで従う者はおるまい。圧倒的な武を持って従わない者は制圧する必要があるだろう。『天下布武』を行うのだ。その為に一緒に戦ってくれる人材が欲しい。一緒に戦ってくれんか?」
「……将軍を担いで天下に号令すると言う事でしょうか」
「足利では駄目だ。号令程度ではこの世の隅々の合戦は無くならないぞ。今と変わらんだろう。奴らは五畿内が安定すれば後は無関心だ。足利にとって変わって、隅々まで平定するのだ」
「将軍を倒す……」
僅か10歳の吉法師、小国の地方領主の嫡男が、天下布武とは……。精々尾張統一の為と言われると思った利益。まさか天下をとるとは……、この世の大部分の者は考えられない壮大な夢。天下を狙う大国の領主でさえ、将軍足利を立てて天下に号令するのを夢見ているのに……。
「感服つかまりました。我が身を吉法師様の夢に捧げましょう」
「おお! 有り難う。宜しく頼む。ところで利益、お主の名はこれを機に『慶次』とする」
利益では、雰囲気が出ないからね。タイミングを見て前田慶次にしたいなぁ。
「承知つかまりました」
平伏する慶次。
「一益、甲賀二十一家と根来・雑賀の件、首尾はどうだ」
「甲賀は何人かは勧誘成功出来たでござるが……。根来衆と雑賀衆は会う事は可能ですが、吉法師様にご足労いただく必要が有り申す」
「ふむ、小国の地方領主の嫡男ごときでは上等だよ。甲賀郡がある近江国は六角家の領地だからねぇ。鉄砲の入手も必要だし会いに行こう」
「御意」
「ほっほっほ、白雲斎は呼び出せる事になったぞい」
果心居士が慶次と一益の後ろに現れた。
慶次が刀に手を添えて振り替える。額に汗を流して果心居士を見詰めた。
「ま、まさか、白雲斎様が来られるとは……」
一益は跪いたまま頭を垂れて目を見開く。
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