4:城木貴子
もーっ!!
あ゛ーっ!!
も゛ぁーっ!!
やーだぁー!!
シャネルの鞄を振り回しながら人ごみを抜ける彼女の目には涙がにじんでいた。
城木貴子。28歳、OL。
「お前には!!俺はっ!!必要っ!!ない!!だってさ!!」
行きつけのバッティングセンター、専用バット、専用マシーン。
次々とホームランを飛ばす彼女の周りには人だかりが出来ていた。
「またか。懲りないな、お前も」
高橋竜。28歳、バッティングセンター経営。
「あたしそんなに強くない!!」
彼女の飛ばした球は的を突き破った。
「おいっ!!言ってる事とやってる事あってないぞ!!アレ修理するの高いんだぞ!!」
「あ゛、ごめん」
「大体お前理想高すぎ!!お前が振られて被害被る俺の身にもなれよ!!」
竜は半泣きになりながら慌てて止めに入る。
「…ごめんて」
「謝って問題は解決しないでしょ。打開策を考えなさい」
竜は貴子をベンチに座らせ、蒸しタオルを貴子に手渡す。
「…………」
貴子は蒸しタオルで涙と取れた化粧でぐちゃぐちゃになった顔を覆う。
「……相手のランク落とすとか、趣味変えるとかいう考えは無い訳?」
沈黙が数分二人を覆った。
「……一つあった」
おもむろに貴子は声を発する。
「何」
「竜と結婚する」
竜は飲んでいたコーヒーを勢いよく吹き出した。
お気に入りの緑色のポロシャツには不気味な模様が刻まれてしまった。
「馬鹿かお前」
竜は蒸しタオルを貴子から引ったくり、急いで染みを落とした。
貴子は身を起こし竜を見つめる。
「本気」
貴子の顔に涙は無かった。
代わりに顔中が真っ赤になっていた。
「…ランク落としすぎじゃないか?」
「あんただって社長でしょ」
貴子は再びバットを手にし、コインをマシーンに投入した。
「ホームラン打てたらOKしてよ!!」
打席から竜を見つめる。
「……お前それ選択肢1つしか無いじゃん」
竜の呆れた顔に、貴子は笑顔で球を待った。
――――――――――――――――――――――
「そういやこのマシーン誰も使わねぇよな」
「それ160キロのフレキシブル変化球だぜ」
「は?!誰が打てるんだよ」
「…ある伝説の女性の専用コースだったんだ…」
「何だよ伝説って…え、女?」
「…彼女は数ヶ月に一度現れては泣きながらホームランを打っていた」
「どんな怪物だよ!!」
「今笑顔で客の応対してる人」
「あの人ぉ?!」
「…何があったかは分からんが、客から店の人になっていた…」
「…お前っ、何泣いてんだよ?」
「……」
「もしかして好きだったのか?」
「……違う」
「なんだよ」
「今回俺らに笑いの要素が無い…」
「そんなことで泣くな……一大事だなそりゃ」
「どーしよう」
「次回頑張ろうぜ」
「そだな」
「立ち直り早いな」
「そかな」
「馬鹿だから」
「そだ…ってんなわけあるか!!」
「…………!!」
「!!」
「……!」
「…」
「…」
・・・・・・・・・・・・・・
おしまい




