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3.婚約披露パーティーらしいです

―だから、何がどうしてこうなった?


「はああああーー」


 美しい銀色をメインとしたドレスを着せられながら私は大仰にため息をついた。王太子が自ら選んだというドレスはピンクブロンドの髪によく映えた。


「お嬢様、これで3回目ですよ。せっかくの婚約パーティーですのにそんなにため息をつかれたら王太子殿下に愛想をつかされてしまいますよ?」


 侍女たちが笑いながら言う。おう、頼むからとっとと愛想をつかしてほしい。かなり切実に。

 髪のセットやメイクが失敗すれば、とか。馬車が途中で渋滞に遭えば、とかそんなネガティブな望みを持ってはみたものの、そういう日に限って全てが順調で嫌になる。我家が公爵家という以上に未来の王太子妃が乗っている馬車ということで王城の門では先に通されてしまうし、しかもなんのパフォーマンスなのか王城の大広間に繋がっている入口では王太子が待っているしで散々だ。


「シーア、愛しい人。どうかその美しい御手を私に預けてはくれませんか?」


 ああもう手袋を投げつけてやりたい。王家の人間、それも王太子妃など冗談じゃない。

 しかしそんなことができようはずもなく、私はしぶしぶと手を差し出した。自然な所作でその手の甲に王太子が口づける。少なくない観客がどよめいた。

 うわああああん。今すぐ裸足で逃げ出したかったが、見た目優雅に、それでいて絶対に離さないぞとがっちり腰を掴まれ私は大広間にドナドナされたのだった。


 え? これまでの経緯を説明しろ? では手短に。

 王太子が私ことシーアン・サワクーロを婚約者に望んでいる、という噂があったというのは前述した通りである。だが噂は噂、本人に確認しに行ったりしなければどうにかなると楽観視していた。しかしそうは問屋が卸さなかった。

 発端は私がヒロインに同情して第二王子からの申し出に待ったをかけたことだった。

 私と第二王子はすでに円満に婚約解消をしているが、そうするには何らかの明確な理由が必要だったらしい。そこに描かれていた図としては、第二王子に好きな女性ができ、その女性を妾にしようとしたが私が強く反対した。どうしてもその女性を諦めきれない王子は私と協議の上婚約解消をし、彼女を妾として迎える。

 つまり、私たちの婚約解消にはヒロインの犠牲が条件だったのである。だが私が待ったをかけたことで事態はややこしくなってしまった。

 なんてこった。


「というわけで、シーアは責任を取って私と結婚すること」


「……そこまでしなきゃいけないんですか?」


「もちろんさ」


「だが断る!」


「シーアは面白いな。悪いけど拒否権はないよ」


 昼休み、相も変わらず学園のカフェテリアへやってきた王太子はすこぶる楽しそうに私に告げた。


「……私が全く望んでいないのに?」


「結婚してから育まれる愛もあるんじゃないかな。少なくとも私はシーアのことが好きだ」


 くそう、イケメンめ。兄ほどではないがイケメンめ。気障な科白が似合いすぎて周りの女子が卒倒するからやめてくれ。

 実際通りすがりに聞き耳を立てていたお嬢様たちが「いや、ステキ……」とか呟きながらバタバタ倒れている。この後始末をいったい誰がすると思っているんだ。(少なくとも私ではない)


「とにかく、私は嫌です」


 意思表示ははっきりと。


「……ほんの少しでも私に望みはないのかな」


 それがなんだか寂しそうに聞えてしまったが、ほだされるわけにもいかない私は聞かなかったフリをした。

 とはいえ私の意志でどうにかなるものではなく、王家から是非にと打診されてしまい兄が怒り狂ったのは記憶に新しい。王城へ剣を持って抗議に行こうとした兄を止めるのはたいへんだった。「殿中でござる! 殿中でござる!」兄が切腹するのはごめんだ。


「ふうん? 王太子殿下が貴女を幸せにしてくださる方ならいいのだけど?」


 娘を泣かせたら国ごとぶっ潰してやるという気勢な両親をどうどうと宥め、第二王子よりはましだからとどうにか納得してもらった。つーか何故私が王太子をフォローせねばならんのだ。解せぬ。


 話を王太子との婚約披露パーティー当日に戻そう。

 結果流された形になってしまったが、これが王家としてはベターだったのだろう。第二王子と公爵令嬢が婚約解消をしたのは、王太子が公爵令嬢に横恋慕したせいだ。公爵令嬢に全く非はない、というところに落ち着いた。

