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3話 社畜斯くしてDQNに宣誓す

感想くれると嬉しいです。

よろしくお願いします!

 休日。


 それはおそらく日本いや、全世界にいる社畜にとってのオアシスであり自由であり、希望!

 地獄のような平日を乗り切れるのも全てはこの日のためだと言っても過言ではない。


 いつもの俺ならば、休日は、昼前までダラダラと眠り、好きな時にごはんを食べ、眠くなった時に眠る。

 そんな、最高に満たされた休日を送るはずである。


 しかし、今、なぜか俺はあのいつものコンビニの前にいる。

 

 しかも、まだ朝の9時!

 早すぎる……。


 なのに、どうして俺がこんなところに来ているかというと……。


 「相沢さーん!おーい!」


 そう。あそこで大きく手を振るJK「日向」に今日は呼び出されていたのだ。


 「はあ……」


 大きくため息をついた俺。


 そもそもの原因はというと、話は昨日の夜にまで遡る……。



 もはや日課となっていた、彼女とのおしゃべりの中で。


 「あ、日向」

 「ん?何、相沢さん?」

 「一応言っとくけど、明日は仕事休みだからここには来ねーぞ」

 「え、そうなの!?なら、明日遊ぼうよ!」

 「え……?」

 「ね?お願い……?」

 「ぐ……しょうがねーなあ」

 「やったー!なら、明日9時にここね!」

 「おい、それはちょっとはや……」

 「明日が楽しみだ!じゃ、また明日ね!バイバーイ」

 「お、おう……」


 という半ば強引な日向の誘いにまんまとハマってしまったのだ。


 だから、今日は一日、日向と遊ぶことになっている。

 あ、もちろん、JKと遊ぶと言っても卑猥なことはない。

 予定としては、服の買い物に付き合うだけだ。


 「相沢さん、お待たせ。待った?」


 軽く息を弾ませた日向に俺は首を振る。


 「いんや。5分ぐらいしか待ってねーよ」

 「そっか……。なら、よかった」


 ホッと安心したように柔らかい笑みを向ける彼女。

 

 そこでようやく、いつもと違う彼女の雰囲気に気がつく。

 

 「流石に今日は制服じゃないんだな」

 「えあ、うん……。そうだ、ね……」


 すると、なぜか日向は髪や服の乱れを気にする仕草を見せる。

 

 これはもしや……何か言った方がいいのだろうか?

 日向も何かを求めるようにチラッチラッとこちらに視線を向けてきてるし。


 確か、同僚の山下も「女の子は服褒めときゃオッケーだぜ!」みたいなこと言ってたな。


 まあ、あいつの経験談はあてにならないことの方が多いから、その時は気にしていなかったが、万が一、この後「服褒めてくれなかった!」と不機嫌になられても困る。


 日向がそういうタイプであるとは到底思えないが、褒めて悪いことはないはずだ。


 一応、褒めてみるか……。


 今日の彼女は、ピンクのニットにチェックパンツを合わせたカッコいい女の子という服装。

 すらりとした彼女の脚に黒のヒールが良く似合う。

 

 正直、かなりかわいい。

 いつもの制服姿とのギャップで、随分と女の子らしく見えるし……。


 だが、それを素直に口に出せるほど俺はメンタルが強くないので。


 「いいんじゃないか。その服……似合ってると思うぞ」


 と、自分でもどうかと思うぐらいそっけない言い方になってしまった。

 だけど、自分としては最大限の賛辞の言葉だ。

 

 彼女に伝わるといいのだが……。


 俺はそんなことを考えながら、恐る恐る彼女の表情を伺う。

 だけど、全て杞憂だったようだ。


 「えへへ。ありがとう相沢さん。褒めてくれて」


 日向は口元を緩めて、喜んでくれていた。


 その姿を見て、俺は人知れず胸を撫で下ろしていたのだった……。

 


 


