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秋に芽が出て育つ恋  作者: 美雪


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40 土曜日 解決、でも未解決

 沈黙を破ったのは交際を申し込んだジェイルだった。


「勿論、このような申し出は非常に自分勝手であることは自覚している。それゆえ、できるだけカミーラに配慮したいとは思っている。提案としては、この交際は結婚前提のものにする。最終的な責任についてもしっかりと考慮の上での申し出だ」


 結婚前提?!


 ベルは驚愕した。カミーラも同じく。


「今はどこも婚活ブームだ。そのせいでよく考えずに交際のみならず、結婚までを決めてしまう者達も多い。そのことが原因で後々破局ブーム、離婚ブームが来てもおかしくない」


 そうかもしれないと誰もが思った。


「つまり、この時期に交際や結婚をすることは、将来的にも完全に決定したものばかりとはいえない。だからこそ、私はカミーラとしっかりとした交際期間をもうけ、見極めることにする。エゼルバードは側近がこぞって独身ばかりなのを懸念している。付き合ってみてはどうかと薦められ、断れなかったことにすればいいだろう」


 第二王子のせいにするとか……ジェイル様は凄いわ!


 そう思ったベルと同じように思う者がいた。


「エゼルバードを活用するなんて、ジェイルは凄いなあ」


 シャペルは目を見張って驚いていた。


「まあ、でも、それなら交際してもおかしくない。カミーラはそれこそアルバイトだと思って、ジェイルに色々買って貰いなよ。現金じゃなくて現物になるけど、恋人に贈り物をするのはおかしくない。賄賂にならないし、丁度いいんじゃない?」

「お断りします」


 こ、断るのーーー?!?!?!


 ベルは聞き違いではないかと思った。


 驚きを宿した全員の視線がカミーラに集中した。


「……なぜだ? 理由を聞きたい」

「私はジェイル様と交際する気も婚姻する気もないからです」


 し、信じられない!!! 今、カミーラはあのジェイル様を振ったわ!!! 完璧に!!!


 ベルは絶叫したい気分になったが、あまりにもショックが大きすぎて言葉が出なかった。


「互いの仕事、活動目的のために手を組む、同行役のアルバイトを受けるということであれは構いません。その件はすでに了承しています。ですが、それができない、難しいからといって正式に交際するのはおかしいとしかいいようがありません」


 カミーラの口調は淡々としていた。


「私はノースランド子爵の決定に従うことにしました。王太子殿下の婚姻の邪魔になるようであれば、社交活動を自粛するのは当然です。だというのに、なぜ、ジェイル様と交際してまで社交活動をしなければならないのでしょうか? 多くの嫉妬と興味に晒されるだけで、安全どころか余計に危険を高めるだけです。私の社交活動、情報収集はどうしてもしなければならないことや仕事ではありません。ジェイル様とは違いますので、ご理解いただきたく思います」


 ベルはカミーラの冷静さと鋭い指摘に驚かずにはいられなかった。


 普通の女性であれば、ジェイルの申し出を受ける。その判断通りにすればいいと思う。


 だが、カミーラは違った。


 自分でしっかりと考えた。


 そして、ジェイルにとっては都合がいい内容かもしれないが、自分にとってはそうではない、むしろ都合が悪い部分もあると考え、断る判断をした。


 さすがのジェイルもすぐには言葉が出なかった。


 常に冷静さを失わないはずが、この時ばかりは驚きと困惑に表情を歪めていた。


 ジェイルは絶対に自分の提案が受け入れられる自信があった。


 完璧な貴公子と呼ばれる自分と完璧な淑女と呼ばれるカミーラの組み合わせはまさに完璧なペアだ。


 実際にペアを組んで同行した際にも、それを実感した。互いにいい関係を築けるだろうと信じて疑わなかった。


 だからこそ、はっきりとした拒絶はジェイルにとって予想不可能だったとしかいいようがなかった。


「……確認する。アルバイトとしての同行は問題ないが、交際や結婚をする必要はないということだな?」

「そうです。ですが、ノースランド子爵が第二王子の命令も同然ということで社交を禁止するのであれば、それに逆らう気もありません。元々、多くの女性達に人気のあるジェイル様とは頻繁に同行するのは難しいと思っていました。アルバイトに関しても私の都合や意思を尊重するという形だったはずです。そちら側として私に同行役を依頼しても問題ないということになれば、お声をかけていただければと思います。私の気分や状況に応じてお返事致します」


