魔法探偵の推理ゲーム
episode of returnの世界へようこそ。今回は外部より、客人を招き、この救いの無い箱庭の全貌を暴き出そうと思います。言うなれば、これはただのネタばらし。難易度など存在しようのない、ただの自己満足な推理ゲームです。しかし、僅かですが、新たなる展開もあるのです。
聖ルルシア学園。そこは、県内トップクラスのお嬢様学校と名高い。その学園の図書室に、一人の少女がいた。周りの女子達は彼女を見て、コソコソと噂話をしている。あんな、野蛮な娘が、図書室に何の用なのか、誰もが気になる疑問を、誰も彼女に聞けなかった。
「先輩ちわっーす」
難しい顔で本を読んでいる、彼女のスカートが一人の女子生徒によって豪快に捲られた。そして、緑色のパンツが公衆の面前に容赦無く晒される。
「あら、操じゃない」
「先輩、えへへどうも。どうしたんですか。元気無いですけど。まさか、お怪我をされましたか。まさか、先輩に限ってありえない。場所は何処ですか。まさか、アヌスですか。それともヴァギ・・・・ぐへぇ・・・・」
言い終える前に、彼女の渾身の蹴りが、操の顔面を捉えた。
「何で、全部下半身なんだぁ。あたしはどんなイメージなんだ」
「い、いえ、先輩のことだから、三角の木馬あたりで一発、ごへぇ」
「おい、ちょっと居酒屋で一杯やるみたいなノリで、木馬なんざ乗るか」
操の顔面にさらに強烈な一撃がクリティカルヒットした。
あの、凄惨な欅学園の四人殺し事件から、四年の月日が流れた。鬼塚は、花束を片手に墓参りに訪れていた。それは、自分の親では無い。かつての相棒であり、ある事件を捜査する途上で殉職した男のために添えられた花であった。
「藤田。テメーが俺より先に死ぬとはな。ざまぁみろってんだ。先輩に逆らうから、テメーはそうなるんだぜ」
言葉とは裏腹に、鬼塚の両目からはボロボロと未練の涙が溢れていた。それを背後から表れた、水色のロングヘアーをした少女に笑われる。
「あははは、鬼塚刑事、何を感傷に浸ってるんですか。これから、この魔法探偵、いえ、美少女探偵の魔魅による、推理ショーが始まると言うのに」
「あ、ああ、悪いな」
鬼塚は背後にいるやたらと騒がしい少女を見て、思わず溜め息を吐いた。あの日の事件、つまり、黒沢健一による女子高生切り裂き事件に、六人の男女の集団自殺。そして、欅病院の従業員の不審死、そして、宮代椿の失踪に端を発する、欅学園の四人殺し。偶然と呼ぶにはあまりにも出来すぎた、事件の数々、その全てが迷宮入りとなっている今、彼は焦っていたに違いない。だからこそ、こんな、役にも立たなさそうな、ほぼ無名の小娘探偵を、自腹で雇う羽目になったのだ。
「おい、きちんと払った金の分は働けよ?」
「イエスイエス、いえ~い。当然です。私はいつでも準備万端。くくく、さあ、早く推理させなさーい」
黙っていれば可愛いのに、一度口を開けば、美少女探偵は、口をガムテープで塞ぎたくなるぐらいな喧しい。
「うう、あの、極楽庵の難事件を解決に導いた野郎だと聞いたから、さぞ、期待していたが、ただのイカレポンチだったか、くそ」
「ちょっと、あの極楽庵での怪事件は私以外には、誰も解けなかったのですよ。それを、酷いですわ」
「じゃあ、早く推理してみろよ」
鬼塚のぶっきらぼうな言いぐさに、魔魅の顔付きが変わった。どうやら、彼女の心の琴線に、無意識のうちに触れてしまったらしい。彼女は、怪しげな小道具を、肩に掛けた小さな可愛らしい、ピンク色のポシェットから取り出すと、ここが墓の前であることも忘れて、怪しげな魔方陣の書かれた絨毯を、その場に敷いた。
「お、おい。墓前だぞ。こんなところで遠足気分かぁ?」
鬼塚の小馬鹿にするような発言も、今の魔魅には通じない。彼女は瞳を星型にキラキラと輝かせながら、魔方陣の真ん中で、手作りのステッキを片手に、何か呪文を唱えている。
「くくく、おほほほほほ、見えましたわ。私はオカルトにて事件を解決する、魔法探偵ですからぁ、この程度は簡単ですけどね。かつて、魔法界にて修行し、魔法の全てを知った私は、魔法を、魔法を否定するために行使する、外道として、魔法使いどもの議事録にも名前がありますわ」
「良いから、早くしろ」
「イエスイエス、分かりましたわ。それでは参ります。まずは、最後の事件、欅学園四人殺しからですわ。くくく、この事件の被害者のうち、檜山優という人物はこの世に存在していません」
「はあ、殺されたからな」
「ああもう、これだからバカは困ります。檜山優という人間なぞ、最初からいませんよ。戸籍も存在しません。私は調べましたからね。この四年間で。ゆえに断言します。「檜山優という人間はこの世に存在したことは無い」「檜山優を名乗る存在が過去にいたことは否定しない。しかし、それは檜山優という人間の身分を証明する理由にはならない」」
魔魅は、ビシッと指先を鬼塚に向けて宣言した。その姿はまるで、推理ドラマのクライマックスのようであった。
「意味が分からんぞ」
「つまりですよ。檜山優という人間は存在しませんが、設定としては存在しているということです。ある閉じたコミュニティーで、例えば、カラスが白いと誰かが言います。それを、そこにいる全員が認めれば、少なくとも、そこでは、カラスは白いんです。ここ意味が分かります?」
「分からん」