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秋に芽が出て育つ恋  作者: 美雪


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46 土曜日 若い女性達の会話

「ベル!」

「キャスリー!」


 ベルが最初に会った友人は白蝶会の仲間でもあるキャスリー=ハイエグゼル公爵令嬢だった。


「早速大舞踏会の間を抜け出したのね」

「キャスリーだって同じじゃない」


 ベルとキャスリーは互いに笑い合った。


「それにしても凄い人ね。秋の大夜会じゃないみたい」

「普通に社交シーズン真っ只中って感じね」

「いつもだったら両親は領地に帰っているのに……しかも婚活ブームでしょう? 紹介したい者達が何人かいるっていうから早速抜け出して来たのよ!」


 キャスリーは縁談等のために男性と引き合わされることに嫌気がさし、化粧室に行くことを理由に大舞踏会の間を抜け出していた。


「素敵な男性を紹介されるかもしれないじゃない」

「うちの両親は見る目がないから駄目よ。身分しか見てないもの」

「うちは派閥よ」


 会話に入ってきたのはピラール=デ=ギフレ侯爵令嬢だった。


 デという冠詞がつくのは東部出身の貴族である証だ。


「どこも似たり寄ったりね。何かしらこだわりがあるというか」

「どこもそんなものよ」

「私のこだわりは恋愛結婚よ」

「恋愛結婚に一票!」

「賛成!」

「一票投じるわ!」


 次々と周囲にいる女性や友人達が合流し、たちまち大人数になった。


「ちょっと移動しましょう」

「その方がいいわね。邪魔になるし」

「控室の方に行けば?」

「今日はちょっと離れた場所じゃないと空いてなさそうね」

「両親が呼びに来ないか心配だわ。みんなと一緒なら、できるだけ奥の控室がいいかも」

「ハイスペックなイケメンがいる控室でもいいけれど」

「それなら心が動くわ」

「まずは女性同士、気楽に過ごしましょう。お楽しみは王立歌劇場でね」


 今回の会場は二つあるだけに、若い上級貴族の者達は時間とタイミングを見て王立歌劇場へ移動し、何かとうるさい高齢者や両親等がいないところで楽しむつもりでいた。


「今夜の王宮は寛げなさそう」

「年齢人口が高めだから仕方がないわ」

「そうそう」


 すぐに何人かの友人達が合流する。


 ベル達と友人、知り合いの女性達は奥側にある控室の一角を占有することに成功した。


「早い者勝ちよね。場所取りって」

「椅子を早く集めましょう!」

「手前の控室はさすがに無理だけど」

「どこも公爵家ばっかり」

「官僚ばっかりよ」

「侯爵家でさえ全員招待されていないらしいわ」

「アンドール伯爵家は王立歌劇場ですって」


 アンドール伯爵家は名門伯爵家の一つだが、当主跡継ぎも官僚ではなく領地経営を専門にしている。


 優良領主の見本と評判だが、そのアンドール伯爵家でさえ王宮に招待されていないというのは、やはり伯爵家という身分が原因ではないかと思われた。


「ペディグリオム侯爵家も王立歌劇場ですって」

「ペディグリオム侯爵家も?!」


 ペディグリオム侯爵家もアンドール伯爵家と同じく、領主としては優秀だと評判だが、官僚職にはつかず、領地経営を専門にしている。


「今回は官僚職についている者達が優先みたいよ」

「普段領地に行ってしまう者達が優先って聞いたけど」

「シャルゴット侯爵家は招待されているのに」

「うちはお兄様のおかげで特別待遇よ」

「王族側近の家族は優遇ってやつね」

「身分と序列だけでは生き残れない世の中になってきたわね」

「本当にそうね」


 まだ開会して間もないだけに、王宮の仮装舞踏会に誰が、あるいはどの家が招待されているのかという情報交換が行われ、様々な意見と憶測が飛び交った。


「爵位数が多いのよね」

「大国だもの。当たり前じゃない」

「その割に、爵位保持者との縁談はろくなのが来ないんだけど」

「それはお約束!」

「今夜は絶好の機会だから、縁談話や顔合わせがあちこちでありそうね」

「王太子殿下の婚姻の影響と婚活ブームのせいよね」

「地方からもかなり多くの人が流れてきているそうよ」

「新聞で見たわ。どこも王都へ向かう人が凄いんですってね!」


 現在、王都には地方あるいは周辺国から多くの人々が急激に集まりだしていた。


 王太子の婚姻の日取りが近づいてきたせいもあるが、王都の催しに参加し、結婚相手を探す者達やコネづくりが目的の者達も大勢いる。


 おかげですでに王都の宿泊施設はどこも客で溢れかえり、大繁盛していると言われていた。


「ホテル業はまさに稼ぎ時ね!」


 貴族の社交シーズンは春から夏、秋前半が基本で、早くは新年、遅くは秋の中旬頃というのが一般的だ。


 つまり、秋終盤から冬にかけてはオフシーズンになる。


 王都の人口が減り、宿泊施設や移動手段の予約が取りやすくなることから、地方から王都に来る者達も大勢いる。


 今回はそれらの者達と王都に留まる者達がかちあってしまったために、どこもかしこも人で溢れかえっていた。


「私のお屋敷も客でいっぱいよ。次から次へと違う客が来て宿泊する予定なの」


 キャスリーはため息をついた。


「公爵家は何かと知り合いが多そうだものね」

「ここだけの話だけど、ホテルの予約がどこも満室で取れないみたい。つまり、ホテル代わりってこと」

