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彼氏彼女と殺人鬼~君の望んだ世界~  作者: よっちゃん
episode of first time 
4/48

魔法の射手その4

「ただいま」

優は力無く玄関の扉を開いた。彼はこの家が嫌いだった。帰りたく無かった。この家からは死臭とも呼べる、冷徹で無機質で、それでいて、噎せ返るような血生臭さと野蛮を感じるのである。

「坊っちゃんおかえりなさい」

強面の男達が、優に一斉に頭を下げる。その誰もが、黒スーツを着こなしており、いかにもという顔をしている。


「ねえ、叔父さんは?」

「今日もお仕事です。ええ、夜になったら連絡すると」

「ふうん」

優は鞄を黒スーツの一人に渡すと、そのまま、階段を上って、自分の部屋に入った。

「どうしようかな」

女子高生の引き裂き事件、犯人はきっとウチだ。極道を名乗る檜山家は、人を人とも思わない残酷な連中であると、優は自負している。人をコンクリートに詰めて海に投げ捨てるなんて、都市伝説か何かだと、一般の、カタギと呼ばれる人々は思うだろうが、事実を知っている優からすれば、それは決して、ちょっと怖い架空の話では無い。直接は見ていないが、そんなことが執り行われたという事実は、黒スーツの一人から、幼い頃に聞かされたし、今は亡き両親も、自分が小学校に上がる辺りで、そんなことを口にしていた。


「皆、嫌いだよ」

どうして、普通の家庭に自分は生まれなかったのか、後悔しない日は皆無だった。きっと、殺された女子校生は、檜山組の経営している風俗とかで働いていたのだろう。そして、何かの軋轢が組織との間に生じて消された。有り得ない話では無い。


その刹那、フワッと、宙を舞うような奇妙な、解放感のようなものが、優の心と体を解き放った。そして、彼を可憐な美少女に変えてしまった。


「ふうう、さてと、なあ、テツ、テツはいるかぁ?」

少女、仮にゆうと呼称する。ゆうは欠伸をしながら、畳の上に寝転がると、檜山組のナンバー2こと、郷田鉄郎。通称テツを部屋に呼びつけた。

「お嬢、いかがなさいました?」

「あのさ、ほら、あれ、いつものやつ頂戴」

「はっ、ただいま用意して参ります」

「うん、よろしくね」

ゆうはニコッとウィンクすると、そのまま襖を閉めて、ごろりと寝返りを打った。そして、人の顔のような染みがある、天井を眺めながら、静かに目を瞑った。


数分後、テツは薄気味悪い茶色の、ドロドロとした液体に満たされた、ガラスのコップを、ゆうの机に置いた。


「ふふ、スペシャルドリンク飲まないとね、体調悪くてさ」

スペシャルドリンクとは、ゆうの好物である。砂糖を混ぜた麦茶に、ハチミツとガムシロップを多量に入れて、よくかき混ぜる。そして、味の無いソーダ水を入れて、最後にレモンを浮かべれば、ゆうのための、特性ドリンクの完成である。この、不気味な炭酸飲料を、彼女は満面の笑みで、一口に飲み干してしまった。


スペシャルドリンクは誰でも作れるわけでは無い。砂糖の量、炭酸の量、かき混ぜる強さ、全てが一瞬でも狂えば、ゆうは飲んではくれない。今のところ、そこ黄金比を守り、ゆうの好み通りのドリンクを作れるのは、世界でテツ一人だけだった。かく言う、ゆう自身も、自分が飲むスペシャルドリンクを、彼ほど完璧には作れない。


「お嬢、新しい環境で浮かれるのも分かりますが、少し帰宅するのが遅すぎかと」

「はぁ、あたしのせいじゃないよ。コイツが勝手に、新聞部なんてもんに入るから」

ゆうがコイツと言う時、それは、もう一人の自分、優を示しているのだ。優はゆうの存在を知らないが、ゆうは優のことを認知している。主人格では無いが、影の支配者は、紛れも無く、ゆうの方である。

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