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秋に芽が出て育つ恋  作者: 美雪


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16 月曜日 ベルのターン(一)

 ダンスの後、ベルとシャペルは休憩を兼ねて軽食をつまみに行った。


 パーティーではあまりがつがつ食べないというのは貴族も平民も共通の作法である。


 ベルはその辺のマナーも問題なく、少量の軽食を美しく上品に食べた。


 人は食べるという本能的欲求を前にすると弱くなる。


 食欲を満たすことに気がいってしまい、他のことに対するガードが甘くなるのだ。当然、不注意なことをしやすくなる。


 食事の時の様子や所作を細かく観察することで、相手の本質が垣間見えてくる。それをしっかりと隠し、常に美しさを保つというのが本物の淑女だ。


 高位の貴族という出自に相応しく育てられ、王宮の夜会に出席するのが常であるベルが、こういった基本的なことで問題になるようなことをするわけがない。


 シャペルは安心して食事をすることができた。


 ベルはいつ見ても綺麗だ。好きだからそう見えるのはある。でも、冷静に見ても結果は同じだ。イレビオール伯爵令嬢として恥ずかしくない教育を受けていることがわかる。


 シャペルが多くの女性達に囲まれていた際の行動に関しても、ベルの対応は冷静で適切だった。


 全員が口々にシャペル狙いであることをあらわにしている。その様子にあてられてしまい、自分が今夜のパートナーだと主張しようとしたことが、かえって失言や問題行為に結びついてしまう可能性がある。


 しかし、ベルは笑みを讃えたまま静かに佇み、シャペルとの距離感をしっかりと守り切った。シャペルが一緒に踊ろうと誘うまで、話し合って決めた最初の距離感を、他の女性への牽制として詰めようとはしなかった。


 社交の場では、ちょっとしたことが大きな問題に発展し、醜聞になりかねない。だからこそ、同行者が余計なことを言わない、出しゃばらないということが大切になる。そういう者でなければ、むしろ同行させない方がいい。


 平民のパーティーに出る度、シャペルは貴族と平民の違いを感じていた。


 社交のルールが違うというのはとても重要だ。シャペルが上流の平民を妻にすれば、平民の社交界では全く問題はないかもしれない。だが、王宮や貴族の社交界に連れて行った途端、マナー違反の続出になるのが目に見えていた。


 勿論、事前にある程度は勉強ができる。しかし、一度身についてしまったマナーや習慣、癖を直すのは難しい。状況に合わせてルールを使い分けなくてはいけない。


 貴族のルールの方が厳しいため、貴族が平民の社交界に参加する場合は特に苦労はしない。むしろ楽かもしれない。


 しかし、逆は違う。だからこそ、跡継ぎであり、王族に仕え、多くの高位貴族達と親しくしているシャペルにとって、妻選びは非常に重要だった。


 ベルと結婚することができたら、こうしていつでも一緒にいられるのに……。


 シャペルは悔しくなった。しかし、ベルにしつこく言い寄るべきではないこともわかっている。


 例えアルバイトであっても、こうして一緒に外出したり、会話をしたり、踊れるようになったというのは凄いことだった。前は同じ二蝶会に所属していたにもかかわらず、このような機会は全くなかった。


 リーナの助言に従ってベルから離れたのは正しかった。


 シャペルはそう思った。


 愛しているからこそ、離れる。一歩。二歩。自分を変え、新しい道を見つける。


 しかし、それは単にベルを諦めることではない。愛したままでいい。これまでに自分が考えていたこととは違う愛し方、喜び、幸せ、様々なことを見つけに行くためのものだ。


 辛かった。苦しかった。しかし、頑張った。努力した。


 おかげで状況が変わった。友人や職場だけでなく、ベルに対しても同じく。


 シャペルはベルと離れたはずだというのに、むしろ近づいているように感じた。


 今の状況を壊したくない。恋人になれなくても、結婚できなくても、ベルと一緒に話したり出かけたりできるだけで十分幸せだ。


 これまでに体験できなかったことを体験したからこそ、新しく得られた気持ちだった。


 そして、愛しているからこそ、迷惑をかけたくない。ベルが笑顔になれるように守りたい。そのためには適切な距離が必要なのだと思った。




 食事の後は、シャペルの予想通りの状況になった。つまり、若い男性達に囲まれたのである。


 シャペルがパーティーに行くと、まずは年齢や立場が上の方の者達が来る。


 シャペルは若い。二十代後半というのは、銀行家達の間ではまだまだ若造、若輩者扱いである。圧倒的に経験がないということが、軽視につながりやすい。


 しかし、貴族。しかも、上級貴族で爵位持ちの跡継ぎとなれば全く周囲の反応は異なる。平民は我先にとシャペルのとこに行き、自分達の名前と顔を売ろうとする。シャペルがわざわざ自分の名前と顔を売りに行く必要はない。待っているだけで良かった。


