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異世界戦国記~戦国の世に大うつけ者で戦闘スキルが無いと追い出されたけど天下布武やっちゃうよ~  作者: ボルトコボルト


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第34話 最凶の四蜘蛛と甘い誘惑

 地下二十階の広大な空間に張り巡らされた無数の蜘蛛の巣を見据えながら、俺は一行に向けて警告の言葉を続けた。


「そして二つ目は、先ほど無二を襲った凶悪な蜘蛛だ。上の女郎蜘蛛ばかりに気を取られていると、足元から突如として襲い掛かってくる。完全な初見殺しの罠だな」


「ああ、確かに危なかったぜ! いきなり足元から飛び出してきやがったからな、がはは!」


 新免無二は大太刀を肩に担ぎ直し、豪快に頭をかきながら笑い飛ばす。


「無二殿のような並外れたお力と反応速度がなければ、普通の者は一瞬で引きずり込まれて喰われておりますよ」


 木下藤吉郎が冷や汗を拭いながら、心底心配そうに無二を見つめて言った。


「あいつは『戸閉蜘蛛』と言ってな。地面に深い巣穴を掘り、糸と土を混ぜ合わせて作った完璧な蓋をして隠れているんだ。蓋の表面には周囲の土や岩がそのまま付着しているから、普通の目では周囲の地面と一切見分けがつかない」


「確かに、ありゃ分からんわ。まるで忍びの隠れ穴だな、がはは!」


「戸閉蜘蛛は獲物が目の前を通りかかった瞬間、その振動を察知して超高速で飛び出して獲物を捕まえ、一瞬で暗闇の巣穴へと引きずり込んで喰らう。鋭い牙には麻痺毒もあるから絶対に気を付けろ」


「無二さん、マジで危なかったっすね……」


「おうよ! 俺じゃ無ければ一瞬で胃袋行きだったな、がはは!」


 顔を見合わせて軽口を叩き合う池田恒興と新免無二。この二人は直情型で似たようなタイプということもあり、いつの間にかかなり仲良くなっているようだ。


「そして三つ目は『大土蜘蛛』……いわゆるタランチュラだ。体長は二メートルを超える大型の凶暴な怪物で、蜘蛛の巣の奥で淡々と獲物が近づくのを待ち構えている。厄介なのは、全身を覆う剛毛だ。あの毛には強い毒性があり、遠距離の敵に向かって凄まじい勢いに乗せて毛を飛ばしてくる」


「うひゃあ! 毛を飛ばしてくるとか、近付けないっすね!」


 恒興が嫌そうに顔を歪めながら無二に話しかける。


「なに、近づけないなら佐助にまとめて焼き尽くしてもらえばいいだろ、がはは!」


「おら、焼く」


 無二の言葉に応じるように、どこからともなく果心居士の影から猿飛佐助が現れた。佐助は一言短く告げると、再び気配を消して影の中へと没した。


「それに、大土蜘蛛は近付くと巨大で強力な鋏角で噛みついてくる。腕力も極めて強く、噛み傷から強力な毒を注入されるから警戒を怠るなよ」


「ますます近付きたくないっすね……」


「まあ普通なら近付けねぇだろうな。俺たち剣士にとっては天敵と言っていい。……だがまあ、俺には秘剣『暴風』があるから一閃で刻んで倒せるがな! がはは!」


「ちょっと無二。それって富田勢源様に編み出していただいた技でしょう? 秘剣とか気取ってるけど、ちっとも隠してないじゃないの」


 腕を組んでいた帰蝶が、呆れたように間髪入れずツッコミを入れた。


「な、なんだと! まだ完成形を誰にも見せてないんだから秘剣でいいだろうがぁ! まあ見たら腰抜かすなよ、がはは!」


「無二さん、それなら『秘剣』じゃなくて『必殺技』にしたらどうすか?」


「必殺技! いいなぁそれ! 男のロマン溢れる最高の響きだ、今日からそう呼ぶぜ! がはは!」


 呑気に盛り上がる恒興と無二を見て、俺は思わず苦笑した。気安い良いコンビになりつつある。


「……さて、そして最凶の四つ目だ。この階の最奥に鎮座する大ボス、『アラクネ』だ。巨大なタランチュラの胴体の上に、妖艶な女性の上半身が生えている。非常に高い知能を持ち、強力な魔法を操る上、毒毛や粘着糸も縦横無尽に放ってくる」