 「で、どこ行くよ?」


 隣を歩く日向に聞く。


 「ん?とりあえず、ここかな?」


 そう言ってスマホの画面を俺に見せる。

 俺が画面を覗くと、そこにあったのは最近できた大型ショッピングモールのホームページ。


 「あー、そこか。最近できたあの」

 「そうそう。ずっと気になってからさ。行ってみたいんだ。いいよね?」


 チラリと俺の方を伺う彼女に俺は頷く。


 「別にいいぞもちろん」

 「やった!」


 小さくガッツポーズを決める彼女だったが、すぐにニヤリとした笑みを浮かべる。

 

 「よし。じゃあ、荷物持ちよろしくね?」


 そう言ってポンポン肩を叩いてくる彼女に俺はため息を吐く。


 「おい、もう少しオブラートに包めよ。まあ大体想像してたけどよ……」

 「あはは。だよね、ウケる!」

 「いや、ウケねーから」


 ケラケラと笑う彼女に再度ため息を吐きつつ、俺たちは目的地へと向かう。



 「うわぁ!可愛い!この服……ねえ!着てみてもいいかな!?」

 「いいんじゃねーの?」

 「なら、着てくる!ちょっと待っててね!」


 試着室に飛び込んで行く日向の背中を見送り、俺は鏡のそばにある椅子に腰掛けた。


 今、俺は日向が好きだというブランドの服屋に来ている。

 おっと。服屋じゃなくてブティックって言うんだったなJK用語では。

 ショップでも可らしい。


 さっき、服屋って言ったらえらい怒られた。

 「そんなダサい呼び方世界で相沢さんぐらいしかしない」とまで。


 そんなダメ?服屋って言ったら。


 俺、生まれてこのかた二十八年ずっとそう言ってきたし、周りの友達はそれで通じてたんだけど。

 むしろ、ブティックとかショップなんて言ったら「おい、相沢。お前、脱オタの本でも読んだか?(笑)」みたいな眼差しで見られるまである。


 まあでも、一つだけ言えることは、こうやって知らない世界に触れられるということは、やはりいくつになっても楽しい。


 日向と会ってから、本当に毎日が刺激的で、俺の生活は以前に比べて遥かに彩り豊かなものになったと自分でも思う。

 

 そこだけは、あいつに感謝しなくてはならない。

 

 しかし、それに比べ、俺はあいつの生活を少しでも明るいものにできているのだろうか?

 

 時折、見せる沈んだ表情の裏には何があるのだろうか?


 気にはなる。

 聞いてみたい気持ちもある。


 だけど、俺は待つと決めた。

 あいつが話したくなったその時、しっかりとそれを受け止めてやる覚悟を決めたのだ。

 

 もちろん、俺とあいつはほとんど赤の他人も同然である。

 だけど、それでも、俺はあいつのために……。


 そこまで考えた時、隣のカーテンがいきなりシャッ!という音を立てて開く。


 「ジャーン!!どうよ、この服!?」

 「うわっ!びっくりした……」


 考え事をしていたせいで、必要以上に驚いてしまった俺をみて、日向は驚くどころか若干引いている。


 「キモい……」

 「おい、キモい言うな!それ一番傷つくやつだから!」

 「あはは。まあ、それはどうでもよくて……」

 「どうでもいいのかよ」


 あまりに俺の扱いが酷くてげんなりしていると、日向は「それよりも!これ見て!」というので、そちらに視線を向ける。


 「おお……似合ってるな」


 自然とそんな言葉が口を衝く。


 日向が試着した、フード付きのパーカーはそれぐらい良く彼女に似合っていた。


 「えへへ。でしょでしょ〜?可愛い?」


 袖に半分くらい隠れた手を顔のそばに近づけ、上目遣いにこちらを見つめるその姿は正直かなりグッと来た。


 「ぐ……」

 「あはは。相沢さんの顔真っ赤!」


 人の顔を指差してケラケラと笑う日向にぐうの音もでない俺。


 しばらく、そんなみっともない時間が続いたが、日向が満足したことでそんな時間も終わる。


 「よーし、そんじゃこれ買っちゃおっかな……あ、ヤバッ!ちょっと、相沢さんこっち!」

 「えっ!?」


 突然、日向が焦ったように俺の手を引き、試着室に飛び込む。


 「なっ……!?」


 その拍子に俺の身体を抱きしめるようにして、外から見えないようカーテンを閉める彼女に俺は戸惑ったが、カーテンの隙間から見えた制服姿の男女四人組を視界に捉えて納得する。


