魔法の射手その7
黒沢は口を三日月の形に歪めると、ゆっくりとゆうとの距離を詰めて来た。
「このまま、殺してやるよ。くくく、まさか、こんな上玉の女が現れるとはな」
「へん、あんたなんかに殺されるかよ」
今まさに、黒沢がゆうに向かって走り出そうとした刹那、パトカーのサイレンが二人の耳に入った。それは、黒沢とは無関係のものであったが、彼は恐るべき早さで、その場から離れると、もう、車に乗っていた。そして、急いでエンジンを掛けると、そのまま空き地の柵を破って、乱暴に走って行った。
「逃げやがった、くそ」
ゆうは舌打ちすると、足元の砂を八つ当たりに蹴った。
家に帰ると、早速、彼女の小さな身体を黒スーツの男達が取り囲んだ。誰が心配そうな顔をしており、ゆうはその視線を鬱陶しく思っていた。
「あのさ、あたし、部屋にいるから、後でテツだけ来て」
ゆうはそれだけ言い残して、階段を上って行った。背後では、黒スーツ達の叫ぶような声が聞こえていた。無理も無い。ゆうは右の脇腹から出血し、制服を真っ赤に染めている。明らかに、誰かに刺されたという感じだ。
「ふう」
邪魔臭い制服を脱ぎ捨てて、クローゼットから適当な女物の服を選んで着る。そして、布団を敷いて、そこに俯せになった。顔を枕に埋めると、いくらか苦痛が減るような気がした。
「お嬢、入りますぜ」
「うん」
襖をガラガラと開いて、テツが部屋に入って来た。彼としては聞きたいことが山のようにあったが、彼はゆうの性格を知っている。しつこく訊ねれば、真相を聞くことは永遠にできなくなる。ゆえに、普段通りの態度で接することにした。
「ねえ、アレしてよ」
「アレですかい」
テツの顔が不快そうに歪んだ。それは、サングラスの上からでも分かるレベルだった。それは、ゆうのアレが、テツが嫌いであるからに他ならない。しかし、今、彼女はそれを要求している。テツとゆうしか知らないアレを。
「勘弁して下さい。俺はアレが嫌いなんです」
「あんた、あたしのお目付け役だろうが。なら、やってくれよぉ」
甘えるようにゆうに言われると、テツとしても断り辛いとこがある。だから、この間に一服でもしたい気持ちを抑えながら、テツは彼女の足元に膝を付いた。
「お嬢、行きますぜ。さっさと終わらせますからね」
「うん、早く、早く」
ゆうは両足をバタつかせて、期待に胸を踊らせていた。一方、テツは無表情のまま、彼女の右膝を軽く持ち上げると、そのまま、彼女の足裏に指を這わせて、そのまま擽った。
「あひぃぃぃ、んん、凄く良いよぉ、あは、やっぱりテツが一番上手いねぇ」
「お嬢、マジにこんな変態なことに、俺を付き合わすの止めて下さい」
「だってぇ、あははは、好きなんだもん、この前、ひひ、吉村の奴にも頼んだら、顔真っ赤にして逃げやがったの、くひひひ、あは、そこイイ」
「吉村が普通です」
「コチョコチョされるの好きなんだもん。本当は筆で擽って欲しいんだけど、指で我慢してるの。あはは、反対の足らめぇぇぇ」
テツはゆうの、この習慣は、スペシャルドリンクと並んで理解不能だった。一体どんなフェチなのか、彼女は、この行為によって何が満たされているのか、二つとも、主人格である優には存在しない嗜好なので、謎は深まるばかりだった。
「アレも言ってぇ、お願い、ひん、言って」
「分かりました。ええ、俺はこれを言いたくないから、アレをしたくなかったんですよ。でも、言えってんなら、言いますよ」
テツは深く深呼吸をした。仮にも、主人と仰ぐ人間である。こんな言葉は吐きたくない。
「オラ、足擽られて感じてんじゃねえ、このメス豚が」
「ひぃぃぃ、ゆうは、あはん、ゆうは卑しいメス豚なのぉ、お仕置きしてぇ」
「くそ、この変態が、今度は、こいつで・・・・」
テツは机の引き出しから、白い羽を一本取り出すと、それで、ゆうの耳を擽った。
「んひぃぃぃぃ、耳はらめなのぉ、あはははは、恥ずかしい、ひぃぃぃ」
「盛りやがって、そんなに良かったのか?」
「はひ、ご主人様のぉ、お仕置きが良すぎてぇ、あたひ、あん、壊れひゃうううう」
ゆうはそのまま海老反りになると、急に脱力して、枕に顔を埋めて、肩で呼吸していた。
「はぁ・・・・はぁ・・・・、ありがと、凄く良かった。また頼むかも」
「お嬢、擽りは良いですが、言葉責めだけは勘弁してくだせぇ」
「バカ、それが良いんじゃん。ねえ、今度は首輪を使おうよ。」
「お嬢、マジで18禁になりますから、洒落になりませんから、シャバの空気吸えなくなりますから」