ある人の夢②
私には、前世の記憶がある。
マリアや多くの同志とともに3年間どこかの国で民衆のために戦い、勝利した。民衆のためにと思って、多くの不満を解消して、満足してもらいたかった。民衆は何をしても誰かが不満を訴えた。その不満を解決するために行動もした。
しかし不満が不満を呼び最後にはどうにもならないことになった。そして、中途半端に何もできないで死んでしまった思い出がある。
今の私は、何なのかは分からなかった。マリアもいない。
私には、人を操る事ができた。その力に人数は関係無かった。
私は、早速国内をまわった。どうして、3年間何もしないでいたのか。私がもっと何かをしていれば、民衆を幸せにすることができたはずなのに……。
しかし、事態はあまり良くないらしかった。以前いた国は誰も国のことに関心を持ってない。そんな国だった。
この国もまた変わらない。
民衆を幸せにしたい。でも、既に民衆は幸せそうだった。幸せとは何かは分からないけれど、多分、こうしてみんなが笑っている事だろう。奴隷が主人に見せる歪んだ笑顔、奴隷の主人の子どもが見せる奴隷を馬鹿にしたような笑顔、様々な笑顔でいる事を……幸せ……というのだろう。
嘘だ!
嘘だ!
嘘だ!
みんな嘘をついているんだ!
奴隷は、苦しんでいるのに笑っているのだ。
主人は人を苦しめて、笑っているのだ。
この国に希望があるとは思えなかった。民衆を苦しめるのは、私が何もしなかったからだ。私は、何をしたらいいのか考えた。
世の中に溢れていたのは、心の中で何をしても良いという権利だった。貧乏人も富裕な商人たちもこの思想の下では平等らしい。
「心の世界で、人々を殺すのです。心の世界には誰も入ってこれません。自由なのです。私たちは、心の世界を血まみれにしましょう。そうすればあなた方は、現実世界の苦しみから解放され、自然と生き生きとしていきますよ」
そう言っている人が街中にいた。そこに人が群れをなしていた。
「心の世界で人を殺そう!心の世界に生きる人は殺してもいいんだから!」
私はそれを聞いて、涙が溢れた。
ーー誰がこんな国にしたの?
私はそう思った。
また別のところでは、次のように言う人がいた。
「これからの商売は、心の世界でやっていくんだ。みんなの心に入り込んで、みんなの心をお金で満たしてあげればいいんだ。ある物語に出ていたが、それをネットワークビジネスとかネズミ講とか言うよ。それには、この水を使えばいい。みんなは、心の中がお金で満たされてくるよ。つまりは、欲望収入で、心を満たせばいいんだよ」
「欲望収入とは何?」
「私たちには、心をお金で満たしてあげる権利があるのです。そこから得られるお金が、欲望収入です」
これも街中に溢れていた。人々は、お金をかけて、欲望収入を得ることに励んでいた。
私は、この世界に生きている。
ある日、兵士たちを集めて言った。
「この国に生きている人を全員殺してください。殺さないと民衆は分かってくれないの!」
私は、大軍を率いて、町へ行った。町へ行くと、兵士たちは人を殺した。殺し尽くした。民衆は理解できない不安を抱いていた。
3日ほどで、民衆の1割が死んだ。
ある国民は言った。
「あいつを殺さねば何も始まらない」
ある兵士が民衆の一人に言われた。
「どうして私たちを襲うのですか?……心の中ならいくら人を殺してもいいのに!」
兵士は言った。
「人が一人でも死ぬということを、あなたの体に刻むためです!」
その人は死んだ。国を守る立場の人の剣によって殺された。
私は、悪いことをしているという自覚があった。とんでもないことをしていると思った。
私は、女、子ども関係なく殺させた。
1ヶ月が過ぎた。
兵士たちのほとんどが自害した。兵士の家族もみんな死んだ。
「これからどうしよう」
血まみれの世界にしたのは私だ。拭き取るのも私だ。まだ生きているものがいた。
私はその人たちに近づいた。
「近寄るな!」
そう言われた。近づいていって私は彼らを殺した。
後悔は無い。
私は、再び死んだ。
私にも夢がある。
いつかこの夢を見ている人が現実に幸せになることだ。こんな夢を見ても幸せにはなれないかもしれない。でも、私がこの行為に及んでも、夢を見ている張本人は出てこない。
いつかこうした夢を壊して、幸せになれたら、私が生まれる世界はきっと、希望が溢れた世界になると思う。
この物語の主人公の名前をエリスと言った。
この物語の主人公が出てくる夢を見ているのは、前世のエリスの夢を見た女の子だ。