 「同じ学校の子たち……」


 俺の視線がその四人組に注がれていたのに気がついた日向が説明するように言った。


 「そうか……」


 俺も何気ない感じで答える。

 

 まあ、同じ学校の子に自分がおじさんといるところを見られるのは嫌だろうしな。

 隠れようとするのは当たり前だよな……。


 そこまで考えた時、胸の奥がわずかに痛んだ気がしたが、気がついていないフリをした。

 

 ふと、何気なく視線を下げると、そこには俺のお腹あたりに押し当てられ、むにゅりと形を歪ませた魅惑の双丘が視界に飛び込んでくる。


 それに、なんかいい匂いも……。


 とりあえず、なんでもいいけど、この体勢は独身アラサー男子にはキツイ。

 特に下半身的に……。


 「おい。とりあえず、離してくれ。流石にこの体勢はキツイ……」

 「あ、ごごめん!」


 ボッと音が聞こえてきそうなほど、顔を真っ赤にした日向はゆっくりと俺の身体に回していた腕を解いていく。


 「たはは……なんかごめん。こんなことしちゃって。嫌だったよね?」


 髪をクシクシと触りながら、申し訳なさそうにそう言う彼女に、俺はなんでもないような口ぶりでいう。


 「いや、まあ驚きはしたが、嫌ではない……」

 「そ、そっか……。でも、まあ、仕方なかったんだよね。さっきの子たちに相沢さんが私なんかといるの見られたら、色々会社とかでも問題になるかもしれないし。そう考えると、なんか身体が勝手に動いちゃってさ……」


 そこまで話を聞いた俺は驚きの声を上げた。


 「えっ!俺のために、隠れてくれたのか?てっきり、俺はお前が俺といるところを見られるのを嫌がってたんだと」


 そこまで聞いた彼女は「は?」と真顔になる。


 「そんなわけないじゃん!私は別に見られようが冷かされようが、どうでもいいに決まってるじゃん。別に何も悪いことしてないんだし」

 

 鋭い視線を向けていた彼女だったが、一転。

 悩ましい乙女のような表情を見せて「でも……」と続ける。


「でも、相沢さんは私と違ってさ。会社での立場とかあるでしょう?たとえやましいことなんて一切なくてもさ、JKといるってだけでリスクだろうし……。だから、そんな相沢さんに失礼なこと絶対思わないよ!それだけは信じて!」


 痛いぐらいまっすぐな瞳でこちらを見つめる日向。

 俺は彼女の迫力に圧倒されて何も言えなかった。


 だけど、身体が言葉よりも先に動いた。


 「え……」


 彼女の頭をポンポンと優しく撫でる俺の手。

 

 日向も、俺の予想外な行動に驚き声を失っている。


 「あの、相沢さん……?」

 「嫌か?」

 「嫌、じゃない、けど……」


 むず痒いような、それでいてどこかホッとするような時間が流れる。


 「信じるよ……」

 「え?」


 自分でも驚くほど、するりとその言葉が口から出た。


 「さっきの言葉。俺のためを思ってやってくれたんだろ?」

 「うん……」

 「なら……信じるよ」

 「うん……」


 短い言葉のやりとり。


 だけど、その時の俺たちは、たしかに心が繋がっていた。


 「相沢さん……」

 「日向……」


 お互いの顔が近づいていく。


 心臓が高鳴る。


 彼女の瞳が潤んでいる。

 唇もしっとりと柔らかそう。


 あと少し。

 あと少しで、俺はこいつと……。


 「お客様〜?いかがいたしましたか〜?」

 「「……っ!!」」


 弾かれたようにお互いに距離を取る俺たち。

 

