第10話 伊賀の仙人三太夫と超忍石川五右衛門の参戦
戸沢白雲斎が放った高度な仙術による広域転移によって、俺たちは一瞬にして伊賀の深山幽谷へと移動していた。
同行しているのは、仙人の白雲斎、アンデッド・リッチの果心居士、不敵な笑みを浮かべる傾奇者の慶次、そして小人族と人間のハーフである道士の佐助の四人だ。
目の前に広がっていたのは、深い霧に包まれた山頂の平坦な地にひっそりと存在する、隠れ里のような集落だった。
周囲の警戒を一切怠らないどころか、鼻歌交じりで気軽な足取りのまま里の敷地へと入っていく白雲斎と果心居士。そのすぐ後ろを、俺と相変わらず無表情な佐助が足音もなく続いていく。そして隊列の最後尾では、慶次がどこか暢気な様子で周囲の建物や景観を物珍しそうに見渡しながら歩いていた。
作業をしている里の住民や忍びらしき者たちの姿もちらほら見かけるのだが、彼らは俺たちの存在に誰一人として視線を向けず、手元の作業を止める気配すら見せない。
(なるほど……白雲斎の仙術か、あるいは果心居士の高度な魔術によって強力な認識阻害の結界が張られているんだな)
俺が心の中で納得した、その時だった。
「よう! 白雲斎じゃねえか!」
里の最深部に建つ、他よりも一回り大きな屋敷の奥から、白い修験装束に身を包んだ一人の老人が悠然と歩み出てきた。白雲斎とよく似た浮世離れした雰囲気を漂わせている。
「はっはっは! 三太夫、久しぶりだなぁ!」
白雲斎が右手をとんと上げて、親しげに声をかけた。
「果心居士まで一緒とは……一体どんな大層な用事だ?」
「はっはっは! 実に面白く、壮大な話があるのだ。ちょいと付き合え」
「ほう……後ろにいるその異質な面々の話かな?」
「はっはっは! そうそう、紹介しておこう。佐助は当然知っておるだろうから省略するが、尾張の織田吉法師殿と、甲賀の滝川慶次じゃ」
(あれ……俺、白雲斎に慶次のことを詳しく紹介したっけか? まあ、仙人だし千里眼か何かで見抜いていたのかもしれないな。細かいことは気にしないでおこう)
「初めまして。織田吉法師と申します」
俺がスッと姿勢を正して礼儀正しく挨拶すると、慶次も肩に担いだ朱柄の大槍を下ろすことなく、豪快に名を名乗った。
「まあまあ、立ち話も何だからな。屋敷の中に入ってくれや」
そう言うと老人は背を向け、俺たちを屋敷の内部へと手招きしながら案内してくれた。
格式高い和室に通され、出されたお茶を香ばしく啜りながら、白雲斎が俺たちの訪れた真の目的――すなわち「天下布武」のための協力について熱弁を振るってくれた。同時に、白雲斎からこの老人の正体についても詳しい説明があった。
この老人こそ、伊賀流忍術の開祖・百千三太夫。白雲斎と同じく、途方もない年月を生き抜いてきた本物の「仙人」であった。
しかも驚くべきことに、白雲斎が中国伝承における「闡教」の仙人であるのに対し、三太夫は「截教」の仙人なのだという。『封神演義』などの神話伝承のように両派が血で血を洗う対立をしているわけではなく、ここでは旧知の仲として互いを認め合っているようだ。
白雲斎も三太夫も、究極の忍術と真理を極めるには人間の短すぎる一生では到底時間が足りず、不老不死の領域を求めて修行を重ねた結果、仙人へと至ったらしい。
つまり、元の世界の歴史やフィクションの混同とは異なり、この異世界戦国においては「百千三太夫」と「百千丹波」は完全に別人物なのだ。百千三太夫は忍術の原点たる伝説の仙人であり、百千丹波は現世の伊賀を統括する実在の上忍なのである。
「儂も吉法師殿の手助けをしてやっても良いのだが……仙人というものは何かと仕事が多くてな。白雲斎と同様、常に側におり続けることは叶わん。代わりに、我が弟子の一人を使わすとしよう」
百千三太夫はそう言うと、手印を結んでボソボソと短い真言を呟いた。
ドロンッ!
漫画のように分かりやすい音とともに、三太夫の背後の空間に激しい白い煙が立ち込めた。煙がサッと晴れると、中からボサボサの黒髪をなびかせた、見上げるような大柄の男が姿を現した。
「……参上仕り候」
「五右衛門、お主はこれからこの吉法師殿に従い、仙術修行の一環として吉法師殿の宿願達成の手助けをしなさい」
三太夫が厳かに命じると、巨漢の男は重々しく頷いた。
「御意にござる」
「吉法師殿、この男の名は石川五右衛門。鬼の血を引くハーフ……いわゆる『鬼童丸』の末裔じゃ。佐助と同じく高度な仙術を修業中の道士であり、忍びとしても最高峰の腕を持つ。お主の掲げる天下布武の道筋において、必ずや大きな力となるであろう」
(石川五右衛門……!? あの天下の大泥棒にして、伝説の超忍五右衛門か!!! キターーーーーーーッ!!!)
俺の心の中で、二度目のメガトン級の歓喜が大爆発を起こした! 猿飛佐助に続き、石川五右衛門までもが十歳の俺の直属の部下として加わったのだ!
「五右衛門、俺が織田吉法師だ。これからよろしく頼むぞ!」
「御意にござる。この命、吉法師様のために捧げましょう」
低く重厚な声で誓う五右衛門。その巨体から溢れ出る圧倒的な威圧感は、慶次にも引きを取らない本物の武の塊だった。
「はっはっは! 良かったのう吉法師! さて三太夫、これからちょいと付き合ってくれい。現世の伊賀を仕切る三上忍どもにも、吉法師殿を直々に紹介するのだ」
白雲斎が嬉しそうに三太夫の肩を叩く。
「うむ、良かろう。久しぶりに山を下りるのも一興じゃな。五右衛門、行くぞ」
「御意」
「ほっほっほ、それでは始めに、百千丹波の屋敷へ向かうとしようか」
果心居士が杖を突きながら満足そうに頷き、俺たちはさらなる強力な配下を獲得するため、伊賀の上忍・百千丹波の元へと足を進めるのだった。




