2:菅 知枝
菅 知枝。大学一年生、19歳。性格、普通。容姿、普通。彼氏、無し。
欠けているもの、勇気。
「これってさぁ、なんて読むの?」
講義終了後、一人の男が知枝に声をかけた。
男は知枝の書いた出席カードを指差している。
「何がですか」
「君の名前。下の」
ちえ?ともえ?それとも他の名前?
と独り言のように呟き、男は知枝の出席カードの名前の欄を人差し指でつついた。
「ともえ、ですけど」
特別興味を持たれる様な名前ではないと思っていた知枝は、
男の質問を不審に思い、明らかに怪訝そうな顔をした。
「あ、や、ごめんごめん。深い意味はないんだ」
苦笑しながら知枝の出席カードを回収する。
「ただ、もし俺たちが結婚したら周りがすごく混乱するだろうな、と思って」
自分の胸ポケットに挟んであるIDカードを知枝に見せる。
心理・助手:門田知枝 笹原研究室所属
「漢字だと、二人そろって門田知枝だろ?」
はは、と笑いながら回収し終えたカードをボックスに戻し、
黒板を消し始めた。
菅 知枝。大学一年生、19歳。性格、普通。容姿、普通。彼氏、無し。
欠けているもの、勇気。
欠けているもの、勇気。
「こっ、こここ混乱させてみませんかっっ」
知枝のひっくり返った声は講義室中にこだました。
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「あ、今通ったコ」
「何?」
「1年が『勇者』って言ってたコだ」
「勇者ぁ?何したんだよ」
「初めて会って、2,3言会話交わしただけの相手に」
「うん」
「プロポーズしたらしいぜ」
「ぶっ!!…プロポーズ?!」
「勇者だろ」
「勇者だな」
「braveだろ」
「ぶれぇいぶだな」
「heroだろ」
「ひぇろぅだな」
「お前英語もダメだっただろ」
「しゃwrap」
「包んでどーすんだよ」
「しゃrap?」
「リズムに乗って喋るように歌ってどうすんだよ」
「しゃぅらららららーっぷ!!」
「お前がshut up!!」
「はぃすいません」
「…あぁ、枠外で何やってんだろ俺ら」
「…な。」
「結局あのコうまく行ったのかなー」
「あの笑顔がそれを物語ってると思うけど」
「お前のくせにいいこと言うじゃないか」
「お前のくせにってなんだよ」
「お前ごときが」
「よろしい」
「よくねぇよ馬鹿」
「なにぃ?!」
「……!!」
「…………?!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
おしまい




