1
四方を山に囲まれた小さな町。
人口は四万人ほど。
平成の大合併で市に成り上がる前は郡部だったところだ。
市の名前を言っても、県外の人でその名を知っている人は少ない。
それが私の住んでいる町だ。
そんな何も誇るものがない町が、一躍有名になった。
一ヶ月足らずの間に、三件の殺人事件と三人の行方不明者があったからだ。
殺されたのは全員女性。
二十代が二人と四十台が一人だ。
行方不明になったのもみんな女性で、中学生が一人に高校生が二人だった。
警察もマスコミも同一犯と決め付けて、捜査と報道を続けていたが、今のところ犯人の目星はついていないようだ。
「ほんと、怖いわねえ」
私は同僚の清美に言った。
清美と私は共に小さな会社で事務員をしている。
大学があった都会での就職も可能だったが、地元のほうがのんびり出来るとふんで帰ってきたのに。
狭い町で六件もの重犯罪が続いているとあれば、四年間住んだ都会のほうがまだ安全なのかもしれない。
「まあ、大丈夫なんじゃない」
清美はことなげに言う。
いつもそうだ。
彼女は何かについて悩むということが、まるでないのだ。
自分がいつ被害者になるかもしれないと言うのに。