表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/48

魔法探偵の推理ゲームその6

操は悠を追い掛けて廊下に出た。彼女は何か、自分の影に怯えるかのように、しきりに、前後左右を見回していた。そして、操の存在に気が付くと、咳払いをしながら、無理に落ち着いた風に装った。だが、それが虚勢であることは、彼女をよく知る操には、言わずとも分かる。


「先輩、どうしたんですか?」

「最悪、だから、携帯禁止の学校は嫌なのよ」

悠は不貞腐れたように言うと、廊下の窓から、校門の方をじっと見つめていた。その視線の先には、黒いリムジンのような車が、三台停まっていた。明らかに穏やかな状況では無い。

「まさか、先輩、あの車に追われているんですか?」

「さあね、あんまり首突っ込むと、あんたも死ぬよ」

悠長は吐き捨てるように言うと、窓を全開に開いて、上履きのまま、廊下から外に出た。その突拍子も無い行動は、敵の意表を突くには十分だったらしく、悠が丁寧にも、下駄箱の方から出て来るとばかり信じていた、黒い車の搭乗者達は、慌てて、車から出て来た。


「クソ、もう見つかったのね」

黒い車からは、同じく黒い服を着た、恐ろしい顔の男達が現れた。

「お嬢、大人しくして下さい」

黒服の中でも、比較的若い男がそう言うと、悠の正面に立って、そな道を塞いだ。

「邪魔だぁぁぁぁ」

悠は飛び上がると、男に向かって、回し蹴りを放つ。しかし、男は彼女よりも一枚も二枚も上手のようで、すでにその攻撃は読んでいたとばかりに、サッと一歩後ろに引いて、彼女の蹴りは空を切った。そして、そのまま男に掴まれると、ドスッと、とてもレディーに対する扱いとは思えないほど、乱暴に、彼女の華奢な身体を、車のボンネットに叩き付けて、そのまま組み伏せた。


「うう、嫌、放してよ。制服が汚れちゃう」

「最初から、大人しくしときゃ、そんな眼に遭わんで済んだのになぁ」

若い男は丁寧な喋り方から一転、急に野獣のように、乱暴で不敵な口調になっていた。そして、他の部下と思わしき、同じ格好をした黒服達に、彼女の身体を強引にボンネットから引き摺り降ろさせて、荷物を押し込むように、彼女を車の後部席に入れた。そして、同時に、その場にいた、操も彼女の隣に放り込まれた。


「やめ、彼女は関係無いでしょ。降ろしてあげてよ」

悠は眼を剥いて叫んでいた。しかし、男達は、彼女の方を見向きもずに、コソコソと何かを話し合っている。操は、恐怖で顔を蒼白にしながらも、その会話に耳を傾けた。


「案外、楽に終わったな。これで、檜山家の当主は、真山さんで決まりだ」

「へへ、このお嬢を人質にすりゃあな、すったら、あの爺、喜んで家督を譲るぜ。身代金でも要求するかい」

「よもや、内部に裏切り者がいるとは、思いも寄らんだろ」


悠と操は、両手と両足を縄で縛られている。だが、猿轡はされていないので、小声での会話は可能だった。


「あの、先輩、これは・・・・」

「うう、ごめんね操。あなたまで巻き込んで」

悠は申し訳無さそうに言うと、運転席の男を睨み付けた。

「奴らは裏切り者。欲に目が眩んで、誰かに買収されたのね。仮にも、檜山家を名乗った人間が情けない」

悠は悔しそうに言うと、モゾモゾと身体を捻って、何とか、縄を解こうと、必死になっていた。そんな努力を嘲笑うかのように、助手席の男が笑った。


「無駄な抵抗は止めーや。あんたらは終わりだ。まあ、これから死ぬんだから、必死になるのも分かるがな。おい、路肩に停めろ」

「へい」

助手席の男の方が立場は上らしい。運転している男はハンドルを左に切って、言われた通りに停車した。すると、助手席の男が黒いアタッシュケースから、緑色の液体で満たされた注射器を一本取り出した。


「ま、まさか、嘘でしょ?」

悠は動揺していた。しかし、それは彼女の予想した物とは違っていた。

「麻薬じゃないから安心しな。こいつはなぁ、ピルソーダとかいう、新世代の向精神薬だ。まあ、俺らのクライアントがこいつを売り込みたいらしくな。要らん言ったのに、無理矢理渡して来やがった。うへへ、鬱やパニック障害、強迫神経症に適応があるらしいぜ。無論、それは建前だがな。この薬の本来の使い方は、こうだ」


男は注射器を持ったまま、操の隣に座ると、彼女の左腕を掴んで、強引に袖を捲った。

「嫌だ、止めろぉぉぉぉぉ」

操は叫んだ。泣きながら、男の支配から逃れようと、手足を動かしていた。同じように、悠も叫んでいた。泣きながら、後輩の安寧を懇願した。


「元々は治療に使う薬だ。安心せい。ま、今からあんたが体感するのは、過剰摂取による、恐るべきトリップの世界だ。この薬の製造者様は、過剰摂取こそが、この薬の本当の使い方だと仰ってたぜ」

運転席の男は、悠の隣に座り、同じく注射器を持っていた。そして、彼女の腕を操と同じように捲った。


「は、放して、止めろ、嫌ぁぁぁぁぁぁ」

二人の叫びが車内に響き渡った。そして、二人の意識はプツリと切れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