「公爵家をホテル代わりですって?!」

「酷い話だわ!」

「隣の領主一家とかよ。公爵家だからこそ、何かと面倒を見ないといけないし、むこうも力を貸して欲しいと言ってくるわけ。付き合いがあるから、断れないのよね」

「うちもそうよ。男爵家が交代で来るの」

「うちは伯爵家。但し、田舎貴族よ」


 田舎貴族というのは基本的に王都から非常に遠く離れた領地、特出するような産業等がなく農業主体、知名度が著しく低い地方貴族の者達を指す。


「田舎貴族も注目され始めているわよね」

「一部の者達にはね」


 田舎貴族と呼ばれる者達は、王都に住む貴族達からは軽視されやすい。


 しかし、今は空前の婚活ブームのため、貴族という身分に属する者達が注目されている。


「財産家?」

「そんなのわからないわよ。どうやって見分けるわけ?」

「銀行口座の残高はいかほど?」


 おどけた口調で一人が言うと、全員が大笑いをするか呆れた表情になった。


「絶対に聞けない!」

「間違いなく白い目で見られるわね」

「何か自慢できることは、とか尋ねて情報を聞くとか」

「田舎での悠々自適なスローライフって答えるわよ」

「悠々自適ですって?」

「カツカツの間違いじゃないの?」

「小さな領地だと、領主一家も農業に従事すると聞いたけど?」

「園芸とかが好きな人はいいけれど、私は泥だらけになるなんて嫌よ」

「虫も沢山いそう」

「いるわよ。うちの領地に行くとそうだもの」

「嫌だわ」

「領地に行きたくない!」


 領地に戻るのは領地経営のため、王都に住む生活費が高すぎるためという理由が圧倒的に多い。


 そのため、当主や当主代理を務める息子などが領地に戻るが、それに同行することを妻や子供達が嫌がる場合も多い。


「領地に戻るのが好きな人はいいのかも?」

「どんな領地によるわよ」

「そうそう。都会の領地と田舎の領地じゃ全然違うわ!」

「都会と田舎の差はどこ?」

「領都が発達しているかどうか?」

「不便過ぎないこと」

「お店の数」

「仕立屋や衣装屋の数。きっと田舎には一軒しかないわよ」

「たった一軒?!」

「嫌でも常連ね」

「夜会の服はこれでございますとかいって普段着レベルなの」

「王都ではこれが流行ですって薦められるけれど、実際は流行遅れ」

「一年前の流行なんじゃない?」

「一年遅れ?!」

「ありえないわ!」

「怖い!」


 ここにいる者達は様々な情報を先取りし、お洒落の最先端を取り入れるような若い女性ばかりである。一年前の流行を最先端に思うような場所は異世界も同然だった。


「田舎じゃお洒落をしても意味がないものね」

「見せるのが家族だけだもの」

「パーティーはしないの?」

「領地内の町や村の収穫祭に招待される程度じゃない?」

「悲惨!」

「勿論行かないわよね?」

「退屈しのぎで行くのはありよ」

「お忍びで行ってもバレバレじゃない? 雰囲気も所作も違うもの」

「平民の服装でも滲み出る貴族のオーラが違うのよ」

「王都でもそれは同じよね」

「貴方、お貴族様でしょう?って言われるのよ」

「それだけ洗練されているわけね」

「淑女ってこと」

「田舎に淑女」

「違和感が半端ないわ!」


 次々と遠慮ない意見が上がる。


「親戚や一族の結婚式に招待されることもあるかも。当主が領地に戻ってから婚姻する場合があるのよ」

「それならまあ……」

「かなりましね」

「うちの領地は保養地なの。だから、貴族も淑女もいるわよ」

「そういう領地は田舎じゃないわよ」

「そうそう。野菜とか小麦しか採れないような領地よ!」

「見渡す限りの小麦畑」

「太陽の光を浴びて黄金色に輝く草原」

「小説では素敵な場面に思えるんだけど実際はね……」

「現実と想像は違うのよ」

「お花畑ならいいかも?」

「わかってないわね。花を栽培しているところは、咲く前に収穫してしまうに決まっているじゃない。花なんか全然ないわよ!」

「一面の葉畑」

「緑よ」

「野菜と一緒じゃない!」

「イメージが崩れちゃったわ!」

「田舎ってつまりそういうこと。イメージよく考えても実際は、ね」

「田舎よ」

「私は絶対に都会に住みたいわ!」

「田舎領主と結婚したくない!」


 高位の女性達の多くは田舎貴族への注目はあっても、結婚相手としてみなしている者達は少ない。


「下っ端でも官僚がいいわ」

「下っ端過ぎると地方に転勤よ」

「強制田舎生活」

「いやー!」

「やめてー!」

「やっぱりエリートがいいわ!」

「エリートの一部は他国へ派遣されるのよ」

「駐在大使とか外交官」

「それも嫌!」

「エルグラード最高!」

「そうよ! エルグラードの王都ほど素晴らしいところなんてないわ!」

「外務省の官僚は絶対に嫌!」

「でも、外務省の官僚ってイケメン多いのよね」

「見た目だけでしょう?」

「レーベルオード子爵も元は外務省だったし」

「レーベルオード伯爵もね」

「外務省は新人をイケメンかどうかで選ぶらしいわよ」

「イケメンは入省させます」

「イケメンは出世させます」

「でも、他国行き」

「えー!」

「エルグラードの対外政策よ。イケメン外交官だと、エルグラードと国自体がイケメンみたく素晴らしい国だって思われるから」

「イケメン国策!」


 若い女性達は妄想を膨らませ、和気あいあいと会話を楽しんでいた。



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