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 ニコニコと嬉しそうなミティが連れてきたのは、屋台通りの端にあるボロボロの店だった。正直、飲食店には見えない。

 ……不潔そうね。

 そんな不満は表情に出ていたらしい。

 ミティに苦笑いされた。


「みんなそんな顔するんだけどね。味はこの辺りじゃ1番だと思うよ」


「そうなの」


 まあ……期待しないでおこう。

 イギリスに行った時に食べた食事はまあ酷かった。あれよりマシだと嬉しいかな。

 ガチャリと扉が開く。


「…………え?」


 見間違いだろうか。目をこすってもう一度開く。

 見間違いじゃなかった。

 驚きだ。

 意外と綺麗。そして清潔だ。

 外装とはうって異なり、こざっぱりとした食堂が姿を現した。


「なかなかのもんでしょ」


「なんでミティが偉そうなの」


「何を隠そう、あたしのお姉ちゃんのお店なのだ!」


 えへんと胸を張ったミティの頭がポンの叩かれる。


「いらっしゃいませ。……ミティ、よく来たわね」


「アイシャ!」


 嬉しそうに笑うミティの頭を撫で、アイシャと呼ばれた女性はこちらに向き直った。

 ……うん。磨けば光る、って感じ。

 顔の作りは悪くない。愛嬌もある。けど、手入れをする余裕と文化がないのだろう。

 もちろん飲食店で働いているわけだから最低限清潔にはしているのだけれど、それだけだ。


「ミティの姉貴分のアイシャです。ご来店ありがとうございます。……ご案内しますね」


 にっこりと可愛らしく笑ったアイシャに案内され、席に着いた。


「メニューです。文字は……ミティがいるなら大丈夫ね」


「任せて! 何にしよっかなー!」


 うきうきとしているミティに一言告げる。


「食事代は払わないわよ」


「えっ!?」


 愕然とするミティ。


「当たり前でしょう。マージンだけで満足しなさい」


 どうせもらっているんでしょう? とアイシャに視線を向けると、苦笑いを浮かべた。


「バレてるわね」


「むぅ……仕方ない」


 ミティが不貞腐れた表情を浮かべる。


「料理はどう頼めばいいの?」


「あ……そういえばメニューがない」


 遥、今更か。


「あっても読める人いないしねえ。アイシャ?」


「そうだね。普段出してるメニューは一通りあるよ。おススメはお肉かな。いいのが入ったよ」


「お! じゃあそれで! 3人分!」


 はーい、と機嫌の良い声を上げてアイシャは厨房へと下がっていった。


「というか適当に頼んじゃったけど、苦手なものとかなかった?」


 慌てた様子でミティが確認してくる。

 苦手なもの、ねぇ。

 ないわけじゃないけれど、こっちの世界で何ていうのか知らないし、あるかどうかもわからない。というかあんなものを食べる国などイギリスくらいしかないでしょうね。


「極端な味付けでなければ、特に問題はないわ」


「私も、大丈夫」


 私たちの返答に、ミティはホッとした表情を見せた。


「良かった! お金持ちの人が食べるものって知らないからさ、その辺よく分からないんだよね」


「ああ、そういうこと」


 ニヤリと唇の端を持ち上げる。ミティがびくっと身を竦ませた。


「私たち、その辺の基準は結構高いわよ」


「「ええ!?」」


 なぜ遥が驚くのか。

 ミティも同じ感想を抱いたらしく、遥に怪訝な視線を向けた。


「いや、私は、そんなに高くないと思うけど……」


「自覚しなさい、遥。現代日本の食生活が、ここと比べてどれだけ充実していると思うの?」


「う」


 そう言われて、遥も納得したらしい。

 実際、21世紀の世界の中でも、日本の食事水準は極めて高いのだ。五百円ワンコインで提供される昼食のために地球の裏側から食材を運んでくる日本人の姿勢はまさに、変態の名にふさわしい。

 利益を享受しているばかりの私たちが言うことでもないけれど、本当にあのこだわりはどこからくるのだろうか。


「ま、文句言われても、あたしが知ってるようなとこじゃここ以上はないからどうしようもないんだけどね!」


 あっけらかんと笑うミティ。


「けどま、実際に美味しいと思うよー」


 楽しみにしててよ、と笑うその様子からは、彼女が心からそう思っていることが伝わってくる。思わず、私は唇の端を笑みの形に持ち上げた。


「ミティって」


「んー?」


「アイシャのこと好きなのね?」


「えっ」


 ミティの口がぽかんと開く。

 ……ん? 何か、変な意味に伝わったか。


「いや、恋愛的な意味ではなく。というか同性でしょうが」


「あ、ああ、うん。分かった、理解した」


 そして遥。なぜ貴女はちょっとがっかりした表情をしているの?

 ジットリとした視線を送ってやると、遥は気まずそうに視線を逸らした。


「で?」


「えっと。そりゃお姉ちゃんだからさ、好きに決まってるよ」


 そう言ったミティのはにかんだ顔は、とても可愛らしい。


「アイシャさんも、姉貴分だと言っていたわね。どういう意味なの?」


「ああ、そのこと? あたしらはスラム育ちでさ。年が上の孤児仲間にいろいろと教わったりするわけなんだけど、あたしがすっごくお世話になったのがアイシャだったんだよ。物心ついた時から一緒にいたし、いっぱい助けてもらったから、あたしにとってはお姉ちゃんみたいなもんなわけ」


「なるほどね」


 ミティの説明に納得し、頷く。

 そうか。予想通り、2人はスラム育ちで孤児なわけだ。

 つまり、面倒なしがらみは、ない。


「というか、どうしたの、突然?」


「いえ、別に」


 じっとミティの顔を見つめる。そして、タイミングを見計らって視線を逸らした。


「その……」


「おまたせしました!」


 トン、とテーブルに何かが置かれる音。肉が焼ける良い匂いが、皿から漂ってくる。

 顔を上げると、アイシャが料理を持って立っていた。


「お肉料理3人前です、どうぞ」


「ああ、ありがとう。……とりあえず、食べましょうか」


 微妙な空気を発散するかのように、私は両手を合わせた。

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