第18話 テンプレの冒険者 その1
前回までのあらすじ。
なんとか冒険者になって初めての依頼を達成した主人公。プレインキャットを倒したことが功を奏し昇級試験を取り付けた。
さて、その翌日のお話です。
異世界19日目
俺は今、朝食を早めに食べ終えてセイラさんと共に冒険者ギルドの前にいる
「試験まで一刻とちょっとぐらいの時間ですね。」
「中で、準備運動とかってできないのかな?」
試験前にウォーミングアップはしたいよな。
テンプレだと、こういう試験は戦闘技術みたいのをみるからな。ちょっと練習しないと。
小説とかだとギルドの中にジムみたいのがあったりするけど。
「確か、ギルド内に訓練場があったような?」
「本当!?ぜひ行ってみましょうよ!」
ちょっと、初めて行く訓練場にウキウキしつつギルドに入る。
受付のギルドの職員に聞くと、訓練場の使用には使用料金がいると言われたので、言われた通り鉄貨1枚を渡しギルドの広場まで案内してもらった。
ギルドの職員についていくと少し開けた場所に出た。
「ギルド内にこんなところがあったなんて、全然知らなかった。」
訓練場は丸い円の形をしていて、大体学校の体育館ぐらいはある。床は土で、天井はない。イメージとしてはコロッセオに近い。
場所はどうも、冒険者ギルドの裏にあるらしい。
なんか、料金とって鍛えるってジムみたい。
まあ、ジムっていうより値段からして公民館とかか。
「武器の貸し出しは無料らしいですよ。何か入ります?」
武器の貸し出しもしているのか。きっと、新しい武器を試すときに借りたりするんだろうな。まだ武器が決まらない初心者への優しさかな?
「今日はいいかな。試験前に簡単に体動かそうかなって思っただけだからさ」
「わかりました。」
まあ、次来た時に他の武器にも挑戦してみようかな。
スキル取れるかもしれないし。
そう言って俺は、ストレッチを始めた。
「なにやってるんですか?」
「準備体操だけど。」
「準備体操?何ですかそれ?」
「えっ、知らないの?」
セイラさんは首を縦に振った。
まさか、そういう文化がないのか?
「えっと、運動する前に筋肉を伸ばすことだよ。」
「なんのためにするんですか?」
まさかそれも知らないとは。
「筋肉を伸ばすことで、急な運動で体を痛めないようにするんだよ。」
「へぇ〜初めて聞きました。」
カルチャーショックってやつですかね。
正直驚きを隠せない。
「じゃあセイラさんも一緒にやろう。」
「わかりました。」
俺がストレッチをすると見様見真似でセイラさんはストレッチをした。
よく見たら、誰も準備体操なんてしてないな。
灯台下暗し?うん、なんか違う。
まあ、改めて気づくと不思議だな。
ストレッチとかって誰が考案したんだろう。
「おい、ランクDのプレインキャット倒したんだってな」
ストレッチをしながら、ストレッチについて考えていると、なんかゴツい奴らが俺に話しかけてきた。
俺こいつ知ってるかな?相手をじっくりみる。刈り上げた金髪、彫りの深い顔、むきむきのガテン系の肉体。まさに冒険者ってやつだな。
だが、知らない。
「ええ、そうですけど、何かご用でしょうか?」
これは冒険者ギルドのテンプレってやつかな。
普通は登録初日に「おいお前新人か!お前がこの世界で生きていけるか俺が試してやるよ!」的なことを言って絡んでくるテンプレ。まあ、ちょっと違うけどきっとこれもその一つなのだろう。
ちょっと感動。
「あ゛あ゛っ!?お前に聞いてんじゃねえ。俺はそこのお嬢さんに聞いてんのさ。お前は引っ込んでろ!」
「「そうだ!そうだ」」
「あっすいません。」
おっと、俺じゃないのか。人違いね。
でもそこのお嬢さんって誰だ?うーむ。
俺はあたりを見渡すと、とある女性が目に入った。まさか、あの人じゃないよな。
「ん?」
目があったのでさりげなく逸らす。
俺は目で、冒険者に問いかける。
彼女ですかと。
「んあ゛?なんだお前…」
冒険者が、俺が合図した方をみる。
そこには、髪がオカッパのもの凄くむきむきの女性がいた。正直言って見た目が猪みたいだ。
彼は彼女を見た後に目でこう語っていた。
いや、それは違うだろうと
「ブラッドさん、きっと私です」
ああ、そうか。そうですよね。
「グヘヘへ。嬢ちゃん、そこのへなちょこのガキなんか放っておいて君みたいな優秀な冒険者は俺たちのパーティーに入らねぇーか?」
この人さっきのこと無視したよね。まあ、いいけどさ。
でも、へなちょこのガキって誰だ?
