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秋に芽が出て育つ恋  作者: 美雪


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50 土曜日 秋の仮面舞踏会

 こんばんは。令和になってようやく更新できました!

 これからもコツコツ頑張りますのでよろしくお願い致します!


「間に合わないと思っていました」


 ファーストダンスが始まると、カミーラが小声で言った。


「さすがに仮面を用意する時間はなかったようですね」


 ベルの仮面は王立歌劇場の方で用意し、到着時に渡されると聞いていた。だが、実際には移動に使用する特別な馬車の中に用意されていた。


 カミーラは遅れて来るベルの仮面を持って入場し、ベルの席に置いていた。


「慌ててつけたから曲がっていない?」


 ベルは拍手に紛れて深く礼しつつ、椅子の上にあった仮面を素早くつけ、何食わぬ顔でまた姿勢を直した。


「大丈夫です」

「この仮面のリボン、凄く手触りがいいわね」


 ベルはいつも自分で仮面を用意するため、王立歌劇場の仮面を使用するのは初めてだった。


 用意されていたのは目元だけを隠すタイプのもので、両端についているリボンを頭の後ろで結ぶタイプだった。


 古くからよくあるタイプだが、特徴的なのは仮面をつけるためのリボンが太いことだった。


 光沢が艶やかな幅広のリボンは最高級の絹で手触りがよく、端の部分には上品な刺繍と飾りのチャームが取り付けられている。


 普通であればできるだけ目立たなくするリボンを美しく飾って目立たせ、髪にあしらうお洒落の一部にしてしまう趣向だ。


「これは王立歌劇場で一般に貸し出されるものとは違うものです。王族の側近や関係者用で、仮面のリボンの装飾がより豪華で、特別な者であることをあらわすマークが入っています。この仮面を被っていれば特別な身分や階級の者だとわかるため、王立歌劇場の係員や警備は対応がよくなるそうです」

「便利ね」

「何か頼む際、いちいち身分証や階級証を確認するのは手間も時間もかかります。円滑に対処するための配慮でしょう」

「王立歌劇場は細かい部分まで気を遣っているからいいわね。王宮よりも便利かも」

「そう思う者達は多くいます。だからこそ、第二王子の評判も上がるわけです」

「そうかもね」

「聞いておくことがあります。食事は取りましたか?」

「お弁当を食べたから大丈夫よ」

「お弁当?」


 カミーラは険しい表情になった。


 カミーラは今夜の予定についてヘンデルの元に行った後で王子府の方に立ち寄り、シャペルを呼び出した。


 そして、女性用の馬車の出発時間が早まってしまったこと、今夜は多くの者達がいるせいで移動しにくいことが予想され、もしかすると乗り遅れてしまう女性がいるかもしれない。その場合はシャペルの個人馬車を貸して欲しいと交渉した。


 シャペルはなぜヘンデルの馬車を借りないのかや自分に伝えるのか不思議がったものの、兄は自分の馬車を妹であっても貸さない、こういった案件は序列の低い側近が担当すべきというカミーラの言葉を信じ、カミーラ達の誰かが乗り遅れた場合、緊急用の馬車をシャペルが手配するという約束をもぎ取った。


 カミーラがこのような交渉をシャペルとしたのは、ベルとシャペルが話をする機会を作るためだった。


 カミーラはベルに出発時間が早まったことをうっかり伝え忘れる。


 ベルは待ち合わせの時間よりも前に来るタイプではない。時間ギリギリあるいはぴったりに来るタイプだ。つまり、ベルは間に合うと思ってくるものの、実際は必ず乗り遅れる。


 そこへ遅れて出発する馬車に乗る序列の低い側近達が来る。シャペルも。


 ベルが一人だけ取り残されて困っていれば、シャペルが助けるに決まっている。


 ベル一人を緊急用の馬車に乗せるわけがない。自分の個人馬車を用意させ、二人で王立歌劇場に向かおうとするに決まっている。


 数十分ではあるものの、ベルとシャペルは馬車の中に二人きりになる。


 ベルの性格や今の状態を考えれば、黙っていることも愛想笑いを浮かべてやり過ごすこともできない。必ず話をするだろうという予想だった。


「まさかとは思いますが、第二か第三の側近用の馬車に乗ってきたのですか?」


 だとしたら、シャペルはどうしようもないヘタレです!