 この方法は一見すると楽だが、問題もある。それは、囲まれてしまうということだ。


 最初は逃げ場を失うような感じがして嫌だったが、今では経験を積んで慣れたのもあり、冷静に対処できる。


 みっともない姿を見せるようであれば、ベルを誘えるわけもない。


 シャペルはいつも通り年齢が上の者達、女性達、若い男性達に囲まれ、適度に社交をした後で帰るつもりだった。あくまでも大雑把ではあるが、その程度で良かった。


 しかし、状況が突然変わった。いや、シャペルは重要なことを忘れていた。


 今は婚活ブーム。狙われるのはシャペルだけではない。貴族の女性でシャペルの同行役を務めることができるほどの女性もまた同じであるということを。


「お美しい」

「先ほどのダンスに魅了されました」

「お会いできて光栄です」

「ぜひ、私とも一曲」


 ベルは若い男性達から次々と褒め言葉と誘いを受けていた。


 シャペルはその状況にショックを受けるものの、すぐに気を取り直し、今夜は自分がエスコート役であることを伝えて牽制した。


 しかし、婚活ブームの影響力は強かった。


 若い男性達はダンスについては引き下がるものの、シャペルと話したいということもあって移動しない。


 視線はベルにも向けられている。シャペルだけを話す対象にはしていない。誰かが移動すればまた別の者が来て、ベルを褒めては誘う。


 しまった! 平民には貴族の女性というだけで大人気だ! しかも、あんなに素晴らしいダンスを見せつけたら、ベルに興味を持つに決まっている!


 シャペルは焦っていた。


 一方、ベルは違った。


 踊ったことで前半の嫌な気分を払拭しており、多くの男性達からお世辞だとわかっているものの賛美され、自分がモテモテの状況を悪く思うはずもない。


 ご機嫌の様子を見せつつも、エスコート役はシャペルだからと言って断っていた。


 そして、女性達が乱入した。


 久しぶりに顔を見せたディーバレン子爵に自分達を売り込もうとするもののうまくいかない。しかも、ディーバレン子爵を独占している女性がいる、他の男性達にもチヤホヤされているとなれば、そのことをよく思うはずがない。


 ダンスの技量で劣るからといって諦めるような女性は少なかった。むしろ、闘志を燃やす者もいた。


 これもまた婚活ブームの影響だった。


 誰もが結婚相手を探し、早い者勝ちだと言わんばかりに奪い合っている。


 女性達はベルが男性達に人気なのを利用してシャペルから引きはがす作戦に出た。


 そして、男性達もその作戦に乗った。


「もう一度あの素晴らしい踊りを見てみたいわ」

「ぜひ、踊って下さいませ」

「ならば私と共に」

「いや、僕と」

「俺と踊ろう」

「ディーバレン子爵は私と踊りませんか?」

「あら、それは私のセリフですわ」


 シャペルとベルはあらかさまにダンスを理由に引き離そうとする男女達をどうしようかと考えていた。


 まずはシャペルが動く。


「まいったな。ベルを売り込みにきたわけじゃないのに」


 シャペルは内心かなり苛立っていた。


「彼女はこういった銀行関係のパーティーには初めてきた。勉強も兼ねている。だから、離すわけにはいかない。エスコート役としてしっかり守るのが役目だからね」


 シャペルはベルが初めて来たことに勉強中という理由もつけて牽制した。


 しかし、勉強中といったことが逆に相手に活用されてしまった。


「勉強を兼ねているのであれば、余計様々な者達と交流すべきですわ」

「そうですわ。一曲踊るだけでも、いつもとの違いを感じることができますわ」

「ディーバレン子爵から少し離れてみては? また違った状況が見えるかもしれません」

「そうですわね」

「そうだな」

「私と勉強しに行こう」

「色々教えるよ」

「ぜひ」


 くっそー! こいつら邪魔!


 にこやかな笑みとは裏腹に、シャペルは心の中で怒りの叫び声をあげていた。


 ベルもこの状況を打開するには、当たり障りのない受け答えばかりでは難しいと感じた。


 そろそろ限界だわ。まずはシャペルの方ね。


 ベルはシャペルの方を見た。


「どうすれば?」


 ベルはシャペルに意見を求めた。


 これは同行者として適切な行動であり、マナーだった。何をするにもエスコート役を無視しない、その判断を確認するという対応だ。


「絶対に離れないように」


 シャペルの口調は命令とはいえないものの、はっきりとした意思の強さが込められていた。


「わかったわ。実は、初めて来た場所で不安だったの。親切にしてくれるのはとても嬉しいけれど、エスコート役に従うのは基本中の基本。貴族として、マナーをおろそかにすることはできないわ。そうよね?」

「その通りだ。貴族だからこそ、しっかりとマナーを守らないと」


 シャペルは腕に添えられたベルの手に自分の手を添えた。


「今夜は護衛騎士でもある。ベルのね」

「嬉しいわ。おかげで安心して勉強できるわね。ちなみに」


 ベルはわざとらしく周囲を見渡した。


「ここのパーティーに出席している人達は全員お金持ちなのかしら?」


 ベルもまた対応を変えることにした。



 ベル→ためる→ためる→ためる→戦闘力アップ!


 関係ないけど思いついたので。

 シャペル→財布を取り出す→お金を払う→また払う→さらに払う→自動回復機能がアップ!

 お金、無くなりません(笑)

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