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担任の桐谷目線。
東御英佳は問題の多い生徒だ。
確かに美点も多い。全国屈指の明晰な頭脳、一線級のアイドルよりも優れた容姿、運動神経も決して悪くない。
スペックだけで見れば、彼女のそれは、まさしく天才のそれなのだ。
だからこそ……欠点が際立つ。
極端な自己中心主義と合理主義。それを自覚しつつ、直そうとしない性格。
普通の人がもてば「小賢しい」程度ですむのだが、東御ほどのスペックの持ち主がこれをやってしまうと、大変なことになる。
普通ならば超えない一線を、彼女は簡単に超えてしまう。
彼女がBクラスに編入することとなったあ11月の事件に関しても、そうだ。発端はどこにでもある話。容姿の優れた東御にちょっかいをかけた男子がいたという、微笑ましいで終わる青春の一幕。失恋もまた経験だろう……などと、それを見ていた担任は思っていたという。
問題は、その相手が東御だったことだ。
……いや、それは結果論か。少なくとも当時、東御の本性を知っている人間はいなかったのだから。
東御の反応は激烈だったらしい。
彼女は、ちょっかいをかけた男子に対し、冷たい視線と心を叩き折る言葉の暴力で以って対応した。人格否定にまで及んだ罵倒に当然男子は怒り、手を挙げ……それが偶然、東御の胸に当たってしまった。
避けようとしたらたまたま、というのが彼女の弁だが、見ていた生徒の中には、意図的に当たりに行ったように見えた、と言う人もいる。
東御ならしかねないな、とも思ってしまう。
その後の東御は報復とばかりに行動を開始した。フリーアドレスから男子生徒を呼び出して罠に嵌め、その証拠をばら撒いて社会的に抹殺。男子生徒は転校を余儀なくされた。
東御自身もBクラスに、言葉を選ばず言うなら降格されたが……なんら痛痒を感じていないようだ。
校長は俺に、東御の更生を期待していたようだが……何度か面談を繰り返してみて、無理だろうというのが今のところの俺の結論だ。何よりもまず、本人が望んでいないのだ。
とはいえ、それ以降の東御は特に問題を起こしていない。残念ながら事件の噂が出回ってしまい、友人はおろか話し相手すらいない現状だが、本人はそれでいいらしい。
本音を言えばクラスに馴染んで欲しいとは思うが、東御本人がそれを選んだのであれば仕方ないことだろう。静かに残りの1年半を過ごせるのなら、見守るつもりだ。
……だった。
突如起こった勇者召喚が、その目論見をぶち壊しにした。
しかも彼女が受け取った『演算』は、この国では最底辺の評価を受ける純情報系能力。それを知ったローレンス王国の者たちは、一瞬で手のひらを返した。
大切な生徒たちを戦わせようとするのも気にくわないが、そちらはヒセアムとかいうジジイにうまく誘導されてしまった。
それは仕方ない。
この後の対応でうまく立ち回るしかないだろう。
だが、そちらの都合で召喚して、役に立たないから下働きだと!?
舐めているのか!!
得られた特殊能力に歓喜する生徒たちを宥めながら、胸中には怒りが満ちていく。
流石の東御も、味方も情報もないこの状況では為す術がないだろう。
手の届くところに居てくれさえすれば、なんとか守れる。問題が多かろうが、お前も俺の生徒なんだ。こんなときくらいは守られていてくれ。
翌朝、ヒセアムのところに抗議に行った時。
俺は、東御と蒼井が既に城を出て行ったことを知った。
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