 そうは言っても口さがない連中はいるもので、国王から正式に王太子と私、サワクーロ公爵令嬢が婚約することが発表されるとあからさまにひそひそと噂話を始めた。今回は王家の落ち度(体面上)とはいえさすがにどうかと思うんだ。

 表情筋を駆使して貼り付けた笑みを浮かべ、王太子と共にあちらこちらへ挨拶へ行く。それこそ大広間中を回ることとなり、おかげで噂話の収集には事欠かなかった。一応これでも未来の王子妃になる予定だったのでほとんどの貴族の顔と名前は頭に入れてある。ブラックリストの作成がはかどるというものだ。

 もちろん挨拶周りだけでは終らず王太子とダンスをすることになった。


「足を踏んでしまいましたらごめんなさいね」


「力を籠めて踏まなければ不問に付すよ」


 内心舌打ちした。せっかくのピンヒールだというのにもったいない。

 2回続けて王太子と踊った後、第二王子にも誘われたので1回ぐらいはいいかとダンスをした。


「久しぶりだな」


「ザワーオさまにおかれましてはご機嫌麗しく……」


「よせ」


 嫌みが通じたらしい。


「兄はいい男だ。君を任せるのに相応しいと思う」


「……そうですか」


 第二王子との未来は描けなかった。王太子との未来はどうだろう。

 ダンスが終ると、私たちは互いに礼をして速やかに離れた。このまま姿をくらませてしまおうかと思っていたのだが見透かされていたらしい。すぐ側に王太子がいた。


「シーア、もう1曲踊ろう」


「え」


 いいかげん疲れたので休みたいのだが、もちろん王太子が聞いてくれるはずはなかった。


「少し風に当たってまいりますわ。殿下は中にいてくださいまし」


 インドアの体力不足にトータルで4曲も躍らせないでほしい。運動神経もないのでへとへとである。絶対ついてくんな、と暗に意志表示をしてテラスに出る。もちろんテラスの入口には侍従と侍女を配備してもらった。なにかあったらたいへんだし。

 雲間から三日月というよりは太った月が覗いている。季節は夏だが頬に当たる夜風が心地よかった。


「はああああーー……」


 大きくため息をつく。テラスの端に設置されているランタンの灯りが何かを演出していた。

 そこではっとした。もしかしてこれは何かの……。


「佳人のため息はなんと甘いのだろう……。シーアン嬢、貴女は本当にあの王太子と共になっていいのですか?」


 風を伴った甘い声と共に現れたのは、白金のローブに身を包んだ魔術師だった。長い銀髪は背中で一つにくくられ、その瞳は赤と金のオッドアイ。細面の顔は美しく、佳人とはどこだとその胸倉を掴んでがっくんがっくん揺らしてやりたいぐらいである。


「……どなた?」


 第一印象としては、なんの中二病の具現化か、である。銀髪ということは宰相の血筋かと思われるが、ゲーム内の攻略対象である息子にこんな兄弟だか親戚がいただろうか。小首を傾げて尋ねると、魔術師は意外そうな表情をした。


「ご挨拶をするのは初めてでしたね。シーアン嬢、私はシクカ・ニチュウ・ショウサイと申します。今年学園を卒業したロオヒョの兄です」


「ああ……ショウサイ公爵のご長男でいらっしゃる? 初めまして。私、少し寒くなってしまったので失礼しますね」


 そう言って、更に近づいてこようとする魔術師から急いで距離をとった。


「ええ、またお会いしましょう」


 そう言って微笑む姿も絵になるのが悔しい。

 つーかコイツ絶対隠しキャラその2だ。なんでよりにもよって私とフラグを立てようとするのだ。

 魔術で接近された為侍従や侍女の対応が遅れた。しきりに謝る2人を宥め、荒れ狂う内心を悟られないようにして大広間へ戻った。

 明日はヒロインと作戦会議をする必要がありそうだ。

隠しキャラその2登場。

シーアの言う中二病はシクカの外見設定が中二病の人に受けそう、というイメージです。


中二病ちゅうにびょうは、中学2年生(14歳前後)で発症することが多い思春期特有の思想・行動・価値観が過剰に発現した病態である。

http://dic.nicovideo.jp/t/a/%E4%B8%AD%E4%BA%8C%E7%97%85(出典先)

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