 怒りのオーラを必死に堪えて表面に出さないようにしたつもりだったが、ベルはカミーラが怒っているのを察知した。


「違うわ! 偶然シャペルと会って……乗り遅れたことを話したら馬車で送ってくれたの。側近の登録をしている馬車の方が早く到着するからって。その時、シャペルの同僚の人がお弁当を二つくれたのよ。サンドイッチの」

「そうでしたか」


 シャペルはカミーラの計画通りに動いた。しかし、シャペルの同僚が弁当を渡すことまでは考えていなかった。


 これでは馬車の中で弁当を食べるだけで時間切れになり、話し合いはできなかったのかもしれない。


 カミーラは詰めの甘さを反省した。


「私もお弁当を食べました。サンドイッチではありませんでしたが」

「それって」


 ベルは小声で話していたが、より声をひそめた。


「ウェストランドの弁当?」

「そうです。元々、女性用の馬車には何も用意されていませんでした。お兄様がそのことに気付き、人数分の軽食弁当と飲み物を手配してくださったのです」


 ヘンデルはキルヒウス達だけでなく、女性達からの評価についてもしっかりと考え、配慮していた。


「二種類あり、サンドイッチのものとパンケーキのものがありました」

「パンケーキですって?!」


 ベルはてっきりウェストランドの弁当もサンドイッチだと思っていた。


「お兄様の大好物じゃない! なのに、譲ってくれたの?!」


 ヘンデルの好物はパンケーキだった。


「中身を知らなかったのだと思います。厳重にリボンで縛ってありましたので」

「知っていたら絶対に譲ってくれなかったわね」

「開封前に、好きな方を選ぶという形にしました。結局、また手配するのが難しそうな方ということになり、私は第二王子の側近用弁当を、ラブ達は王太子の側近用の弁当を選びました」

「美味しかった?」

「美味しかったです。ですが、サンドイッチも大絶賛されていました」

「噂通りの最高級サンドイッチね。物凄く美味しかったわ」

「私はカフェで食べたことがあります」

「えっ、そうなの?!」


 ベルはカミーラの外出先はほぼ把握していると思っていたが、ウォータール・パーク美術館に行ったことがあることやカフェで食事をした経験があることは知らなかった。


「誰と出かけたの?」

「秘密です」


 ということは、両親に内緒で外出したデートね。


 ベルは即座に察した。


「ですが、キノコやチョコレートの具材は知りませんでした。メニューが変更されたのか、季節感を取り入れた特別な具材のようです」

「とにかく美味しいとしか言いようがないわ。あんなサンドイッチ、食べたことがないもの」

「リーナ様を通してレーベルオード子爵に頼めば、また食べる機会が作れそうです」


 シャペルと同じことを考えている、とベルは思った。


「業務連絡です。王宮で私達の姿が見えなかったため、リーナ様が少し心配しているようです。サードワルツが終わったら、急いで王族席の間に移動することになりました」

「サードワルツの後?」


 事前の話では、リーナと王太子は一時間ほど王立歌劇場で過ごすことになっていた。


「化粧室に行く時間を取るため、同行するようにと」

「ああ、なるほどね。男性は中まで行けないものね」

「そういうことです」




 サードワルツが終わった。


 ベルはカミーラと共に急いで王族席の間に向かった。


 二人が移動している間にリーナはバルコニーから一時的に部屋の方へ移っていた。また、シャルゴット姉妹だけでなく、リーナの同行役として招集された月明会のメンバーも揃っていた。


「揃ったから説明を始める」


 ヘンデルは王立歌劇場の女性の責任者を紹介した。


 ベルもカミーラも知っているが、王立歌劇場で女性に関すること全てを扱う責任者はアイリーンとマルケーザ。


 二人は第二王子の友人で非公式の女性側近に名を連ねている。


 リーナは王太子の婚約者ではあるものの、婚姻の日まで一カ月を切った。


 そこで、今回は王家の女性専用の化粧室がどこにあるのか、どのような施設なのかを説明しつつ案内し、検分あるいは使用して確認するという機会を設けることになった。


 これは王家の女性だけの待遇を事実上前倒しするものだった。


 説明が終わると、次は化粧室へ移動する。


 王家の女性専用の化粧室は、化粧室とは思えないような場所だった。


 天井は高く、通常の手前にある待合室の三倍ほどの広さがある。パーティーができるほどの広い空間だ。


 そこに豪華なソファセットや鏡台が複数あり、正妃や側妃が場所を変えてくつろいだり化粧や身支度を整え直したりできるようになっている。


 今の王家の女性の数は少ないが、人数が多くても全員がこの化粧室を快適に使用するための配慮だと思われた。


 また、壁際には棚があり、様々な化粧品が整然と陳列されていた。


 その様子は化粧品を扱う店のディスプレイというよりも、美術館の展示品ではないかと思えるほど、凝った細工の容器が美しい。


 さすが王家の女性専用の化粧室ね……見たことがないほど豪華で贅沢だわ!!!


 ベルは心から驚くしかなかった。


 そして、この化粧室を使用できる王家の女性は凄いと思いつつも、その感覚にはついていけないような気がした。



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