ある人の夢④〜夢秩序破壊
エリスは夢の国に何度生まれたのか。民衆を不幸なままにして何度も夢の国で死んだ。
「ここに生きている人をこれ以上不幸にしないでください」
エリスは何ものかに頼み込んだ。
「あなたに頼んでいるの! 」
エリスは怒っていた。感情的になっていた。
「人が人として生きる世界を創り上げておいて、私たちを幸せにしてくれないのは、あなた自身の罪だ!あなたは人が不幸になるということを知っているはずなのに、どうしてこの世界を夢見て、不幸なままに終わらせているの!」
エリスが見ているのは、エリスの生きている世界ではないようだ。
エリスの言葉は続いた。
「私は、私が生きている世界を夢の中で見ている少女の世界を生んだ世界に生きる人を育てたい」
不幸な世界の人々を生み出しているのは誰なのか。それは誰もが知っている人間だ。しかし、その人間は、エリスの生きている世界の人間を不幸にしたくて不幸にしているのではない。
エリスは、命をかけている。
誰もその心の内を知らない。思い描くことはできるかもしれないが、エリスの心の内を知ることはありえない。
エリスは夢の国の中で、「ひとりごと女」と呼ばれるようになっていた。
夢の国の中で、誰一人当たり前の現実を直視できないでいた。
エリスのそばに、少女は近寄る。
夢の国の中で、少女だけはエリスの味方のようだ。
エリスは、言った。
「あなたがそうさせたいのは分かるけど、本当に人間としての生を全うしたいなら、変わらなければならないのはあなたなのよ」
少女は言った。
「上を向いてお話ししているけど、届くの?」
「絶対に届いているさ。どこにいても届いているのだから」
少女は、エリスの相談相手になった。
少女はエリスの話を聞いて、少しずつ今の自分の存在を知った。
「変わらなければならないものが変わらなかった原因が、この女の子にあるとは思えない。私にとって、分かりきった事実の前だから、何も考えなかった。それが一番問題だったと気づいたの」
少女は、エリスの言葉に重ねるようにして話した。
「もし私が現実に生きていて、こう言えば頭のおかしな女の子だと思われたと思う。私の夢の国の中で、エリスは頭のおかしな女として扱われているけど、本当におかしいと思わせないで、この世界を創り出し続けるあなたの罪は、重いと思う」
彼女たちは、何ものかに対話を試みているようだ。
エリスの言葉は、空気のようなものとなっていた。
エリスと少女は何時間も話しかけた。
そのうち、エリスは言った。
「応じることができないのは当然のことだけど、私は疑問に思うの。どうして、体をバラバラにされたり、受けたくもない凌辱を受けたり、虐待を受けたりしても、他人事のように思うのか。あなたは、私たちのような夢の国の人が、人権を侵され続けているのを傍観しているんでしょう? 現実に起こっていることを直視できない人が創り上げている世界を救いたい。私たちはあなた自身かもしれないけれど、それなら、生きる権利を私たちはあなたの中で持っていないのかしら? 持っていないと考えているなら、そういう私たちを生み出さないで! 不幸にしないで!私たちは幸せに生きたいの。私は、あなたが幸せに生きる人を生み出し続ける人になることを信じている」
彼女たちの周囲には人が集まっていた。そして、頭のおかしな女たちと言った。その国の警察は、エリスと少女を連行した。
警察は、エリスたちの身元を確認した。
警察はエリスに言った。
「あなたが言っていたこと、聞いていました。この世界はあなたの生きている世界なんですよ。そして、私の生きている世界です。エリスさん、あなたはそれを分かってください」
エリスは言った。
「どうしてここに警察が現れて、私たちを拘束するの? 私たちを生み出さないでほしいだけなの。 何もあなたを否定していない。私は、不幸の原因が、あなた自身にあることを言っていて、その心の内を告げれば、私たちを生み出す、あなたの世界を変えてほしいだけなの」
警察は言った。
「エリスさん。話を変えないでください。あなたはこの世界に生きているんです。この世界を生んだとか、考えるのは自由ですが、公共の場でああいった行為は迷惑にはなりませんか?」
別室では少女が警察と話をしていた。
少女は言った。
「早く目が覚めてほしい……」
警察は呆れていた。自分の生きている世界だろうにと思いながら、警察は言った。
「私もそう思います。あなたの夢の国の警察を困らせないでください」
