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 そこからの流れはお約束通りだった。

 威厳溢れる国王、美しい王女に頭を下げられた彼らはさらに興奮を増していた。私の胸中を満たす苛立ちとは正反対に、楽しそうに自分に酔っている。


 きっと彼らは気付かない。


 桐谷が、なぜあんなに言葉を選び、慎重に立ち回ったのかに。

 ヒセアムが、なぜあんなに低い姿勢を見せたのかに。

 国王が、勇ましい言葉を聞くたびに唇の端を釣り上げている理由に。




 なぜこんなに、普段よりも感情が波打つのかに。




 明らかにおかしいだろう?

 突然連れてこられた、何も知らない場所で、得体の知れない老人の話を一から十まで信じ込む?

 いくら世間知らずの高校生だからといっても、流石にそれはない。……8割くらいは信じる人がいるかも知れないが、1人2人は気が付くだろう。

 それが、私と桐谷以外の全員が、何も疑わない?


 あり得ない。


 その程度には、私はクラスメイトを評価している。

 そして最もあり得ないのは、私が、この私が、ヒセアムや国王の話を聞いて、『ほんの僅かでも助けてやろうという気になっていること』だ。


 私が?

 誰かを助けようなどと思う?


 あるわけがないだろう。


 あり得ないことが起きている。

 ならば原因がどこかにあるはずだ。


 それは、人為的な何かだ。相手側にとって都合が良すぎる。魔術だか特殊能力だか知らないが、何か得体の知れない力の干渉を受けているのだ。

 歓迎しているように見せて、裏では操ろうと仕掛けてくる相手など、信用できるわけがないだろう?


 とはいえ、私1人が反対したところで流れは変わらない。

 残念ながら、人間関係を切り捨ててきた私に、クラスを動かす力はないのだ。

 昼休みに桐谷と話したことが脳裏を過ぎる。私が、クラスに馴染む努力を少しでもしていれば、何か変わったのだろうか。


 ……意味のない考えだな。

 ゆるく頭を振って、思考を追い出す。


 視線の先では、苦い表情の桐谷と満面の笑みの国王が握手を交わしている。

 肝心のクラスメイトがああなってしまっては、そうする他ないのだろう。


「それでは勇者様がた、特殊能力をお調べいたします。こちらにいらしてくだされ」


 ヒセアムが水晶玉を持って立っている。


「これは鑑定球と申しましてな。特殊能力を調べるための魔道具なのですよ。非常に貴重なものですが、勇者様がたのためであれば、喜んでお使い致しましょう」


「特殊能力って自分じゃわからないの?」


「ええ、その通りです。通常は何かの拍子に発動することを待つことになります。大いなるレイス神は全ての人に特殊能力をお与えになりましたが、それが役に立つのかは分かりませぬ。ましてやそれを調べるこの鑑定球は非常に貴重なもの、有望と確認された者だけが、使うことを許されるのです。それは貴族ですら例外ではありません」


 貴族でも自分の特殊能力を知らない者はいるのですよ、と告げると話を聴いている彼らの顔には嬉しそうな笑みが浮かぶ。

 ヒセアムの言葉の選び方は非常にうまい。疑問を持っていれば、貴方達は勇者は貴族よりも優遇されているのだ、というように受け取るだろう。


 しかし、疑っていれば、こうも取れる。

 特殊能力の強力さと、政治的な立場は別物である、と。

 どちらが正解かなどわからない。

 確かめるわけにもいかない。

 今できるのは、最大限警戒しながら、情報を漏らさないように、言質を取られないようにするだけだ。


「さて、では特殊能力をお調べいたしましょう。お名前をいただけますかな?」


「赤崎だ! 赤崎裕也!」


「ではアカサキ様。どうぞ」


 赤崎が水晶玉に手をかざすと、それは燃えるように赤い光を発し、やがて内部に文字を浮かべた。

 ……読めない。ロシア語か、はたまたルーン文字のような、まったく見知らぬ文字だった。


「なんて書いてあるんだ?」


「文字も教えなければなりませんな。……ふむ、素晴らしい! 『火炎』の能力です!」


 おお……と広間がざわめく。国王が睨み付けるとすぐに静まったが、興奮したような雰囲気は馬に残っていた。

 火炎か。見事に戦闘向きの特殊能力だ。

 赤崎が手を掲げ、叫ぶ。


「炎よ! 焼き尽くせ!」


 次の瞬間、目を焼くような赤と、灼熱が肌を突き刺した。

 ゴウ……と炎が吹き荒れ、火の粉を散らす。


「すげぇ! これが俺の力か!」


「見事な『火炎』でした、勇者アカサキ様」


 興奮の波が生徒を襲う。

 あんな力が自分の中にも……! どこか空想の世界だった勇者召喚が、まぎれもない現実なのだと、今、赤崎が証明してみせたのだ。


「次は俺が!」


「お名前を」


「榎本和樹だ!」


 水晶が示した能力は、「植物操作』。彼が鉢植えの花に触れると、落ちた花弁は毒となり絨毯を溶かし、葉は刃となって石を切り裂き、根は水を吸い上げて地面を干からびさせた。


 氷室 佳奈という生徒が示したのは『凍結』。地面を凍て付かせ、一瞬でその場にいた全員の動きを封じてみせた。


 佐藤 葉月は『超直感』。一瞬先の未来を知覚するその能力によって、不意をついて接近した騎士の鋭い一撃を、見事に避けてみせた。


「さすがは勇者様! 皆さま非常に強力な能力が多く、頼もしい限りです……ん?」


 不穏な空気となったのは、その時だった。


「おやおや……『千里眼』。遠くを見るだけの能力です。望遠鏡で十分代用が効く、つまらぬ力ですな」


「え……あ……」


 言われたのは、蒼井 遥という女子生徒。気弱で、クラス内でもカーストの下位に位置する少女だ。ヒセアムの言葉に戸惑い、泣きそうになっている。


「まあ、勇者様といえど、全員が強力な能力を持っているとは限らぬようですな……最後は貴女ですか」


「東御 英佳」


「ではトウミ様。どうぞ」


 手を水晶にかざす。

 浮かび上がった文字を読んだヒセアムはーーーー


 声を上げて笑った。


「ふはははははは! 2人続けて無能とは!」


 好々爺然としていた表情は彼方に消え去り、代わりに侮蔑の視線を向けて彼は告げる。


「能力は『演算』。間違った結論ばかり吐き出す、無い方がマシな力です」

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