俺はこう見えてもパワーファイターだぞ。
だから、きっと俺のことじゃない。
「遠慮します。私ブラッドさんと一緒がいいので」
「そんなこと言うなよ。待遇は良くするぜ。どうせそのへなちょこは役に立ってないだろ。俺たちなら君を楽させられるぜ。」
「あのへなちょこって僕のことでしょうか?」
「あ゛あ゛っ!?だからお前は黙ってろ俺の勧誘を邪魔するんじゃねぇーよ。」
やっぱり、俺のこと言ってんのかな。
「私現状で満足してるんで。」
「なあ、絶対こっちの方がいいって。なっ!」
そう言って、男はセイラさんの腕を強引に掴もうとして手を伸ばした。
バシッ
「ああ、なんだてメェ。痛えな!」
「しつこいです。セイラさんが嫌がってんのでこれ以上は辞めて貰えますか?」
うん。なんだろう、このうざったい感じ。無性にムカつく。
取り巻きがいて、なんかナンパをする奴ら。
まあ、ここまではいい。
まだ、許せる。
だけど、俺の初彼女を奪おうなんざ100年はやいぜ!
「お前誰にもの言ってんのかわかってんのか?」
「セイラさん知ってる?」
「いえ、正直言うとわからないです。」
すると、後ろの取り巻きたちがいきなり動き始めた。
「聞いて驚け!この方はあの有名な怪力のゲッツェ様だ!」
「ランクはなんとD!」
「あのドラゴン種も撃退したことがあるんだぜ!」
討伐じゃなくて撃退ね。追い返したのね。
「モンスター討伐数は優に1000を超える!」
これはすごい。だけど、
「えっと、誰?」
「「「「はああああ!」」」」
スンゲェ驚き方。リアクション芸人みたい。
「やっぱり、わかりませんね。セイラさんは?」
「私冒険者始めてから日が浅いのでなんとも。」
「この人ってそんなにすごいのかな?」
プチッ!!
「てメェ俺を馬鹿にしてるだろ!」
「いや、そんなことないですよ」
まあ、ランクDってことはプレインキャットを一人で楽々倒せるってことだし、きっと強いは強いのだろう。
正直どのぐらい強いのかわからないけど、きっとそんなに強くないんだろうな。
あと頭も良くなさそう。なんか品位が欠けてるっていうのかな。
ブチッ、ブチブチッ!!!!
「テッメェエええええッ!!!」
「ブラッドさん声出ちゃってます。」
あれまぁ。心の声が。
怒っちゃってるよ。顔真っ赤だもん。
これは激おこってやつですかね。
これは、頭の中で言ってるから大丈夫。
口動いてない。よしオッケー。
俺は失敗を次に生かす男だぜ(キリッ
「決闘だ!!」
「えっ?」
「俺と決闘しろ!」
なんか面倒くさそうだな。ここは穏便に済ませられないかな。下手に出れば許してくれるかな?
「謝りますから、許してください。すいませんでした。」
頭を下げる。
「そんでもゆるさねぇ!」
即答ですか。プライド高いな。
「ごめんなさい。許してください。調子に乗ってすいませんでした。」
もう一回謝罪をする。しかし、
「お前の謝罪なんて受け入れねぇよ。」
そう言って、ゲッツェは俺の腹を蹴った。
「グフェエ!」
俺は横に吹っ飛ばさて地面に転がる。
「ブラッドさん!」
セイラさんが心配して駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか!?」
「ゴホッ、ゴホ。う、うん。まあ、大丈夫だよ。」
セイラさんに手伝って貰って立ち上がる。今の蹴りどんだけ強いんだよ。なんか軽自動車に跳ねられるぐらいの衝撃があったぞ。実際に車に跳ねられたことはないけどさ。
伊達にDランクじゃないってことか。
「女に助けて貰うなんて情けないな!もやし野郎!」
お前それ日本だったらセクハラだぞ!バーカ!それにもやしとはなんだ!
俺はスレンダーな細マッチョだっつうの!
でも、そんなに平和的解決が嫌ならこっちだって恋人ナンパされた挙げ句に蹴られてるんだ。許さねぇ!
「じゃあ、そんなにやりたいならやりましょう決闘」
「ブラッドさん!辞めた方がいいです。」
「いや、やらせてくれ。こいつをぶっ飛ばさないと俺の気が済まないね。」
この野郎!ぶっ飛ばしてやる!
