第79話 【無双の豪傑群】今川本隊崩壊と鬼柴田の戦慄
俺の号令に即座に応え、一騎当千の家臣たちが疾風怒濤の勢いで今川軍本隊の後方へとなだれ込んでいく。
殿を務める五十人の根来鉄砲隊は、すでに次弾の装填を完璧に完了させていた。疾走する神馬スレイプニルハーフの背上から、寸分の狂いもなく狙いを定め、猛烈な一斉射撃を叩きつける。
――ズドォォォォンッ! ズドドドドォォォンッ!
超長射程と圧倒的な命中精度を誇る最新型ライフルの弾丸が、今川軍の後陣を容赦なく穿つ。貫通力に優れたフルメタルジャケット弾は、最後尾の敵兵の鎧を紙切れのように易々と撃ち抜き、その背後に潜む兵までもまとめて削り取っていく。
混乱の渦中に叩き込まれた悪魔の遠距離攻撃。立ち込める濃密な硝煙を切り裂き、俺たちはスレイプニルハーフの圧倒的な馬力をもって敵の背後へ力任せに突入した。
突入と同時に、果心居士が長杖をひとなでし、精霊魔法の疾風を巻き起こす。視界を遮っていた真っ白な煙が一瞬で吹き飛ばされ、目の前には狼狽する敵の群れが赤裸々に晒された。
すさまず、背後から追従する鉄砲隊が二番隊、三番隊と交替で精密射撃を再砲撃。ズドン、ズドンと不気味な着弾音が響くたび、確実に五十人単位で敵の頭部が吹き飛び、陣列が崩壊していく。この時代ではあり得ない精密度を誇るライフルは、混戦の中でも味方を巻き込むことなく敵だけを的確に射殺していくのだ。
「フン……道をあけいッ!」
敵陣へ一番槍で乗り込んだ青山信昌と内藤勝介の二名が、寸分の無駄もない洗練された無言の剣技で敵を次々と討ち取っていく。
「キィエエエエエエエエッ!!!!!」
一際甲高い裂帛の気合と共に、池田恒興が愛刀を水平に一閃させた。放たれた極大の斬撃は、目の前の今川兵を重厚な鉄鎧ごと上下に真っ二つへと両断した。
「良し、完全に武術をものにしたぞッ!」
恒興は刃にこびりついた血糊をパッと豪快に振り払い、不敵な笑みを浮かべて次の獲物へと踊りかかった。
その隣では、朱色の長槍を縦横無尽に振り回す滝川慶次が縦横無尽に無双していた。槍で巨漢を叩き潰し、鋭い突きで喉元を穿ち、柄で顎を砕く。変幻自在の槍さばきが、今川兵を玩具のように翻弄していく。
「戦は武士の本分! 存分に死合いへ参られよッ!」
「か、カッコよすぎる……っ!」
自軍の壊滅を覚悟していた信行軍の若い足軽たちが、慶次の優雅で圧倒的な槍舞に見惚れて腰を抜かしている。
さらに、諸岡一羽の剣筋は息をのむほど華麗で鋭く、敵すらもその美しさに目を奪われたまま首を飛ばされていく。
「我が剣に迷いなし。ただ、眼前の敵を斬るのみ!」
林崎甚助が無言のまま影のように敵兵の合間を走り抜けると、すれ違った数人の敵の首が遅れて宙を舞った。甚助は振返りもせず、次の獲物へと静かに狙いを定める。
「うぉぉぉぉぉぉぉッ!」
鐘捲自斎が繰り出すのは、相手の骨ごと粉砕する剛猛無比な剣技だ。血飛沫を浴びながら豪快に斬り殺す姿に、今川兵たちは恐怖のあまり「ヒィッ」と悲鳴をあげて退散しようとする。
「怯えるなッ! 忠義の証を見せてみろッ!」
佐々木小次郎が無言で長刀『物干し竿』を軽く振り払えば、三人の首が同時に飛んで無数の屍が転がる。
そして、富田勢源。彼はまるで華麗な舞を踊るかのように敵陣を疾走していた。相手の筋肉の収縮と視線から次の動作を完璧に読み切る『魔眼』を駆使し、左右、斜め前へと自在に攻撃を回避しながら、すれ違いざまに首筋を刻んでいく。超越した絶技による無双だ。
「さあ、遠慮なく参られよ!」
「戦いは諸行無常。同じ戦術など二度とない……我が経験の糧となるため、全員で来なさい!」
