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8話 DQNは斯くして社畜を独白する

相沢の「お前には関係ない」という心無い一言により傷ついた日向は家を飛び出し、一人物思いにふけっていた……。

 相沢さんの家を飛び出した私は近くの公園のベンチに腰掛けていた。

 あたりには日曜の昼間だというのに人影がない。


 見上げれば、今にも泣き出しそうな空があった。


 「相沢さん怒ってるかな……」


 空を仰ぎながらぽつりとそう呟いた。

 

 動揺して思わず相沢さんの家を飛び出してしまったが、時間を置き、冷静になった今。

 自分に非があることは火を見るよりも明らかだった。


 「はあ……」とため息が漏れる。


 いくら相沢さんが優しいといっても、今回ばかりはさすがに怒っていると思う。


 だって、自分から「家に行きたい」とか「泊まりたい」だとか言っといて、勝手にそこを飛び出して来たんだから。

 普通「なんて自分勝手でわがままな奴なんだ」って思うよね……。


 最悪嫌われちゃったかも……。


 「はあ……」


 再度深いため息をついた。

 


 ――あのとき。


 隣で眠る相沢さんはものすごく苦しそうにうなされていた。

 それに「母さん母さん」と呟く相沢さんは酷く切実で、それでいて泣き出しそうなほどに哀しい顔をしていた。


 そのときの相沢さんの顔を思い出すだけで、胸が苦しくなる。


 助けてあげたい。

 癒やしてあげたい。

 ギュッと抱きしめてあげたいって思う。


 母性なのかなんなのかはよくわかんないけど、とにかく愛しくてしょうが無い。


 まあ、思ったことはすぐに行動しちゃう方だから、あのときもすぐに相沢さんの頭を撫でてしまっていたんだけども。


 それにしても、あの照れたような、それでいて少し悔しそうな相沢さんの顔はすごく可愛かった。


 それに、口では嫌がりながらも、あのあと少し元気になってくれていたから、すごく嬉しかった。


 だけど、そんなものでは足りないぐらい、あのコンビニで出会った時から私は相沢さんに助けられてばかりだ。


 帰りたくない家。

 大好きな母を嫌いになっていく自分。

 誰にも理解されない孤独感。


 そんなものに押しつぶされそうになっていた自分を救ってくれたのは紛れもなく相沢さんだった。


 目をつむれば、いろんな相沢さんの顔をありありと思い返すことができた。

 優しい顔、驚いた顔、照れた顔、怒った顔、嬉しそうな顔。

 

 彼の顔を思い浮かべるだけで、心の中にポッと暖かな灯が灯り、優しい気持ちになれるし、相沢さんに会えるというだけで、明日が待ち遠しいものに思えてくる。


 相沢さんは私の世界を変えてくれた。

 そこは本当に感謝しても仕切れない。


 でも、助けられてばっかりなのは嫌だ。


 相沢さんの苦しみや寂しさやつらい気持ち。

 そのほんの少しでも理解してあげたかったし、支えてあげたいと思っていた。


 だからこそ、私は踏み込んだ。

 いつもなら、笑ってごまかすところを敢えて踏み込んでみたのだ。


 だけど、結果はダメだった……。


 私は彼からまったく信頼されていなかったのだ。


 相沢さんの「お前には関係ない」の一言はその証拠だ。

 苦しみを理解するどころか、知ることすら拒絶されてしまった。


 距離が縮まったと思っていたのは私だけで、相沢さんにとって私はどこまで行っても赤の他人でただの女子高生でしかなかったのだということをまざまざと思い知らされた。

 

 いや、嘘。

 

 本当は始めから分かっていた。

 相沢さんの家を見たときから分かっていたのだ。


 あの立派なマンションにあの若さで住むことができるなんて普通あり得ない。

 しかも、そのマンションの最上階だなんてもってのほかだ。


 つまり、相沢さんはできる大人なのだ。

 私とはまったく違う、凄い人なのだ。


 それに比べて私は一介の高校生でしかなく、お金もないし、頭も悪いし、自分一人では何もできないガキ。

 

 それで対等になろうなんて鼻から無理な話だとさすがに馬鹿でも分かる。

 対等どころか、私みたいな子が相沢さんの隣にいたら彼の輝かしいキャリアに傷が付くとも限らない。


 ――もう終わりにしようかな……。


 所詮、コンビニの前で偶然出会っただけの関係。

 一週間程度の薄い付き合いでしかなかったんだから終わらせようと思えばすぐに終わらせられる。


 そう思い込もうとした。


 だけど、そう思えば思うほどに、胸がキュッと締め付けられるように痛み、酷くつらかった……。


 「どうして私こんな苦しいんだろ……」


 胸のあたりに手を当て、ギュッと握る。

 しかし、その痛みは消えてはくれない。


 こんなこと今まで無かったのに。


 それに、相沢さんなんて、たかだか一週間ちょっとの付き合いでしかないのに。


 なのに、どうしてこれほどまでに切なくなるのだろう。


 「はあ……」


 あまりにふがいない自分に落ち込んだ私が深いため息をついたそのときだった。


 「あれ?日向?」


 パッと顔を上げるとそこにいたのは、親友の「由加」だった……。




 

すみません。

お待たせした割に少ない量で。

次回は長めになると思うので期待していてください。

できる限り早めに書き上げますね〜。

応援よろしくお願いします。

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