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02 水曜日 白蝶会のお茶会

「ベルが行けば?」


 白蝶会のお茶会で、ベルはそう言われてしまった。


 勿論、すぐに拒否する。


 しかし、白蝶会の仲間達は、ベルとシャペルがうまくいかなかったこと、そして、シャペルが黒蝶会を辞めてしまったことを残念に思う者達が圧倒的に多かった。


「そもそも、そういう話をできる位なら、黒蝶会を辞めなくても良かったと思うのよ」

「そうよね。これからも二蝶会の一員として付き合えばいいわけだし」

「恋人の付き合いじゃないわよ。仲間ってことよ」

「そう、仲間よ!」

「実際、白蝶会と黒蝶会のメンバーでくっついて離れるカップルなんてざらじゃない? でも、辞めることは少ないわ」

「いないわけじゃないけど、少ないわよね」

「どっちかが幽霊部員になるのはあるけど」


 白蝶会の女性と黒蝶会の男性が二蝶会などの活動を通じて交流し、恋人として付き合うことになったという話はよくある。


 むしろ、二蝶会を通じてグループ内外問わず恋人を探すために入会している者達も大勢いた。


「偶然、王宮で会っただけなのよ。私でなくても白蝶会の女性に会っていたら、同じようにアルバイトの話を持ち掛けていたわよ」


 ベルはそう言ったが、周囲は完全にスルーした。


「一応、みんなで真剣に考えたのよ。身分、家柄、財産、性格その他もろもろ」

「そうそう。釣り合い取れているって思ったわけ」

「デーウェンとの友好舞踏会でカドリーユを踊ったでしょ?」


 以前、ベルは王太子の寵愛を受けるリーナを守るため、側妃候補の一人として後宮に入っていた。


 その際、デーウェン大公子を始めとする国賓の接待役を務めた経験がある。


 出し物でカドリーユを踊ることにもなったが、その際のダンスパートナーがシャペルだった。


「あれを見たから余計にぴったりな気がしちゃって」

「もうみんな見惚れちゃったのよ!」

「そうなの! あんな風になりたいって!」

「レイジングス公爵令嬢はさすがに上手だったけれど、パートナーとの息がちょっと合ってなかった気がしたわ」

「私もそう思ったわ」

「レイジングス公爵令嬢が上手すぎるのよね」

「個人的な能力も大事だけど、ペアとしてどうかが重要だわ。ダンスは基本的にペアで踊るわけだし」

「そうそう。私達ってダンスが好きだから、ダンスパートナーとしてどうかに重点を置いてチェックするというか」

「そうよね、それが大事!」

「はっきりいって、一番大事!」


 白蝶会の仲間達は言いたい放題だった。遠慮ない。


 ベルはそういう雰囲気が好きだった。


 自分のことでなければ素直に頷く内容だ。


 ベルもダンスが好きなだけに、恋人とのダンスを楽しみたい。だからこそ、ダンスが嫌いな男性や、ダンスの技能がなさすぎる男性を恋人にしたいとは思わなかった。


 貴族の社交にダンスは必須でもある。


 踊りたがらない男性も多くいるが、全く踊れない男性は問題外。


 これは白蝶会に所属するダンス好きな女性達全員の共通認識でもある。


「むしろ、何が駄目だったの?」

「そうよ!」

「第二王子派ってこと?」

「ベルは王太子派だしね」

「家の事情ね」

「ヘンデル様のせいね」

「可哀想……」


 ベルに同情が集まるが、間違った見解だった。


「ちょっと! 王太子殿下と第二王子殿下は仲がいいでしょう! 支援する貴族達だって、敵対しているわけじゃないわ!」


 ベルは兄のヘンデルを庇ったつもりだった。しかし、それが余計に仲間からの追及を強めた。


「だったら余計に変じゃない?」

「そうそう」

「むしろ、王太子派と第二王子派をつなぐチャンス!」

「まさに友好のカドリーユよ!」

「もうつながっているわ。十分じゃない」


 ベルは反論した。


 第二王子は王太子を敬愛している。その揺るぎない兄弟愛は崇拝レベル。


 誰かが懸け橋になる意味はないと思えた。


「えっ?! カップルがいるの?!」

「誰?!」

「まさか……男性同士じゃないわよね?!」

「きゃー!」

「いやー!」

「それ、冗談でも言っちゃ駄目!」

