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突き付けられる真実

 帰り道、魔魅と鬼塚は近くの喫茶店に寄っていた。そして、二人席に座ると、周りからは、まるで年の離れたカップルのように見られていた。

「優と幽が存在しないなんて、随分とざっくりした推理だな」

「うふふ、ようするに、優も幽も、限られたコミュニティーでしか存在できない、所謂架空のキャラクターなんですのよ。優と幽を判別できているのは、檜山家の人間と、彼の友人間だけ。檜山家では、悠さんの二重人格という設定に従い、彼、もとい彼女のごっこ遊びに付き合っていたのです。何せ、檜山家の中はある種の聖域ですからね。第三者の主観が混じらない空間ゆえに、例えば、そこで、魔法の弾丸で殺された。炎の魔法で黒焦げになったと言われても、それは真実になってしまう。だって、そこにいた人達が、口裏を合わせれば良いのですから。下らない都市伝説の類もそうです、口伝の中でしか存在できない」

「じゃあ、友人達はどうなんだ。プールに来た時点で、奴らは気付いていたのか?」

「ええ、気付いていましたよ。悠さんが女装して、別人のフリをして、ここに来ているとね。でも、彼らはこう思ったでしょう。面白いから、このまま騙されたフリをしていようと。悠さんの世界を尊重しただけの話。そこに、私や鬼塚さんがいたら、きっと、そこには、一人で男口調で喋ってみたり、女口調になってみたりする、憐れで、ちょっと残念な子がいたに過ぎないでしょうね」


 魔法の正体、それは主観によって彩られた、ある種の共有された幻想なのである。それこそが魔魅の推理なのだ。幼い子供が二人で、怪獣ごっこをしていた。周りの大人達からすれば、そこには、怪獣になり切って遊んでいる、微笑ましい光景が映っているだろうが、当の本人達からすれば、そこは燃え盛る街か無人島で、自分達は正に怪獣なのである。全てに主観を排して、客観的な目線で視なければ、真実は永遠に分からない。彼女はそれが言いたかった。


「おい、アイツら見ろよ」

鬼塚は突然立ち上がると、店の窓に映る、黒服の男達を見て、戦慄した。

「あ、あれは、間違いないぜ。檜山組だ。クソが、俺達を監視でもしてやがるのか」

「おかしいですね。探偵役は殺されない。ミステリーの原則ですのに」

「ちっ、そいつは小説の中のお話だろうが、何で、何でアイツらは、俺らを見て、笑ってやがるんだ」

黒服の集団は、店の中には入って来ず、あくまでも、外からこちらを監視していた。


一つのエピローグ


2015年、欅町の名を知る人間は、どれほど残っていたでしょうか。あれから、欅町は他の市町村と合併し、名を改めました。同時に、それは、この呪われた町で起こった、一連の事件を、永遠の闇の中へと押し込んでしまったのです。


欅町では、人が日常的に失踪します。この閑静な住宅街の一体どこに、忌まわしき因果が存在しているというのでしょう。最初に失踪したのは、欅町と並び、悪名高い、欅病院で麻薬取引を行っていた、若いナースが一人。そして、数年後には、男子教師が一人、数ヵ月後には、失踪した男子教師の教え子だった少女が一人。そして、欅病院の新人ナースが一人、最後に、刑事と少女が二人。全ての事件で、犯人はおろか、有力な手掛かりすら見つかっていない。死人に口無し、今日も事件は何の進展を見せてはいない。

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