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1話 社畜斯くしてDQNと邂逅す

感想くれると嬉しいです

 社畜。


 それは、地球上で最も哀れな生き物。


 毎日、朝から晩まで嫌な上司に馬車馬の如くこき使われ、定時で上がることなんてもってのほかで、残業するのが当たり前。


 少なくない数の新人社員がその過酷さに耐えられず辞めていった。

 かく言う俺も何度かやめようかと思ったこともあったが、どういうわけかしぶとく今の会社に勤め、この地獄のような生活を送るようになって、早四年になる。


 寝て起きて仕事に行き、帰って寝る。

 繰り返される単調な毎日。


 そんな俺にとっての至上の喜びは「会社帰りに飲むコンビニのビール」になりつつあった……。


 

 


 「ありやっした〜」


 間延びした店員の声を背に受けながら、コンビニの外に出る。

 片手には一本の缶ビール。


 外は快晴。

 都会ゆえに輝きは淡いが、それでも星空というのは綺麗だった。


 しばらく、ジッと夜空を見上げていた俺だったが、それに満足すると喫煙コーナーへと向かう。


 時刻は深夜。


 人通りも少なく、いつもはそこで一人タバコをアテにビールを呷るのだが、今日はなんと先客がいた。


 夜空を見上げながら、ぼうっとしてタバコをふかす女の子。


 しかも、制服を着ているので高校生らしい。

 短めのスカート、大きく開いた胸元、金色に染められた髪。


 いわゆる不良少女。


 今時に言うとDQNだろうか。


 しばらく、立ち止まって彼女のことを見ていると、彼女の方も人の気配に気がついたようでこちらに顔を向ける。


 「ちっす」

 「……お、おう?」


 想像よりもはるかにフランクな挨拶に戸惑ったが、思っていたよりも怖い人じゃなさそうだ。


 俺は彼女と三人分ほどのスペースを空けて立つ。


 カシュッ


 缶ビールのプルタブを引き、一気に呷る。

 キンキンに冷えた液体が喉元をゴクゴク流れていく。


 「っくう……!」


 うまい!といつもの癖で叫びそうになるのを慌ててやめる。

 

 「おじさん……」

 

 隣からの声にハッとする。

 

 「な、なに?」

 「なんでそんなに焦ってるの?ウケる」

 「あ、焦ってないし……」


 俺がつっかえながらそう答えるとさらに爆笑する彼女。


 流石にムッとした俺は強めの語調で聞く。


 「で、なんだよ?なんか話があるんじゃなかったのか?」

 「え……?あ〜、いやそんな大した話じゃないよ。ただ、美味しそうにビール飲むな〜って思っただけだし。怒った?」


 チラリと申し訳なさそうに上目遣いになる彼女に俺はぽりぽりと頰を掻く。


 「いや、怒ってはない……」

 

 そう答えると、ホッと胸を撫で下ろす仕草を見せる彼女。

 胸元が大きくはだけているので、高校生にしては肉付きの良い身体をしている彼女の大きな果実が目に飛び込んでくる。

 

 一応そこから視線を外す。

 

 酔いも少し回っている。

 近くにあったベンチに腰掛けた。


 「で、君はなんでここに?家に帰らなくていいの?」

 

 タバコに火をつけながらそう聞く。


 すると、彼女は立ち上がり、灰皿にトントンと灰を落としながら答える。


 「いいの。私がいない方がお母さん喜ぶし」

 「そうか……」


 あまりに平然と言い放ったのでこちらも普通に返すしかできなかった。

 ただ、彼女にも色々あるのだと言うことだけはわかった。


 ビールに口をつける。

 残りは三分の一ほどしかない。


 「おじさんはいつもここで?」


 すぐ隣から声。

 その手にタバコはない。


 いつのまにそんな近くに……?


 少々驚いたが、口には出さず、タバコを口に当てがいながら答える。


 「まあな……。基本的に毎日ここにいる」

 「そっか。でも、なんでこんなところでビール飲むの?あ、もしかして奥さんが怖いとか?」


 ニヤリと底意地悪そうな笑顔をこちらに見せてそう笑う彼女に、俺はため息をつきながら答える。


 「奥さんが怖いもなにも。俺は独身だ」

 「え、嘘!?」

 「ほんとだ。つーか、なんでそんなに驚くんだよ?まだ二十八なんだからそんなに可笑しなことでもないだろう?」


 タバコをふかして、そうたずねると、彼女はさらに驚く。


 「え!?二十八?てっきり三十歳超えてるかと思ってた」

 「ほっとけ……」


 自分で思っていたよりもいじけたような声になってしまい、照れ隠しのために顎を撫でる。


 明日は髭剃ろう……。


 そんなことを一人で考えていると、チョンチョンと肩を指でつつかれる。


 「なに?」


 隣を向くと、満面の笑みを作った彼女。


 「可哀想だね!おじさん!」

 「うるせー」


 憎まれ口を叩きながらふと思う。

 

 こういう笑顔は案外、年相応に可愛いな。

 まあ、清楚系がタイプの俺からすれば好みではないが。

 俺はもっと理知的で、温和で、グラマラスなお姉さんがタイプなのだ。

 ガキはタイプじゃない。


 でも、今日はこいつのお陰でいつもより明るい気分で家に帰れそうだ。


 残り三分の一ほど残っていたビールを飲み干す。


 立ち上がる。


 「あれ?もう帰っちゃうの?」


 残念そうな顔でこちらを見上げる彼女。


 「明日も朝から仕事なんだよ」


 俺は素っ気なくそう答える。

 すると、彼女はうつむき加減になって「そっか……」と呟く。

 寂しげに揺れる瞳。


 明日も会社はたしかにある。


 だけど、哀しいかな。


 生憎俺は女子高生のそんな姿見て放っとけるほど、腐っていない。


 「いや、気が変わった。もう一本買ってくるからそこで待っとけ」

 

 バッと顔を上げる彼女。

 そこには満面の笑みがある。


 「ほ、本当に!?」

 「本当だっつの。だから、大人しくそこで待ってろよ」

 「うん!待ってるね」


 嬉しそうに頷く彼女。


 後ろ頭を掻きながらコンビニへと向かう。


 自動扉が開き、店内に電子音が響く。


 「いらっしゃいやせ〜」


 間延びした店員の声を聞きながら思った。

 

 どうやら今日は長い夜になりそうだ。

 

 

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