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恋の香り

思い出は初夏の香り

作者: こぴぼう

短編「初夏の香は恋の香り」の続きになります。

「初夏の香りはまだお好きですか――?」


そう言ったのは私だったか、彼だったのか――――



*****

初夏ういか合コン行こう、かわいい子揃えるって言っちゃったの。ね、お願いっ」


パンッと両手を合わせた友人がくれたクリームたっぷりなめらかプリンを口に入れて固まった大学構内のテラス、今一瞬で曇った私の心とは違い、ここの日当たりは良好だ。


「私そーいうのはちょっと」スプーンをくわえつつモゴモゴ言うと、友人は困った笑顔で私の頬をつついた。

「ご 冗 談 をっ !

初夏っ、そのプリン(報酬)食べてNOと言…


わせると思ってんのかゴルァ!?」

友人は悪徳…ゴホン、報酬先払い派だった。これが報酬なら先にそう言ってくれよ…


今ならわかる。友人は私を心配してくれていたのだ。たった一夏の恋を何年も引き摺って、男の子と接点さえも持とうとしない私を。


「「「乾杯ーーー!!」」」若いテンションでカチンとグラスを合わせあう。

「初夏ちゃんて彼氏いないの?」距離感近めの男の子が耳元に顔を寄せてきた。ゲゲッと思いつつ、やや上体を引いて頷いた。


「彼氏なんていたことないですよ。ずっと好きな人ならいるんですけど」


その回答が面白くなかったのか、トイレから戻る時に待ち伏せされて壁ドンされた。「ねぇ、好きな人がいるのに合コン来るって、もしかして体が寂しいアピール?」


壁ドンしてる自分に酔ってるのか、鼻息が荒くて気持ち悪い。蒼君助けて――



ドンと彼を突飛ばし、バッグを掴み適当にお札を数枚置いてダッシュで駅を目指した。途中で追いかけてきた友人に泣きながら謝った。

「ごめんっ、でもっ、ダメなのっ。ひっく、蒼君じゃなきゃ、ダメなのっ」


そっか、ゴメンね初夏…


私の背中を撫でながら友人は静かに謝ってくれた。

皆、思い出は美しいものだとか恋に恋してるんだとか言う。そうかも知れない。蒼君にはもう会えないのに、執着してどうするんだ。

そうわかってるのに心は蒼君を好きでいることを止めてくれない。


就職して数少ない同僚の一人に好意らしきものを示されても、大泣きした大学生の合コンの帰り道となんら変わらず蒼君への気持ちを自覚する以上、好意に応えられるはずもなくて気付かないふりをした。


ヤバいとは思ってる。私きっとこのまま老いていくんだ。きっと親戚のおばさんたちに「初夏ちゃん、結婚はまだ?まぁそういうのはご縁だから。おーっほっほっほっ」とか何十年も面白おかしくネタにされるんだ。ちっくしょう。


*****

逆光の夕陽でその男性の顔なんてわからなかった。でも胸がギュッとなって涙が止まらなかったから、蒼君だとわかった。蒼君だと脳内で理解するより早く、体の方が彼に気が付いたようだった。


滝のようにとめどなく涙を流しながら腰が抜けたようにへたり込んでしまう。


「あおっあおっ」

断じてセイウチの真似をしているわけではない。


「蒼君、蒼君っ…?うそ、本当?」

「本当に俺ですよ。あなたこそ本当に初夏先輩ですか?」


長い脚を曲げてしゃがみ、私の顔を覗きこんだ優しい笑みの彼は間違いなく

「蒼君っっ!!」


感動的に抱きつくなんてハードルが高過ぎて、突っ伏して号泣していたがこれじゃ彼の事が見えない。もういなかったらどうしよう。


「あおっ、蒼君っ…そこに、居る?」突っ伏して泣いたまま左腕を前に伸ばしてさ迷わせるという謎のジェスチャーになってしまった。



蒼君が私の伸ばした腕を掴んでゆっくりと体を起こさせてくれた。腕や髪についた砂を払い、涙でぐしゃぐしゃの顔をハンカチで優しく拭いてくれる。



「居ますよここに。初夏先輩、触れても…?」


コクンと頷いて、触れて欲しいと伝えるべく今度は私が蒼君の頬を両手で包んだ。


一瞬目を円くした蒼君は困ったようにフッと笑って自分の頬を包む私の手に大きな手をそっと重ねた。そして、私のその手をそっと首に回して、別れのあの日みたいに緩く抱き締めた。

蒼君の首に回した腕に少し力を込めると、蒼君も私の背中に回した腕に力を込めた。


どれくらいそうしていたのか、夕焼けに染まっていた町並みはいつの間にか薄藍に変わり始めている。


初夏のままずっと止まっていた私たちの季節もこれから動き出すのかもしれない。蒼君、蒼君、思い出の中の恋だけじゃなくて現実の恋にしませんか?って聞いてみよう。


……勇気をだして言えたら、言ってみよう。

うぶな二人の恋の続きを書こうと思ったのですが、書き終えてビックリ、再会してから時間も関係もほとんど進んでいないという…



とにかく、お読みいただきありがとうございました!

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