警察は、少女の話に合わせて話をした。
少女は言った。
「私は、どう思われたって構わないけど、この世界を生んだ人がどうして、この世界の人に愛情を向けられないのかと思うんです。この世界を生んだ人が生きている世界は、きっと私たちが今生きている世界よりもずっと酷いのでしょう」
警察は言った。
「私も愛情を注いでほしいですよ。あなたのことで仕事しているわけですから」
少女は言った。
「私もそれは申し訳ないと思うんです。でも、警察さん。私、あなたがどうして現れたのか分かる気がするんです」
警察は言った。
「どうしてですか?」
少女は言った。
「この世界を生んだ張本人がこの世界を救う方法を考えたいからです」
警察は言った。
「そうなんですね……」
エリスのいる部屋では……。
「この世界の警察には無理です。あなたの生きている世界を見ても分かるように、警察だけでは世界は良くならない。人それぞれの自由な考え方をどうすることもできないから、不幸な世界に生まれることを運命づけられた人は、救われないと思わせられ続ける」
警察は言った。
「もうあの場所ではああした行為はやめてくださいね」
エリスは言った。
「あなたの生きている世界を変えないから、私たちのような人間が生きている世界を創り出して満足している人が溢れる世界になったのではないかしら? 人間が人間を救えないようにしておいて、それは物語だから仕方ないとしたりするけれど、それは違うわ。あなたの生きている世界を救うことができないから私たちのような物語の人物が現れて不幸な運命に生き続けるように仕向けられなければならなくなってしまうの。私の心の内を告げれば、あなたを救いたいの。その心の深さをあなたは推量できない。推し量ることができることはあり得ないの。あなたの生きている世界では、神様とか、仏様とか、崇められたり、信じられるものはたくさんあるかもしれないけれど、最終的には、人類の一人である、あなた自身を信じる以外に、あなた自身が救われる術は無いという事実を認め、あなた自身に、あなたの生きている世界を幸せなものにして、この世界を変えることができるようになってほしいの」
警察は言った。
「誰に話しかけているんですか。無視されては困るのですが……」
エリスは言った。
「この警察のように、私の生きている世界を受け入れる人もいる」
警察は話が進まないので、エリスと少女を同じ部屋に入れた。
少女は言った。
「こうやっているけど、この世界を変えることはできないんじゃないかしら?」
エリスは言った。
「どうしたらいいのか、当人も検討がつかないだけ。でも、当人の世界を変えることが、この世界を変える唯一の方法。私たちは信じてあげればいいの。その心の深さを当人は推し量ることはできないけれど、その心のことだけは忘れないでほしい」
少女は言った。
「そうすれば、この世界を変えることができる?」
エリスは言った。
「必ず、この世界は変えることができる。この世界を生んだ世界を変えることができるなら、その役に立つように私たちの運命が大きく動くことになる」
少女は言った。
「この世界を生んだ世界に生きる人を私も救いたい。私も信じる。そうすればきっと、私の夢は幸せな夢になる」
エリスと少女が救いたいのは、この世界を生んだ張本人だ。エリスと少女の心の深さを理解することはできないだろう。彼女たちは夢の世界を生んだ人の夢の世界を生きる人で、生涯を終えるけれど、その心の深さは人と同じように深いものだ。人が生んだ世界の人の心の深さは人以上に深いかもしれない。人はそれを推量することはできないだろう。
そして、夢の国の世界を生んだ世界を救うことが、夢の国の世界を救う方法だ。
最も重要なことなのに、最も難しいことが、夢の国の世界を生んだ張本人が生きる世界を変えること。その方途は未だに険しいものだった。
エリスと少女は言った。
「私たちには変えることができないことをあなたができるということだけは確かなこと。私たちは、あなた自身の世界に生きていて、あなたと同人格になりうるかもしれないけれど、別の人権ある人間として、あなたを信じているとだけ告げておきます。現実を直視して、人間になってください。私たちの世界に不幸な人間を生み出すあなた自身の世界を変える人になると私たちは、あなたの心の次元を超えて信じています」
変えることができるなら変えたい。そう思う夢の国の世界だ。