「反則よ!」

「女性が余計にあぶれちゃう!」

「結婚相手が減る!」

「私は認めないわ! 女性の相手は男性、男性の相手は女性よ!」

「そうよ! 少なくともジェイル様は駄目よ!」

「ジェイル様狙い発見!」

「やっぱりダンスが上手くないとね!」

「私もジェイル様がいいわー!」

「麗しいジェイル様!」

「お洒落だし!」

「でも、冷たい感じするわよね」

「それがいいのよ!」

「そうよ!」

「クールビューティー!」

「なんか違うような?」

「とにかく素敵ってことよ!」


 大盛り上がりである。


「前にも言ったけれど、私はシャペルのことを全然知らないのよ。親しくもないの。そんな相手にいきなりプロポーズされて、受けるわけがないでしょう!」

「だったら交際してみればいいわよ」

「そうそう。お互いにどんな相手か知るための期間を設けるの」

「それこそ普通よね?」

「そうよ。なのに全く話にならないって感じで断っちゃって!」

「シャペル可哀想」

「勇気を出したのに」

「ベルのこと大好きなのに!」


 今度はシャペルへの同情が集まった。


「私の気持ちはどうなのよ? どうでもいい相手と付き合えっていうの? むしろ、希望を持たせるだけ可哀想じゃないの!」

「絶対駄目だと思っているのね」

「まあ、ベルはレイフィール様狙いだし」

「わかるわよ。でも、そろそろ現実を見ないとね……」

「厳しいわ」

「悲しいほどにね」

「年齢も上がる一方だしね」

「男性よりも女性の方がシビアよね」

「婚活ブームが来たのはまさにチャンスよ!」

「そうね! 取りあえず誰か確保しないと!」

「別に結婚相手じゃなくてもいいのよ。恋人をね」

「付き合ってみたら意外といい感じだってわかるかもだし」

「そうやって多くの女性達は現実を生きていくのよ」

「夢見るだけじゃ、幸せになれないもの」

「貧乏はいや」

「お小遣いが少ないのも嫌!」

「もっとお金が欲しいわ」

「だったらアルバイトを受けてよ!」


 しかし、アルバイトをしたいという女性は一人もいなかった。


 むしろ、今回の依頼はベルが受け、シャペルとの関係を修復することをこぞって勧めた。


 勿論、仲間としての関係だ。


 アルバイト終了後は黒蝶会にそのことを報告し、シャペルを再入会させようという計画に賛成する者達が続出した。


 シャペルは元々ダンスが上手く、人望があった。いや、ダンスが上手いからこそ、人望があったのかもしれない。


 あるいは金持ち。親しみやすい性格。身分に関係なく、メンバーには名前で呼ぶことを許しているのも好感度が高いなどと長所が上がる。


 またしてもベルとシャペルの仲を取り持とうという流れになった。


「そういって薦めても駄目よ」


 ベルのガードは堅かった。しかし、女性達の話は弾む。


 シャペルがベルを狙っていなければ、自分が狙いたかったという者もちらほらいた。


 狙っていたものの、告白して撃沈した者がいたこともわかった。


 シャペルはお試し、非常に軽い付き合いであっても、白蝶会の女性達を恋人にはしたくない、一緒に楽しく踊る仲間でいたいと発言していたこともわかった。


 少なくとも、シャペルは白蝶会の女性が重視するポイントは押さえている。


 貴族出自、ダンスの能力、財力だ。容姿も悪くない。


 おまけではあるが、爵位持ちのエリート官僚だ。普通はおまけではない条件である。


「そりゃ、レイフィール様には劣るわよ?」

「ジェイル様の添え物に見えちゃうしね」

「でも、結構いいわよね?」

「いいわよ」

「実は凄くいいわよ」

「目立たないだけなのよね」

「そうそう、友人達が華やか過ぎちゃって」

「個別でみれば、十分凄いのよ」

「本人が相手にしてくれるならね」

「じゃないと、色々揃い過ぎていて逆に駄目よね」

「そうなのよね。かえって難しいもの」

「もったいなーい!」

「凄くもったいなーい!」

「同感!」


 思わぬところで、ベルはシャペルの人望度や人気度が高いことを知ることになった。



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