魔法探偵の推理ゲームその5
櫻は語る。四年前、欅学園の体育館にて四人の学生が殺害された。殺されたのは、悠、棗、公平、楓の四人。始めに四人を呼び出した楓は、拳銃で、棗、公平の二人を射殺。即座に悠にも発砲し負傷させた。そして、楓自体も、その後すぐに、藤田に背後から頭部を撃たれ死亡。負傷した悠は、生き残った櫻に介抱されながら、体育館を脱出し、一命をとりとめた。ならば、四人殺しとは何だったのか。三人しか殺されていないではないか。そんな疑問を魔魅が抱いた時、檜山家当主、銀治は薄ら笑いを浮かべた。そう、檜山家からすれば、死体を一つ増やすことも、死んだ人間を生かすことも、可能なのだ。そして、一年前に藤田が殉職した今、真実を知るのは、その場に居合わせた、悠、櫻、そして、謎の黒ガッパの三人だけ。
「黒ガッパ、まあXと呼称しましょうか。そのXと藤田刑事、そして楓さんは、ブレイドランサーの仲間だった。そして、そこでは、ゲームの中の話に留まらず、人生相談も兼ねていた。身分も立場も違う三人が、互いに悩みをチャットなどを利用して語り合い。それで、きっと楓さんからアクションを起こしたのでしょう。きっと公平さんや棗さんに恨みがあって、それを相談していたら、いつの間にか、共同殺人計画にまで発展していた。ありがちですね。しかし、解せないのが、櫻さんが生き残ったこと、そして悠さんが負傷で済んだこと、そして、最後に楓さん本人が、仲間である藤田に殺害されたことですね」
いくら論じてもそれは仮定に過ぎない。もう、事件の当事者はいないのだから。あれほどの蛮行に手を貸した藤田も、一年前に殉職している。
「イエスイエス、考えを改めましょう。もしかすると、この事件、ただの共同殺人では無く、もっと組織的な力が働いているのかも知れません。三人しかいない死者を四人と隠蔽したり、藤田刑事が殉職したり、警察まで関係している何か、陰謀めいたものが・・・・」
「下らんな」
鬼塚は吐き捨てるように言うと、そっぽを向いてしまった。彼としては面白く無いのだろう。相棒を殺人犯にされたばかりか、今度は名誉の殉職まで汚されようとしている。
櫻達が檜山家で過ごしていた頃、聖ルルシア学園の図書室では、二人の女子生徒が並んで、調べものをしていた。これだけならば、どこにでもある、普通の光景なのだが、この二人は校内でも指折りの変わり者であったので、嫌でも人々の視線を集めてしまう。
「悠先輩、まだすか?」
「操、帰りたいなら帰りな。あたしには、仕事が残ってるの」
操は、悠の栗色の長く柔らかな髪を横目に、彼女の腕を引いて、そこから動かそうとする。しかし、彼女は頑として、その場から離れようとはしなかった。
「何を読んでるんすか?」
悠がさっきから読んでいる本は、コンビニに置いてあるような、オカルト的なゴシップを扱った文庫本や、それとは裏腹に、随分と厚ぼったい大型の、地図の書かれた本だった。
「先輩、こういうの好きだったんすか。何々、ほんとにあった凄惨な事件集。あ、てか先輩。ダメですよ。借り物の本に、勝手にラインマーカー引いちゃ」
「あら、そうだったんだ。もう遅いわよ」
悠の手にした本は、例外なく、欅町の記事の文章に、ピンク色の線が引かれていた。
「欅町のことなんか、どうして調べてるんですか?」
「あんたには関係無いの」
悠は悪戯する子供を叱りつけるように、分厚い本の背で、コツンと軽く、操の後頭部を叩いた。
悠が図書室から出ようとしたその時、ガサガサと、外の草むらが揺れる音がした。操が無意識に、その方向へ振り返ると、特に何の変化も無かった。