 ジェイルはロジャーを睨んだ。


「ロジャー、時間を作れ。この件について話し合い、再度検討をして貰う」

「今日は忙しい。ただでさえ、シャペルのせいで時間が取られている」


 ロジャーはシャペルを睨んだ。


「シャペル、この貸しは高くつく。覚悟しておけ!」

「ロジャーはいつも高くつくからなあ」

「了承とみなす。行くぞ!」


 セブンがドアの鍵を解除した。


 第二王子の側近達は次々と部屋の外に出ていく。


 シャペルは最後だった。


「ベル、本当にごめん。全部忘れて大丈夫だから。じゃあ」

「待って!」


 ベルはすぐにシャペルを呼び止めた。


「忘れるって、どういうこと?」

「……こんなことになった責任を取って結婚するって話。ベルには迷惑な申し出でしかないのはわかっているから。忘れていいよ」


 ベルはすぐに理解した。


 シャペルは昨日の取引をなかったことにする気だと。


 そして、全てを隠す。


 ホテルに宿泊したのはベルがドレスにワインをこぼしてしまったせいにする。着替えを用意した時には疲れて眠ってしまっていたため、起こすのがしのびなかったという判断の結果、朝になって帰った。


 ベルはシャペルから王家との縁談について教えて貰ったものの、その対価を支払う必要はない。


 得だった。それでいいはずだった。


 だというのに、ベルは喜べなかった。それどころかがっかりし、ぽっかりと心に大きな穴が開いてしまったような気分になった。


「……交際もしないってこと?」

「無理やりじゃ意味がない。だから……いいんだ。ベルの望む新しい人生を応援するよ。仲間だから」


 仲間。


 ベルは胸が痛くなった。


 シャペルは……私と仲間でいることを選んだのね。恋人でも、夫でもなくて。それがいいって、それが一番うまくいくって……そう思った。だから……。


 ベルは答えた。


「……わかったわ。私こそ迷惑をかけてごめんなさい」

「ベルは何も悪くない。全部悪いのはこっちだから。気にしないで」


 シャペルは微笑んだ。いつものように。


 ベルは気づいた。シャペルはかなりの役者、嘘つきだと。


「じゃあ、仕事があるから……今日は弁当係だから忙しくて。ごめんね」


 シャペルはドアを閉めるとすぐに走り出した。


 一刻も早くその場から立ち去りたいという気持ちと、仕事を片付けなければいけないという気持ちゆえに。


 ドアをじっと見つめるベルにカミーラが声をかけた。


「ベル、無理をする必要はありません。何もなかったのは良いことです。醜聞沙汰になるのも、好きでもない男性に纏わりつかれても困ります」


 ベルは答えた。


「……今回は私が悪かったのよ」


 取引を持ち掛けたのはベルだった。シャペルはそれに乗っただけだ。


 しかし、降りた。取引を無効にした。


 こんな形で交際すべきじゃない。婚姻すべきじゃない。自分が本当に望むことではないと思ったのだ。


 そして、シャペルは本当に大事なものを守った。ベルを。その気持ちを。


 ベルは本当に自分のことを想ってくれていたのだと実感すると同時に、シャペルが急に離れて行ってしまったように感じた。


 恋人にも夫婦にもなれない。これからは仲間。それでいい。


 そう決めたシャペルは別の道を歩き出し、ベルの元から去っていった。


 シャペル……。


 ベルは気持ちを落ち着けるように大きく息を吸って吐いた。


「……なんだか疲れてしまったわ。休みたいの。部屋の鍵を返して」

「わかりました」


 カミーラはベルに部屋の鍵を返した。


「体調が悪ければ、夜会は欠席しても構いません」

「大丈夫よ。ただ……精神的に疲れたの。カミーラが怒るのはわかっていたしね」


 色々あったのよ。本当に。楽しいことも、悲しいことも。


 王家との縁談のことを思い出し、ベルの気分はより深く落ち込んだ。


「また後でね」

「わかりました」


 ベルは部屋に戻ると、ベッドの上に横になった。


 途端に涙が溢れ出す。


 シャペルの馬鹿!!! 私を一人にするなんて……もう、仲間なんかじゃないわ!!! 


 ベルは声を押し殺すようにして泣いた。



 本編が全然進まないので、こちらはしばらくお休みします。

 まだ、完結じゃないです。 弁当係のこと書きたいので。


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