「じゃあ、今から決闘だ!おい、そこの奴!決闘だ、準備してくれ!」
そう言うと、ギルドの職員が慌てて受付の方に向かい。しばらくすると、なんか書類を持ってきた。
なんか、書く欄があるな。
「ブラッドさんやっぱり辞めといた方が。決闘ってどんなんなのか知ってるんですか?」
「いいや。ただ戦うだけじゃないの?」
「ただ、戦うんじゃないです。負けた方が対価を支払うギャンブルみたいなものです。大抵は自分の要求を相手に通すために使うらしいですが、今回相手が何を要求してくるかわかりませんよ?それにブラッドさんが勝ったからって得しないじゃないですか。」
「そんなことないさ。ちょっとムカつくし、なんか無性にぶん殴ってやりたい。それに一度Dランクの冒険者がどのくらいなのか知っておきたいしさ。」
セイラさんは俺を心配そうにみてくる。
まあ、勝てばいいのさ勝てば。
「じゃあ、勝った時のことを決めようぜ!」
「じゃあ、勝った方が相手に自分の要求を通せるっていうのはどうだ?」
これだったら、あとでなんでもさせられるぜ。へっへっへ。
「そうだな。いいだろう。じゃあ、お前が負けたらこのゲッツェ様を馬鹿にした罪で俺の奴隷になってもらう!」
なにっ!?そんな酷いこともありなのか!?
なんてこった。セイラさんが止めるわけだ。
というか、奴隷制度とかあったのね、この世界。
そうだな、それがいいなら俺だって大きくでてやろうじゃないか!!
「…じゃあ。俺はお前の全財産と謝罪を要求する。」
「はっ。俺に万が一勝てたらそのぐらいやってやるよ。もし、勝てたらだけどな!!」
「わかった。じゃあ、契約成立だ。俺が負けたらお前の奴隷にでもなんでもなってやるよ!」
「ブラッドさん…」
大丈夫。俺はこいつよりきっと強い。多分。
俺とゲッツェはそれぞれの要求を決闘書という紙に書きその横に自分の指印を押して、職員に渡した。
「それでは、決闘開催のために銀貨1枚を頂きます。」
お金取るのか。まあいい。
俺は、銀貨1枚を職員に渡した。
「では、準備があるので少々お待ちください。」
そう言って職員はギルドの建物に戻って行った。
しばらくすると、数人のギルドの人が変な四角い箱を幾つか持ってきた。
「セイラさん、あれはなんですか?」
「あれは決闘や模擬戦などで使われる『不死結界』の魔法道具です。」
「なにそれ?」
なんか、名前は凄そうだな。
「『不死結界』とは決闘などで本気で戦えるように、作られた魔法道具で。あの箱みたいのに魔法が掛かってて発動すると並べた箱から結界が作り出されるんです。
この結界はとても丈夫で、Aランクのドラゴンの攻撃も耐えられるように設計されているらしいです。なので、結構中で大暴れしても大丈夫です。
それで、これが名前の由来にもなっているんですが、重症になったり、死ぬような一撃を喰らう前に外に転移するようになっていて自動で勝敗が決まるようにできています。」
「じゃあ決闘の勝ち負けの判定は結界の外に出た場合ってこと?」
「基本はそうですね。ギブアップもありますよ。」
「そうか。」
なかなか、シビアな戦いになりそうだ。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ステータス
名前 ブラッド
種族 吸血鬼 lv 24
職業 「狩人 lv13」「釣り人 lv7」「詐欺師 lv1」
スキル 「吸血 lv18」「投擲 lv20」「ステイタス魔法 lv2」
「追跡 lv10」「釣りlv5」「魔力操作 lv9 UP!」「夜目 lv17」
「鎌術 lv11」「棒術 lv4」「採取lv9 」「地図 lv2」「血の契約 lv0」
「魅了 lv2」「虚言 lv2」「浄化魔法 lv2」「忍耐 lv3」
「槍術 lv2」
称号 「ハンター」、「おねしょ野郎」、「釣り好き」、「投擲野郎」「鎌兎の使い手」「石が好きな人」「豚殺し」「嘘つき」「人でなし」「スプラッター」
ちなみに、地味に気づいてるかたいるでしょうか?
魔力操作のスキルが上がってます。
これは、夜中と主人公の自主練による成果だったりします。はい。
そういえば、今回の裏話。
『不死結界』について。
これは主人公のいる国が百年という歳月をかけて完成させた結界魔法です。
実はエルフの技術が含まれてます。そうです、エルフといえば結界魔法!
エルフとの共同開発です。
まあ、百年のうち30年ぐらいはエルフとの交渉に使われてたりします。エルフは頑固ですから。まあ、普通自分の技術を流失させる方が異質ですけどね。平和的用法のためにやろうということで納得してもらい開発が進みました。
結構世界中で使われている技術だったりします。
まあ、悪用を防ぐためにギルドや国とかじゃないと持ってないですが。
あと、『決闘』について
決闘は冒険者の間で行われるトラブル解決方法の一つです。
ルールは簡単、相手をノックダウンさせれば勝ちというものです。
安全のために「不死結界」を使いますね。