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秋に芽が出て育つ恋  作者: 美雪


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47 土曜日 ベルの失敗

 時間がない!!!


 ベルは焦っていた。


 友人達との会話が盛り上がっていたため、なかなかその場を離れることができなかった。


 時計を見て慌てて馬車乗り場に向かおうとしたものの、会話をしていたのは奥の控室。しかも、通る場所はどこも混雑している状態だった。


 ベルは特別な乗り場からカミーラやラブ達と共に王立歌劇場に移動することになっていたが、移動に手間取ってしまい、集合時間に遅れそうだった。


 ようやく関係者以外は立ち入り禁止のエリアに来たため、人がいなくなる。


 誰もいないことを幸いと感じ、ベルはドレスの裾を思いっきり持ち上げて全力で走ったものの、馬車乗り場にカミーラ達の姿はなかった。


「イレビオール伯爵令嬢でしょうか?」


 馬車乗り場にいた侍従が声をかけてきた。


「そうよ。姉が来ていない? ゼファード侯爵令嬢やノースランド伯爵令嬢も」

「女性用の馬車は出発しました。今夜はかなりの混雑ぶりのため、出発時間は厳守させていただいております」

「まあ、そうよね……でも、五分位待ってくれてもいいのに」

「本日は混雑が予想されるため、出発時間が五分繰り上げになっております。お聞きになられていないのでしょうか?」

「聞いてないわ!」


 時間変更があったことをベルは知らなかった。


「カミーラ=イレビオール様からの伝言です。今夜は混雑しているため、待つことはできない。先に向かうとのことでした」

「じゃあ、カミーラは馬車に乗れたのね」

「はい。かなり早めに来られていました」

「仕方がないというのはわかるけれど、他の馬車を探すしかないわね……」

「ご家族やご友人の馬車、あるいは定期運行しております王宮の馬車もございます」


 秋の大夜会の会場が二つあることから、王宮と王立歌劇場を結ぶ定期運行の馬車が用意されている。


 王宮の仮装舞踏会に来た者が個人の馬車で王立歌劇場に向かうと、再度検問を受けることになってしまう。


 しかし、王宮が定期運行している馬車を利用すれば、検問を再度受けなくていい。但し、満員になるまで乗せるため、よく知らない者と同乗することになる。


「個人の馬車をこちらに回すことって可能?」

「ご家族の馬車でしょうか?」

「イレビオール伯爵家の馬車よ」

「無理です。個人所有の馬車は全て正面玄関あるいは別棟になります」


 侍従の説明によれば、来場する際の検問で個人の馬車の停車場所は正面玄関、東出入口、西出入口の三カ所に振り分けられる。


 乗客を降ろした馬車は、各出入口に応じた馬車置き場に移動する。


 馬車を用意するということであれば、降りた出入口に行って係の者に用意するよう依頼する。違う乗り場に馬車を手配することはできない。


「特に今夜は大勢の方がお見えです。東と西で間違えると大変ですので、お間違えないように」

「……念のために聞くけど、側近用とかの特別な馬車は出せない?」

「官僚登録証はお持ちでしょうか?」


 ベルは官僚登録証を見せた。


「申し訳ございません。あくまでも緊急用ですので」

「ちなみにあの馬車は?」

「第二王子殿下と第三王子殿下の側近用馬車になります。それ以外の方はご乗車できません」


 側近は一台の馬車に乗りきらないため、複数台の馬車が用意されることになっていた。


 王太子の側近用の馬車は全て出発しており、残っているのは第二と第三王子の側近用馬車のみだった。


「両親に聞いてみるわ」

「恐らくですが、検問がない分王宮の馬車の方が早く到着できるのではないかと思われます」

「わかったわ。ありがとう」


 ベルは会場に戻ることにした。


 そこへ、話ながら来る四人の男性達がいた。


 あ……。


 会いたくない人物がいた。シャペルだ。


「あれ、ベル……?」


 シャペルはすぐにベルの元へ駆け寄ってきた。


「まだいたの? 馬車は? 何かあった?」

「乗り遅れたの。どこも混雑していたから、思ったよりも時間がかかってしまって……」


 ベルは気まずいと思いつつも、正直に答えた。


「もしかして、馬車がなくて困ってる?」

「両親の馬車を使うか、王宮の馬車を使うわ」

「特権がない個人の馬車の用意は遅いよ。王宮の馬車は誰と一緒になるかわからない。男性ばかりの乗客の中にベル一人だけということもありえる。どちらも凄い行列みたいだし、僕の馬車を用意させるよ。王族の側近用は優先されるから」


 シャペルは一緒にいた同僚達に事情を説明した。


「……というわけで、ベルと一緒に自分の馬車で行くよ」

「イレビオール伯爵令嬢と一緒で大丈夫なのか?」

「お前を振った女性だ」

「助ける義理はない」


 ベルは緊張し、表情を強張らせた。


「ベルはダンスを愛好する仲間なんだ。アルバイトも頼んでいる。それに、親切にして少しでも好意を持ってくれたら嬉しいって下心がないわけじゃない。最近のヘンデル超怖いし、ベルに機嫌取って貰わないとかも?」

「まあ、好きにしろ」

「いいように利用されるなよ」

「問題を起こすな」

「大丈夫だよ」

「そうだ、シャペル」


 同僚の一人が気づいたように言った。


「弁当をやるから少し待ってろ」


 同僚は側近用の馬車に一旦乗り込み、二つの箱を持って来た。


「ほら」

「でも……楽しみにしてたよね?」


 シャペルは控室にウェストランドのホテル弁当を用意し、馬車の中にはヘンデル達と交換した弁当を用意した。


 そのせいで控室の弁当に手をつける者は少なく、馬車の中で食べる弁当を楽しみにしている者達が多かった。


「いいんだよ。美味そうなら他の奴らに分けて貰う。女性には優しくしろ。こういう配慮ができない男性はモテない」


 その通り!


 ベルは心の中で同意した。


「ありがとう。僕の用意した弁当だけど」

「イレビオール伯爵令嬢の分だけ渡せばよかった」

「駄目だ。そんなことをしたら絶対にシャペルは半分ずつにする。そういうやつだ」

「女性への気遣いが足りない」

「ベルにはちゃんと配慮するよ!」


 第二王子の側近用馬車は乗員が一人少なくなったことを確認した後、すぐに出立した。



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