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秋に芽が出て育つ恋  作者: 美雪


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38/53

38 土曜日 目覚めた後

 翌朝目覚めると、ベルは一人だった。シャペルの姿がない。


「シャペル?」


 ベルは急に不安になった。


 バスルームにいるのかもしれないと思ってみるものの、そこにも姿がない。


 しかし、洗面台の上にベルへの手紙が置いてあった。


 シャペルは先に出勤する旨と、ベルが起きてからすることが書かれていた。


 まずは入浴。但し、任意。


 次に身支度。昨夜のドレスはない。着ていたものは全てクリーニングに出してしまったため、新しく用意したものを着用する。


 新しいものはクローゼットの中にある大きな三つの箱の中にある。必要なものは全て揃っているはずだが、不足があれば部屋付きに依頼する。


 昨日着用したものは後から全て配送するため、部屋に残しておいて構わない。


 身支度が終わったら朝食。これも部屋付きの者に頼めばいい。チップがいるので、寝室のサイドテーブルについている引き出しの中から必要な現金を出す。


 一日が始まって、最初に渡す部屋付きへのチップは必ず千ギールにすること。そうすると、一日中部屋付きがよく動いてくれる。何事も最初が肝心。その後のチップは百で十分。


 朝食を食べた後は部屋付きにいって馬車を用意して貰う。


 馬車が来たらそれに乗って帰る。


 王宮に戻ったらすぐに王子府にいるシャペルに伝令を出す。


 仕事のキリがついたところでベルの元にシャペルが行く。絶対に誰にも昨日のことを話してはいけない。


 カミーラにはシャペルから話す。必要であれば他の者にも。


 そのため、ベルは完全黙秘する。情報漏洩は許されない。情報を漏らした者だけでなく、情報を知ってしまった者、情報漏洩があったことを知ってしまった全員が処罰の対象になることを忘れないように。


 以上だった。


「わかりやすいけれど、色々と文句が言いたいところだわ。私のドレスを勝手にクリーニングに出すなんて!」


 とはいえ、着替えは用意されている。


 ベルはシャワーを浴びるとクローゼットの中にある大きな箱を開けた。


 かなりの大きさの箱だったが、中には細かい箱が沢山入っている。


「大きな箱が三つってところで嫌な予感がしたのよね……」


 シャペルはまさに全てを買い揃えていた。


 コートやバッグ、靴のような昨夜のものを使い回しできそうなものまで。


「しかも、全部ルジェ・アヴェニューじゃないの!」


 シャペルはお金持ちだ。ベルと結婚する気でもいる。高額な出費をしても、全く気にしていないだろうと思われた。


 どちらにしても、それしか着替えはない。


 ベルは用意されているものを身につけた。


 ドレスはくすんだ薄い青で中央が白い外出着。青い部分は控えめだが、白い部分にフリルやレースがついているため女性らしい雰囲気だ。


 ベルの趣味ではないため自分では絶対に選ばないが、着てみると違和感はない。むしろ、いつもの自分よりも大人しく清楚な感じに見えるため、新鮮でもあった。


 靴や手袋、バッグは白。ドレスの一色であるため、問題なく合う。


 コートは薄いライトグレー。かなりシンプルなデザインだ。あまりにも地味だと思ったが、ドレスや小物などすべてを合わせた状態で見ると、非常に上品で落ち着いて見えるのが不思議だ。


 そして、帽子。


 これはドレスに合わせているのか、濃い青に白いレースと短いベールがついている。布地で作られた白い小花の装飾も可愛らしい。やはりベルの趣味ではないが、嫌いなわけではない。自分には似合わなそうだと思っているだけだ。


 宝飾品まで用意されており、プラチナとサファイアの組み合わせだった。派手派手しくはなく、これもシンプルだ。


 イヤリング、ネックレス、腕輪、ブローチにサファイアを散らすことによって全体に濃い青と銀の輝きを配置し、帽子と合わせつつ、地味な色合いであるくすんだ青のドレスや薄い灰色のコートとのバランスを取りつつ、アクセントを加えているのだと思われた。


「……なんだか凄くお上品で控え目なご令嬢って感じ」


 自分では選ばないもの尽くしだが、着てみるとなぜか悪くないと思える感じがした。


 ベルはシャペルの用意したものに驚きつつも、違和感を覚えた。自分のイメージに全く合わないのに、なぜこれを選んだのかと。


「シャペルはこういうのが趣味なのかしら? 前は黄色を選んだのに」


 とにかく身支度は終了したが、すぐに帰るわけではない。しっかりと朝食を取っていく気だった。


 ベルはコートや帽子などを脱ぐと、寝室のサイドテーブルの引き出しを見た。


 そこには千ギールと百ギールの札束が一つずつ入っていた。


 ここは金庫じゃないのよ! ただの引き出しだってわかっているの? 盗まれたらどうするのよ!


