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バス停のすぐ東が森で、私の実家は東にある。
森を抜けるとすぐに実家という位置関係だからだ。
何故森に道を通さないのかと言えば、その話は何度もあったのだが森の所有者が「先祖代々の土地で……」とか何とか言って、首を立てに振らなかったのだそうだ。
しかし街灯があり、車の通行もある道を通るとすれば、大きく北上してそして南下しなければならない。
時間にして一時間近くかかってしまう。
それでも私は毎日その道を歩いて帰っているのだ。
冬が間近のこの時期は仕事が終わり、バスが実家近くに着く頃には、辺りはすっかり暗くなっている。
そんな状況の中、森に入るのは躊躇われた。
私は殺されるのも行方不明になるのも、絶対に嫌だったからだ。
そう言うと清美は笑う。
「なにびびってんの」
「清美、今回は本当に怖いわよ。あなたもびびったほうがいいわよ」
「そんなのぜんぜん怖くないわよ。びびっているほうがおかしいわ」
――きっとこういう人が、襲われるんだわ。
私はそう理解した。
しかしある日、私は実家に帰ってから大切な人と会う約束をしていたことを思い出した。
時計を見れば、すでに今すぐ出て行かなければならない時間となっている。
次のバスが来る時間も迫っていた。
なぜさっきまでこんな大事なことを忘れていたのか。
自分で自分に腹が立った。