愛州小七郎の一閃。次々と押し寄せる敵兵を前に、ただ一回刀が閃いたかと思えば、すでに目の前の敵は絶命して倒れていた。あまりにも早すぎる神速の居合術。
「す、すげぇぇぇッ! 刀がまったく見えなかったぞ!?」
「剣筋すら分からないなんて……化け物か!?」
呆然と立ち尽くす信行軍の若者たちに対し、愛州小七郎は優しく微笑みながら声をかけた。
「これこれ、君たち。戦場で気を抜いてはいけないよ。さあ、気合を入れて戦いなさい」
「うぉぉぉぉりゃぁぁぁぁッ!」
巨漢の杉谷善住坊は、巨大な鉄の棒を丸太のように振り回し、今川兵を鎧ごと肉塊へと変えていた。周囲から敵の影が消えると、彼はその鉄棒を構え直して遠くの敵を狙撃し、苦戦していた信行の兵を助け出した。
「おいおい、大丈夫かい? ちったぁ意地を見せて頑張りな!」
「あ、ありがとうございます! 助かりましたッ!」
「ガハハハハッ! 良いねぇ、実に良い! 死線の狭間で命の煌めきを見せてみろッ!」
バトル中毒の新免無二は、最も敵密度が高い激戦区へと狂喜乱舞しながら突き進んでいく。
「必殺……『暴風』ッ!」
無二が完成させた二刀流の極意。刀と十手が紡ぎ出す旋風が文字通り刃の嵐となって吹き荒れ、群がる今川兵を瞬時に切り刻んでいく。
「おッ? あそこに強そうな角兜の奴がいるじゃねえか! ガハハッ!」
無二は群がる雑兵をなぎ払いながら、今川軍の本陣近くで指揮を執っていた豪華な鎧の武将へ一直線に駆け寄った。
「な、何者だッ!? 妄動するな、儂は今川軍総大将――」
名乗りを上げようとした武将の言葉は、最後まで紡がれることはなかった。一瞬にして首が宙を舞う。
「ガハハッ! 戦場で口を動かす前に手を動かせってんだよッ!」
「無二さん! こいつ、今川軍の総大将ですよッ!」
血煙の中から、素早く動いていた木下藤吉郎がすばしっこく飛び出してきた。
「ガハハッ! 大将の割には手応えがさっぱりだったな! まあいい、討ち取った首は掲げておくとしようか!」
無二はボタボタと血を流す敵将の首を高く掲げ、腹の底から大声を張り上げた。
「ガハハハハッ! 敵の大将、この新免無二が討ち取ったりぁぁぁぁぁッ!」
その大音声が戦場に響き渡る頃、織田信光おじきの軍勢も今川軍の後方に合流した。大将を失い、前後から挟み撃ちにされた今川軍は、目に見えるほどの勢いで崩壊し、兵数を減らしていく。
「勝家! 助けに来たぞッ!」
俺は満身創痍で孤軍奮闘していた柴田勝家のもとへニルを乗り寄せ、爽やかに声をかけた。
「あ、ありがたい……! どこの誰かは知らんが、おかげで九死に一生を得たぞ! 後で相応の褒美を……っと、大うつけぇぇぇ!? 貴様かぁぁぁぁぁッ!」
勝家は目を見開き、金髪をなびかせる俺の顔を見て絶叫した。
「おいおい、決死の覚悟で救いに来た恩人に向かって『大うつけ』とは、随分な物言いじゃないか。戦場でなければ無礼打ちで首を刎ねているところだぞ! 言葉遣いには気をつけろよ?」
「な、に……ッ!?」
柴田勝家は激怒しようとしたが、次の瞬間、言葉を完全に失った。
俺と、俺率いる異次元の家臣団が、圧倒的な武威をもって二千の今川軍を赤子の手をひねるように蹂躙し、縦横無尽に無双していく絶望的なまでの強さを目の当たりにしたからだ。
(な……なんだあの強さは……!? 信長が、これほどの武力と精鋭を隠し持っていたというのか……!?)
血の気が引き、震える手で刀を握りしめながら、勝家の脳裏に激震が走る。
(これでは……これほどの怪物相手では、信行様が織田家の家督を継げる目などどこにもない……。俺は……本当に信行様を跡継ぎとして推し続けて良いのか……? 織田家の未来のためには、あの信長こそが当主に就くべきなのではないか……!?)




