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桜なんて消えちまえ。

作者: 鮎川 拓馬
掲載日:2018/03/22

桜の花が嫌いすぎる少年。そんな少年が病みすぎた、ある日の物語。

―今年もこの季節がやってきた


「……」

僕は、ついこの間まで枯れ木だったはずの街路樹が、うっすらと桃色に色づいているのを見て、その場から逃げ出したくなる心地に囚われる。

だけど、思い直し、その場にとどまった。

―逃げ場なんてないんだ

この場を駆けだしたところで、ものの数分もしないうちに、どこかでこの木に出会うだろう。学校の校庭で、橋の脇で、駅の前で。


―僕は(やつら)が嫌いだ


それは何故かって?それは、(やつら)が、時の流れと、現実を僕に突きつけるからだ。

去年のこの季節から、自分は何も変わっていない、何も成長していない、と言う事実を、ありありと僕に突きつけるからだ。


―だから、僕は(やつら)が嫌いだ


(やつら)のその存在自体が、そんな僕を無能だと嘲笑っているかのように、思えるからだ。



僕だって、できる限りの努力はしてきた。自分を変えようと、今いる状況を少しでも良くしようと。

だけど、結局、努力は無になって。状況は何も変わらなくて。


そうして、今年もまた(やつら)が花開く。そうして僕は、何も変わっていない自分と言う現実と向き合う羽目になる。

自身を無能と呼んでいる(やつら)に言い訳をしようにも、相手は物言わぬ木で嘲笑すら返ってこないのは分かっている。しかし、(やつら)はただ黙ったまま、確実に僕を馬鹿にし見下している。


――ああ、あなたは今年もまた、変わってはいないのね


と、取り澄ました顔で、(やつら)は語っているのだ。




「……」

再び桜を見上げ、僕は思う。

僕のこの気持ちの根本を突き詰めると、季節が流れるのが嫌いなだけなのかもしれない。時間が流れていくのを、認めたくなくて。


―時よ、いっそ止まってしまえ


しかし、心の中でその願いを叫びつつも同時に、そんなことが無理なのは、自分が一番理解している。



―ならば…

ならば、せめて時が流れていくのを感じていたくはない。


―なのに、なのに(あいつら)がいるから…

僕は、時の流れからは、永遠に自由になれない。




(あいつら)が悪いんだ。(あいつら)さえ、この世界に存在しなければ。僕の世界(視界)に入ってこなければ




その夜、ついに僕は、薬剤の入った容器に手を伸ばした。これを撒けば、(やつら)はいともたやすく消えてくれるだろう。


しかし、指先がほんの少し、容器に触れた瞬間、僕は考え直した。



―僕のような、ちっぽけな存在じゃ、この広い世界の(やつら)は消し尽くせないよ…




―せめて神様


僕は容器を傾ける。その口から垂れた液体が、自分の世界を映す器官(ひとみ)に向かう。


―僕の世界から(やつら)を消してください

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― 新着の感想 ―
[良い点] 時の流れを感じさせる桜を睨み付けるような表情で見ている主人公。 そんな情景がパッと浮かんでくるような作品だと思いました。 だけど、読めば読むほど、 本当に憎んでいるのは桜ではなく、変わ…
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