「うはぁ……想像しただけで気持ち悪くて最悪の化け物っすね……」


「へっ、まさに俺の必殺技のお披露目にうってつけの相手じゃねぇか! がはは!」


「そうそう。言っておくが、この階のモンスターも全員テイムするから殺すのは厳禁だぞ」


「えええええっ!? ここまで詳しく危険性を説明しておいて戦えねぇのかよ! これじゃ俺のレベ上げが出来ねぇじゃねぇかあああああ!」


 無二が頭を抱えて絶叫した。


「おいおい、お前らや家臣たちに払う十分な俸給を出さなくてもいいのか? それに今後、南蛮から最新式の鉄砲を大量に買い付けるための莫大な資金も必要なんだよ! アラクネは最高峰の織り手であり、配下の蜘蛛たちを完璧に統率できる。そしてその蜘蛛たちは、粘着性のない最高級の機織り用シルク糸を吐き出せるんだ。テイムして一大繊維産業を起こさない手があるか!」


「う……うぐぐ、そ、それを言われると……分かったよ……」


 俺が早口で捲し立てた現実的かつ圧倒的な正論に、無二は完全に降参して肩を落とした。


「まあ! 流石は吉法師様! 単なる武力だけでなく、領主としてそこまで先のことを見据えていらっしゃるなんて……素敵過ぎますわ! 本当に格好いい……また惚れ直しちゃった!」


 チュッ。


 歓声と共に帰蝶が俺の体に飛びつき、しなやかな片足を俺の腰に絡めながら、情熱的に頬へキスを贈ってきた。


 最近は帰蝶からの不意打ちのスキンシップにもだいぶ免疫がついてきたため、以前のように真っ赤になって固まることもない。胸の奥が温かくなり、素直に嬉しいと感じる余裕すらあった。


 平然を装い、クールに澄ました顔を決め込もうとした——次の瞬間だった。


 ペロ、と温かく湿った感触が耳たぶをくすぐった。

 そのままパクッと耳たぶを優しく噛み含められ、くちゅ、くちゅと艶めかしい音を立てながら、熱い舌先でなぞられる。


(っ……!? おいおいおい、これ以上は刺激が強すぎるだろ……!)


「あぅっ……き、帰蝶……こ、こんなみんなの目の前で、や、止めなさい……っ」


 耳元から脳へと直接響く甘美な刺激に、俺の理性の防壁は一瞬で崩壊した。必死に声の震えを抑えようとするものの、身体の力が抜けて顔がとろけそうになってしまう。


「ふふ、本当に止めてしまっても良いのですか? とっても気持ち良さそうな顔をしていらっしゃいますけれど……」


 帰蝶は吐息を直接耳の穴に吹きかけ、甘く吐息の混じった小声で囁いてくる。


(頼むから屋敷に帰って二人っきりになった時にやってくれ! 完全に遊ばれてるな、俺……!)


「……アニキ、顔がめちゃくちゃにやけて煮崩れてるっすよ」


 恒興の容赦ないツッコミが飛んできた。振り返ると、慶次も小次郎も藤吉郎も、みんな何とも言えない微妙な表情で俺と帰蝶のやり取りを見つめていた。


 こうして甘いハプニングを挟みつつも、作戦は完璧に遂行された。


 最下層の強力な蜘蛛たちは、果心居士先生が展開した広域の強力な催眠幻術によって全頭気絶させられ、そのままストレージへと安全に収納された。


 道を塞ぐ邪魔な蜘蛛の巣は佐助の仙術の炎で一網打尽に焼き払われ、最奥で待ち構えていた大ボス・アラクネも、俺のテイム能力の光の中に包み込まれてあっさりと配下となったのだった。


 こうして俺たちは、無限の資源と強力な戦力を手に入れ、『蟲の洞窟』を完全攻略したのである。

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