金の使い方
彼はスポーツバカだった!
休みの日はグランドへ行き
練習が始まる前にもグランドに行き
青春の全てを己の身体に賭したのだ!
流行りの音楽?
知らんがな!
あなたの地域のデートスポットはどこ?
上記に同じ!
どうして私服がジャージなの?
機能性を求めたらこうなった!
お金の使い道なんて陸上競技関係以外知らない
そんな男が知る、一つのお金の使い道。
これは、とある陸上選手の、
大会数日前の出来事である。
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高校生だった俺は、
数日後に行われる大会に備えて荷物を準備していた。
大会の間、俺は好んで摂取するエネルギー源が二つある。
主に、あんぱんと100%ポンジュースだ。
あんこの糖と果物の果糖は、エネルギーに変換しやすい。
また、柑橘系に含まれるクエン酸は、疲労回復の効果を見込めるからだ。
その二つがあってこそ、
俺は試合をベストなコンディションで迎えることができる。
この二つを買う為に、近所のコンビニへ赴いた。
ショーケースのガラスドアを開け、
ポンジュースを手に取った後、パンコーナーへと向かった。
姿勢を落とし、あんぱんの棚を見る。
...なんてことだ、あんぱんが最後の一つじゃないか。
これじゃあ、朝・昼・夕と続く連戦は凌げない。
気落ちし始めた俺は、しかし。
大会前にネガティブな考えはしない方が良いと思い直す。
こいつは出逢うべくして出逢ったあんぱんに違いない。
そう捉えると、
なんだか意欲が湧いてくる。
あぁ、これを食べて早く走りたい。
暗い気分を振り払う様に、
颯爽とレジへ向かった。
レジに女性が一人、
顔立ちの整ったツリ目の女性である。
営業スマイルという言葉を知らないのだろう。
ぶっちゃけ、怖い...。
意を決して商品を渡し、値段を確認した。
「お会計、256円になります」
財布の口を開き、
代金を取り出そうとする俺の手が止まる。
...これは、ギリギリ足りるか?
幸い背後は誰もいない。
レジのスペースを少しお借りして数えよう。
そう思考した俺は、彼女に一度断りを入れ、
財布の中から一枚、また一枚と硬貨を取り出し、
最後の一枚を手に取った。
...1円、足りないッ!
交差する視線、加速する鼓動、赤みを帯びる俺の耳。
刹那、男が己の想いを告げる。
「すみません、あんぱんキープで」
「はい♪」
答えた。それはもう良い笑顔で。
なんて快活な笑い方だろう。
たった1円だ。しかし、されど1円だ。
ありもしない一枚の硬貨が、彼女の笑顔を引き出したのだ。
俺の中で、一枚の硬貨が確かな質量を持った瞬間である。
必ず、必ず届けよう。
特別な価値を持つその硬貨を。
男は走る。
颯爽と。
笑顔の対価を支払う為に。
最後までご愛読ありがとうございます。
昔の話を文字にして友人に話そうと思ったら、
なんだが字数がかさ張ってしまったようで…
そのまま一本の作品にしてみました。
感想どしどしお待ちしております。
(そんなに来る訳無いだろうって?...欲張らないからお願いしますっ!泣)
ps.処女作なので色々とお手柔らかお願いします
(。´Д⊂) ウワァァァン!!