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ヒセアム。
「ふざけおって、あのメスガキ……!」
苛立ちのままに拳を振り下ろす。
先程城を去った2人の女を思い出す。
使えない特殊能力の持ち主など、レイス神に儂ら選ばれた人間に奉仕するのが当たり前なのだ。それを、小癪にも儂の能力に抵抗し、城を飛び出すなど……!
許されない。
許されるはずがない。
貴様らなど、儂の手のひらの上で転がっていれば良いのだ!
言われるがままに体を差し出し、その身の一片まで使われるのが正しいあり方だというのに! それを……それを!!
断じて、許されてはならない。
更には桐谷という勇者のまとめ役だ!
偉大なるレイス神に選ばれておきながら、あの態度! 栄誉にむせび泣きながら拝命し、身を粉にして勇者の任を全うすべきであろう! それが無能をかばうだと……?
先程の言動を思い出す。
怒りに満ちた表情、与えられた能力を交渉材料とする許しがたい暴挙。
そして言うに事欠いて、無能が儂らよりも役立つと来た。
「がああ!」
怒りに任せ、腕を振り下ろす。風が巻き起こり、破壊音とともに豪奢なソファが真っ二つになった。
「何か……」
『黙れ!』
「っ、うぅ……」
扉の向こうからのうめき声で、ようやく冷静さを取り戻す。
扉を開けると、喉を抑えて蹲り、口をパクパクとさせるメイドの姿があった。美しい女性の無様な姿に、嗜虐的な欲求がこみ上げる。
「……『話してよい』ぞ」
「は、あぁ……失礼、しました……」
「うむ」
平伏するメイドを見て、満足感を覚える。
これが正しい姿だ。
このメイドの持つ能力は、衣類の汚れを落とす力、だったか。大貴族の娘で多額の資金を費やして調べた能力だったが、度し難いほどに役立たず。
故に踏みつけられる。
それが真理なのだ。
有用な能力を持たない者は、等しく、高貴なる者に奉仕するべきなのだ。
「……だが、見目だけは良かった。殺すのはもったいないの」
ビクリと身を竦ませるメイドには、既に興味が失せている。片手を振って追い払い、思索に耽る。
「……ふむ。悪くないな」
あの生意気なガキ2人が平伏し、地に頭を擦り付け、涙を流しながら許しを請う。泣き、叫びながら体を蹂躙され、美しい体を汚される。最後には、目から光が失われるまで凌辱された後、どこぞの変態貴族にでも売り払ってやろう。
……うむ。
良い。
方法などいくらでもあるのだ。
にやりと唇が歪む。
「ソロウを呼べ」
聞きつけた使用人が慌てて走り去るのを見ながら、脳裏には首輪に繋がれ、悔しそうに顔を歪ませる無能2人の姿が浮かんでいた。
やってきた太った男、ソロウに対し、命ずる。
「トウミ、アオイという女を捕らえよ。お前の特殊能力で隷属させ、我が前に連れて来い」
「御意に」
ソロウはひび割れた声で了承の返事をする。
王国の闇が動き出した。