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5.ヒロイン登場です

 王立学園は家が近い遠いにかかわらず全寮制である。

 夏と冬の長期休み以外は休日でも外泊は事前に届け出が必要となる。特例として実家が伯爵家以上の生徒については個室で2人まで侍女か侍従の付き添いが可能である。この特例のおかげで私ことシーアン・サワクーロ公爵令嬢は絶世の美少女になれている。化粧怖い。

 さて、あまり頭はよくない私だが王太子や兄たちの教え方がうまかったせいかなんと! この王立学園に主席入学を果たしたのである。そして主席入学ということは当然のことながら入学式に新入生代表の挨拶をしなければならない。

 だが、そんなことをこのシーアン・サワクーロ公爵令嬢がするわけはないのである。母の怒りを買うことは必至だったがここで私が引き受けるわけにはいかない。そんなことをしたらヒロインが全校生徒に顔と名前を覚えてもらえる機会はないのである。

 そんなわけで新入生代表の挨拶を蹴って迎えた入学式、壇上に上がったのはリトーネ・イテイーサ男爵令嬢だった。どちらかといえば黒に近い焦茶の髪に黒い瞳のヒロインは、美人ではないが可愛らしい容姿だった。

 うむ! と首尾に満足していると貴賓席の方から鋭い視線が私を刺した。夏休みは間違いなく母の説教で始まるのだろうとどんよりしていたせいかヒロインの挨拶を聞き逃してしまった。まぁいいか。

 どちらにせよヒロインと同じクラスになるはずである。王立学園は一応平等をうたっており、入学試験の成績上位10名は同じクラスとなる。残りのクラスメイト? 親の地位が高い順だ。従って後ろの方のクラスは一般庶民が占めている。これは貴族の子弟が一般庶民を表立ってバカにしたりしないようできるだけ接触を避けた措置らしい。物は言いようだ。

 クラスに入り教師から連絡事項を聞き、必要な用品を受け取ると今日はこれで終りとなる。


「シーアン、早くしろ」


 教師が出て行ったのと入れ替わりで第二王子がずかずかと教室に入ってきた。そのすぐ後ろには美貌の従兄が付き従っている。


「ザワーオさま、せかさないでくださいませ」


「荷物はこれだけか」


「王子、シーアの荷物は私が」


「いい、私が持つ」


 入学式だけは対外的に関係を周りに知らしめる必要があるので、念の為教室に迎えにくるよう第二王子に指示したのは私だ。王城へ顔を出しているうちに何故か王子と従兄は悪友と言ってもいいぐらいの関係となり、学園ではつるんでいるらしい。男ってやっぱりわけがわからない。

 そんなわけで王子が迎えにくる、ということは自然と従兄もついてくる。入学で配られる用品などは従兄に持たせればいいかと考えていた私は、王子がスマートな所作で私の荷物を持つのを目にして困惑した。

 まあどうせ寮の部屋までだからいいかとのほほんと考えていたら。


「……え? 王子とシーアンってもしかして仲良し? あの人ジンセンバニよね? なんで美形なの?」


 後ろでぶつぶつ呟いているのが聞こえた。この声はヒロインかと思われる。

 あ、この子も転生かトリップ組だと気付いた。


「王子よりもジンセンバニを狙うべき? 狙っちゃう?」


 攻略には攻略対象全員の好感度を一定以上上げる必要はあるので、最終的に誰を狙うにしても全員と接触は図るだろう。ヒロインがうまく立ち回ってできれば王子の心を奪ってくれるとありがたいのだが。

 え? 従兄? 従兄が陥落したら婚約破棄できないじゃないのッ!!


 取り巻き、というのは本人が望むと望まざるとにかかわらず湧いてくるものらしい。王子と婚約している私はいい餌に見えるらしく一緒にいたがる人が増えた。彼女たちを友人と呼ぶのも嫌なのであまりかまわないでいたら、何を勘違いしたのか身分が低い家の子女をあからさまにバカにするようになった。全く、お里が知れますわよ。

 やっと今日も終わったと帰る用意をしていたら、彼女たちがどうでもいいことでヒロインに突っかかっていた。


「ちょっと! 肩が当たったわよ」


「あ……ごめんなさい」


「服が汚れちゃったじゃないの! どうしてくれるのよ!?」


「何をしている」


 そこへ現れたのは第二王子。入学式以降は特に顔を出しもしなかった王子だが、ヒロインが木の上から自分の上に落ちてきてからはまた迎えにくるようになった。いいぞそのまま順調に攻略されてくれたまえ。


「あ、殿下! い、いえ、なんでもございません……」


「イテイーサ嬢、大丈夫か」


「はい、大丈夫です」


 慌てる彼女たちを尻目に王子はヒロインを構う。ヒロインは当初従兄にロックオンしたようだったがあまりにも従兄がつれないので王子にシフトしたらしかった。


「おい、シーアン。これはどういうことだ」


「なんのことですの?」


「何故お前の腰巾着どもにイテイーサ嬢がからまれている?」


 私は嘆息した。やっぱりこの王子は愚かだ。

 そんなことを彼女たちの前で言ったら隠れて嫌がらせされるに決まってるじゃないか。


「ザワーオさま、私は彼女たちの保護者ではございませんのよ?」


「あの、本当になんでもありませんから!」


「イテイーサ嬢……」


「……面倒くさい……彼女たちの家に王子の名で抗議でも入れればいいじゃないですか」


「それはいい考えだジンセンバニ!」


「……それは暴君の始まりではありませんの?」


 従兄よ、やりとりが面倒くさいからと言って適当なことを言うのはやめろ。彼女たちが青くなってるじゃないか。


「あのっ! 本当になんでもないので……」


「なんとけなげな……」


 そういうことはよそでやってくれ。それにしても王子よ、なんてチョロいんだ。

 王子とヒロインは順調に逢瀬を重ねているようである。そこらへんは付き合わされる従兄からぼやかれるので状況把握はしやすい。


 そうして迎えた夏休み、あろうことか王子は王城へヒロインを誘ったらしい。王子よ、一応婚約者がいる身だということを忘れていないか? しかも簡単に了承するヒロインもどうなんだ。

 そんなこんなですっかり忘れていたが、久しぶりに帰省した我家で待っていたのは壮絶な笑みを浮かべた母だった。夏休みの前半は母による愛の鞭という名のスパルタ教育を詰め込まれ、後半になってやっと王城に顔を出せばいつもの面々の他に、ヒロインが当り前のように腰かけていたのを見てどっと疲れた。


「今日は人が多いのですね! 王太子殿下にも会えて光栄に思います!」


 今日は、ということは王子と2人きりで会っているらしい。無邪気に、口元だけ笑んでいる王太子に話しかけるヒロイン。なんという混沌っぷり。

 このまま回れ右で逃亡しても罰は当たらないと思うのは私だけだろうか。

5/20 8時 ランキング日間総合10位、ありがとうございます! 完結までがんばります!

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