 ありえないと思いつつも、部屋付きへのチップとして百ギールを一枚取り出した後、千ギール札を一枚に変えた。


 最初のチップは千ギールという指示を思い出したからである。


 どうせシャペルのお金だもの。


 自分が宿泊したことを口止めするという意味でも、チップは千ギールにしておこうとベルは考え、朝食を頼みに行った。




 王宮に戻ったベルはシャペルの指示に従い、すぐに伝令を出した。しかし、その次にすることはすでに決定していた。


 カミーラの元に行き、預けていた自室の鍵を回収することである。


「ごめんなさい」


 仁王立ちするカミーラから発せられる怒気と迫力はすさまじく、ベルは恐怖を感じた。


「シャペルと外泊したのですね?」

「そうよ」


 意外にも冷静な声が出たとベル自身も驚いた。


「何があったのですか? 全てを話しなさい。完全に完璧にです!」


 その時である。


 ドアをノックする音と声が聞こえた。


「ベル! 開けて!」


 王子府から全力で走ってきたシャペルだった。ベルの部屋には鍵がかかっているため、部屋に入れない。


 シャペルはカミーラの部屋のドアをノックしたが、同じく鍵がかかっていた。


 カミーラはすぐにドアに行くと言った。


「お帰り下さい。ベルは二度と貴方に会いません」


 シャペルはベルとカミーラが一緒にいると思った。


 ベルが昨夜の事情をカミーラに話すまで、鍵を返さないと言うことは簡単に推測できることだった。


「ベルが無事なのか知りたい!」


 カミーラは驚きの表情になった。


「何を言っているのですか! ベルを一人で帰らせるなんて! ありえません!」

「でもその方が」

「絶対に開けません! 帰りなさい!」


 カミーラは強かった。それは誰もが知っていることでもある。


「わかった。でも、ベルは何も話さなくていいから!」


 ドアの前は静かになった。


 カミーラはすぐにまたベルの元に戻ると、もう一度冷たく厳しい口調で言った。


「邪魔者は排除しました。これで遠慮なく話せます。話さなければお兄様に外泊したことを話します。イレビオール伯爵家へ強制送還になるでしょう。その後どうなるかはわかりませんが、ことによっては最悪の事態も考えられます」


 ベルの予想通りの言葉だった。いつもであれば、完全に屈服していた。


 しかし、ベルはカミーラに宣言した。


「いいわ。お兄様を呼んで頂戴」


 カミーラは眉を吊り上げた。


「本当にいいのですか?」


 ベルはカミーラの目を見たくないと思った。そこで、カミーラのトレードマークともいえる太めの眉を見た。


 それだけでも十分の迫力がある。意志の強さも伝わって来る。


 しかし、目を見て話すよりも全然楽だとベルは思った。


「丁度話したいことがあるの。」

「どんな話ですか?」

「カミーラには関係ないわ」

「話してくれるまで呼びません」

「じゃあ、話は終わりよ」


 ベルは一切話す気がないことを示した。


 結局、それでもカミーラのすべきことは同じだ。


 カミーラは侍女を呼び、ヘンデルに緊急の用件で部屋に来て欲しいという伝令を出すことにした。




 ベルとカミーラはヘンデルが来るのを大人しく待つことにした。


 カミーラは少しすると感情を落ち着かせ、自ら歩み寄る姿勢を見せた。内心では激怒しているが、膠着状態を脱出するための対応である。


 朝、カミーラの元へシャペルから手紙が届き、ベルは後から戻ること、自分が全て説明をすること、絶対にベルには何も聞かず、怒らないで欲しいと書かれていたことがわかった。


「何があったのですか?」

「シャペルが話すわ」


 しかし、シャペルはいない。カミーラが追い返してしまった。


 カミーラはベルの服装が昨日と全く違うことなどを指摘し、シャペルが買ったのかなどと様々なことを質問したが、ベルは何も話さなかった。




 時間が経ち、ドアがノックされた。


 カミーラはドアに近づいたが、鍵が外側から開けられる音がした。


「まさか」


 カミーラはシャペルがスペアキーを取りに行ったのではないかと考え、ベルは掃除の者が来たのではないかと思った。


 姿をあらわしたのはロジャーとセブン、ジェイル、そしてシャペルだった。


 シャペルは鍵ばかりか援軍を連れて来たのである。


「帰って下さい!」


 カミーラは怒りの形相で四人を見つめた。


「ここは女性の部屋です! 男性が勝手に立ち入るべきではありません! 紳士であれば、そのことがわかるはず! すぐに出て行って下さい!」


 正論だった。しかし、その正論を最も支持しそうなジェイルが答えた。


「落ち着け。私達はベルの無事を確認しに来ただけだ」


 シャペルも同じことを言っていたとカミーラは思った。


「ベルは無事です。見ればおわかりになるはず」

「いや。しっかりと聞かなければならない。そして、衣装に関しても検分したい」


 衣裳?!


 ベルとカミーラは驚くしかない。


 しかし、いつもと違う装いをしていることに興味を持ったのであろうと推測した。


「あまり時間を取りたくない。さっさと済ませる。今夜は秋の大夜会だ」


 ロジャーが厳しい口調で催促をする。


 結局、四人は強制的に部屋の中に入り、セブンが内鍵をかけた。


「なぜ、鍵をかけるのですか?」

「重要な話がある」


 セブンは無表情で答えた。


「どのようなお話でしょうか?」

「まずは確認だ。ベル、ここに」


 ジェイルに呼ばれたベルは緊張しながらジェイルの指示したところまで移動した。


「では、確認する。王宮に戻り次第、すぐにシャペルに伝令を出したか?」


 そこからなのかとベルは思った。



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