 どうやら、店員さんが試着室からなかなか出てこないので心配しに来てくれたみたいだ。


 まだ心臓がバクバク言っている。


 「あ、大丈夫でーす!今出まーす!」

 「あ、いえいえ。ごゆっくりなさってください」


 日向が代わりに対応してくれ店員さんが離れていく気配。


 「悪いな」

 「ううん。別に大したことじゃないし……」


 少し気まずい雰囲気が漂う。


 だって今、俺こいつとキスしそうに……。


 そこまで、考えたところでブンブンと首を振る。

 顔が熱い。


 「じゃあ、まあその。とりあえず、出るか……?」

 「そ、そうだね……」


 こうして、俺たちはそそくさと試着室を後にする。


 その後しばらく、俺たちの間には妙な空気感が漂っていたが、そのお店の服をひとしきり見終わった頃にはそんな空気どこかへ行ってしまったみたいで、いつものような冗談なんかも言える程度に元に戻ることができた。


 そんなタイミングで俺はさりげなく切り出す。


 「さっきのパーカー買ってやるよ。いくらだ?」

 「え……いいよ!いい!いい!自分で買うから!」

 「いいから貸せほら」

 「あ……」


 半ばひったくるようにして奪い取るとレジへと向かう。


 「一万三千円になります!」

 「ほい……」


 財布から二枚のお札を取り出して店員に渡す。


 「ありがとうございましたー!またのご来店をお待ちしてます」


 そんな店員の声を背に聞きながら、日向のところへと向かう。


 「ほれ。やるよ」


 彼女にパーカーの入った紙袋を差し出すと、おずおずといった様子でそれを受け取る日向。


 「あ、あの……本当にいいの?」

 「いいよ。別にさほど高くもなかったし」


 これは嘘だ。

 正直、一万越えの出費はでかい。


 「いや、でも……」


 まだ何かごちゃごちゃ言いそうな空気を感じたので、俺は後ろ頭を掻きながら言う。


 「うるさい。俺がお前にプレゼントしたいから買っただけだ。ありがたくもらっとけ」

 「う……でもさ、これ結構高いし」


 まだ言うかこいつは……。


 流石の俺もむかっとしたので、日向のほっぺたを両側から思いっきり引っ張ってやった。


 「い、いひゃい……いひゃいよふぁいざわさん……」

 「貰うって言うまでやめねーからな」


 ムニムニと柔らかい彼女のほっぺを右に左に引っ張っていると流石に観念したのか、彼女は降参の意を示す。


 「もらいみゃす……ほらいみゃすからあー」

 「よし、それでいい……」


 俺が手を離してやると、赤くなった頰をさすりさすりしながらこちらを見つめる日向。


 「もうっ……ここまでしなくてもいいじゃんか」

 「うるせーな。お前が素直にうん、と言わねーからだ」

 

 俺がそう言いながら、歩き出すと、追うようにして付いてくる彼女。


 「ちょっと待ってよ!相沢さん」

 「なんだよ?」


 日向の呼びかけに振り返り彼女の顔を見る。


 すると、彼女は満面の笑みでこう言った。


 「ありがとう!本当に嬉しい!」

 「……そうか」


 顔が熱い。

 慌てて俺は振り返り、歩き出す。


 「あ、照れてる〜!相沢さん!」

 「照れてねーよ」

 「うっそだー!絶対照れてるよ〜!」


 カラカラと楽しそうに笑う彼女の笑顔を見て俺は思う。


 これでいい。

 

 こいつには、やっぱり笑顔がよく似合う。

 

 夕日に照らされた家路。

 沈み行く太陽。


 俺は一人、心の中で誓った。


 俺は俺のできる限り、こいつを笑顔にしよう。

 

 そして、何があろうとこいつだけは守る、と。


 その時の俺は間違いなく満ち足りた時間を過ごしていた。


 ーーだが、しあわせな時間はそう長く続かない。


 「相沢さん……」


 隣から日向の声。


 「ん?なんだ?」

 「今日、相沢さんの家泊まるから」

 「は……?」


 安寧の時は突如終わりを告げたのだった……。





 



 

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