魔法探偵の推理ゲームその2
鬼塚と魔魅は墓参りを終えて、近くの公園にいた。これから、三人目の待ち人がここへやって来るのだ。それまでの退屈な時間、魔魅は耐えられないらしく、自分が今まで、いかに難解な事件を解いて来たかを、無い胸を張り、雄弁に語る。
「おい、テメーの自慢はいい。それより、さっきの話を聞かせろ」
「ん、ああ。でも、あれはもうじき答えが分かります。これから、櫻さんでしたっけね。彼女を連れて、檜山家に乗り込めば、くく、当主様から、全てをお話して下さりますから」
鬼塚は解せなかった。どうして、この女はこうも自信満々なのだろうか。そして、何故、平日の真っ昼間から、こんなにもハイテンションなのか。彼には理解できない。
「では、ヒントを出します。あなたは檜山優に直接会ったことはありましたか?」
「ああ、何度もあるさ」
「へぇ、しかし、それでは彼のもう一つの人格である、幽については?」
「無いな。噂は聞いているが、あれは檜山家が、奴の責任能力の欠如を訴えるために用意した、設定だろ?」
「イエスイエス、何だぁ、分かってるじゃないですかぁ。しかし、残念ながら、その逆です。幽こそが、実在する人物で、優の方が設定なのです。続きは檜山家にて話しましょう。ほら、櫻さん来ましたよ」
魔魅が公園の外を指すと、そこには、艶のある綺麗な黒髪を腰まで伸ばした、色白の肌をした少女が立っていた。それは、四年前とはまるで違う、年相応の憂いを帯びていた。そして、切なげに、髪を風に靡かせながら、切れ長の眼を、こちらに向けていた。
「・・・・ごく」
鬼塚は思わず生唾を呑んだ。前に、優を監視する歳に見かけた、ガキとは違う。今の彼女は、もう女性と呼称しても、差し支えないほどに成長を遂げていた。
「鬼塚さん、ロリコンですかぁ?」
魔魅が意地悪そうに、鬼塚の顔を覗き込んでいた。
「ち、違う」
「まあ、良いですけど。さあ、櫻さん。こちらですぅ」
ようやく、役者は揃った。三人は互いの記憶を掘り起こしながら、知っている限りの話をした。そして、そうこうしているうちに、今回の目的地である、檜山家の前に到着した。
「くくく、ここは探偵たる私にお任せを」
魔魅はインターホンを押した。
「探偵ですわ。ここを開けなさい」
「お、おい、お前はバカか?」
鬼塚は青ざめた顔で魔魅を見ていた。彼女は自信たっぷりに鼻を鳴らしていた。そのせいで、結局は鬼塚が出て、何とか、家に上がらせてもらうことができた。
檜山家は玄関を抜けると、真っ直ぐに伸びた長い廊下が姿を表す。築20年は下らないらしく、木製の床は、所々、変色していたし、歩く度に、キュッキュッと音が鳴った。
「さあ、奥の茶室へどうぞ」
「は、はい」
着物の40代ほどに見える、美しい女性は、三人を突き当たりにある、茶室へと案内した。
「ふうう、正座は嫌ですわね」
足元に広がる、緑色の畳を目前にして、魔魅は溜め息を吐いた。彼女は、黒のミニスカートを履いているので、正座でなければ、下着が丸見えになってしまう。一方、鬼塚は、堂々と胡座を掻いていた。
「何故、俺達を門前払いにしなかったんだろうな」
「きっと、彼らも渇望しているのです。私の推理マジックを」
「いえ、きっと罪滅ぼしよ。彼らは欅町での事件に、何かしらの責任や、後ろめたさを隠している」
櫻は神妙な面持ちで言った。鬼塚もそれには同意する。
「おい、魔魅。テメーの推理マジックとやらを聞くがよ。一連の欅町での怪事件の数々、檜山家はシロかクロか?」
「ふうん、グレーですわね。無関係とも言えないし、その全てに関わっているとも言えませんわ。まあ、平穏ではありませんがね。少なくとも、私はこれから、檜山家の罪を断罪するつもりですし」
鬼塚は魔魅のことがどうも好きになれなかった。それは彼女が探偵という立場ゆえに、事件を目の当たりにしていないくせに、知っているかのように振る舞うことが不愉快だったのだ。しかし、それを言ってしまうと、この世の中に存在する、全ての探偵は否定されてしまうだろう。事件に深く関わった、あるいはその当事者が探偵にはなり得ないのだから。