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魔法探偵の推理ゲームその3

しばらくすると、茶室に一人の白髪の男が現れた。その威厳たるや、最早、問うまでも無く、檜山家の当主そのものだった。

「鬼塚刑事と会うのは、これで三回目ですかな。そして、お二人方には、お初見に掛かります。檜山家元当主の檜山銀治と申します」

「自己紹介なんざ、いらないですぅ。それよりも、くく、この私の質問にいくつか答えて頂きます」

この風貌の男を前に、よくもこんなに口が動くものだと、鬼塚は横目で魔魅を見ながら、感心していた。


「ははは、気の強いお嬢さんだ。よろしい。この銀治、知っている限りを答えましょう。しかし、あなた方は令状をお持ちでない。これはよろしくない。筋を通してくれなけりゃなりません。ゆえに、私の答えられることにも、限度がありますが、いかがでしょうか?」

銀治は慇懃に頭を下げるが、鬼塚は内心、歯噛みしていた。この男は全てを話すような態度を取ってはいるが、こちらに令状が無いことを知っている上で、話せることにも限度があると、保険を掛けている。つまり、この男から、事件の確信に繋がるような情報や、檜山家に不利な内容は、聞き出せないのである。しかし、魔魅はそれすらも楽しそうに、不敵な笑みを浮かべている。


「ふふ、イエス、その挑戦、承りましょう。では、まず一つ目の質問ですが、檜山優は本当に死亡しましたか?」

「ふん、何を今更、あの、四人殺しを知っているでしょう?」

「くく、すいません。言い方が悪かったです。優は死にましたね。優という設定はあの時以降に使われなくなった。ところで、息子さん、あるいは娘さんはお元気ですか?」

「だから、死んだと言っているでしょう」

「イエスイエス、自分の子供が死んだと言うのに、よくもまあ、死んだと何度も繰り返せるものです。普通は話題にもしたくないはずなのに」


鬼塚は二人の論争を目前に、メモを取っていた。少なくとも、この変人にしか見えない探偵は、頼りになる。


「もう、まどろっこしいんで、断言しちゃいますね。檜山優なんて人間は存在しない。また、別の人格でも無い。一人の人間が変装して演じているに過ぎない。ゆえに、戸籍も存在しない。同様にして、檜山幽も存在しない」

「ふはははは。参った参った。本当は惚けてやり過ごすつもりでしたが、とりあえず、ここは譲りましょう。こんなところで、いるだの、いないだの、言い争っても、千日手になってしまいますから、一向に話も進みませんし、良いでしょう。檜山家の悲しい歴史をお話します」


銀治は口を湿らせるために、お茶を一口啜ると、ゆっくりと口を開いた。それは、檜山家の真実であり、銀治の言葉通り、悲しい歴史でした。


「次期当主、名前を檜山悠と言います。彼、いや、彼女なのか。生まれた時に、医師から宣告された性別は、男でも女でも無い。いや、男でもあり女でもある・・・・」

「半陰陽ですね」

魔魅がサラリと答える。

「半、何だ?」

理解できない鬼塚はペンを止めて、魔魅に目配せする。彼女は意地悪そうに眼を細めた。

「最近の言葉で言うならば、ふたなりですかね。ええ、鬼塚さんの好きそうなジャンルですわ。まあ、私からすれば、ふたなりは邪道ですけどね。女装男子は許しますが」


銀治は語る。悠は性別不明の存在。それを檜山家の連中に理解させることは難しかった。そして、さらに悲しいことに、檜山家は男尊女卑の風潮を色濃く残す家系であった。そのために、男子でなければ、下の者への示しが付かないのである。だから、女子が生まれた際は、幼い頃は、家では男装させることも多く見られた。しかし、今回のケースは複雑過ぎた。結局、悠は、れっきとした男性としての優という、存在を自分の中に生み出した。悠はアイデンティティーは女性であり、それゆえ、男性としての人格を作る必要があったのだ。そして、その後に、普通の女の子としての人格として、自分の意思で幽という少女を生み出した。


「ふん、下らないな。普通に本人の好きにさせてやれば良いのに」

鬼塚は無意識にそう呟くと、銀治も思うところがあるらしく、その言葉に小さく頷いていた。

「さてと、まだ質問は終わりませんよ。将棋で言えば、ようやく駒を並べて、さあ始めようという段階ですからね」

魔魅は楽しそうに言うと、急に顔付きを探偵のソレに変えて、ペラペラと話し始めた。


「体育館での四人殺しで殺されたのは、櫻、公平、棗、優とされていますが、それは事実ではありません。事件当時、女性陣の顔はぐちゃぐちゃに粉砕されており、身元の確定は不可能でした。ゆえに、この事件の内容を訂正します。殺されたのは、櫻、公平、棗、楓の四人。犯人は悠で、檜山家の若い衆を使い、四人を殺させた。くく、何せ、四人をその場で一度に殺すなんて、一人では不可能ですからね。複数犯は疑うのが基本ですわ」

「え、でも私・・・・」

その場にいる櫻が名乗りを上げようとするが、魔魅は余計なことはするなと、眼で釘を刺す。

そもそもこの事件は矛盾しているのである。四人殺しであるというのに、櫻は生き残っている、ならば、その場にあった、四つの死体は何なのか、それこそ、棗、楓、公平、悠の四人で、犯人は櫻ではないのか。それこそが、一番確かで、内容にも矛盾しない真実である。しかし、櫻は犯人ではない。つまり、櫻も何かを隠しているのである。

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