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告白


告白します。これより行われるは、魔法による殺人です。魔法はあるのです。そして、人が死ぬのです。その証明を今からします。




「ふふふふ、皆、こんにちは。いや、こんばんはかな?」

「・・・・」

楓は夜の体育館で、普段は校長先生や他の先生が立っているような台の上から、自分の親友達を見下ろしていた。そして、選手宣誓のように、手を上げて宣言する。

「私は、あなた達を殺します」

それは、殺意とは程遠い、まるで、告白のようであった。バスケ部の練習も終わり、明日の早朝までは密室であるはずの体育館に、今夜は明かりが灯っていた。


「どうしてよ。ねえ、ねえってばぁ」

棗は鼻を啜りながら叫んだ。全ての現況が今さら、悲劇のヒロインぶるのかと、楓は呆れていた。そして、今日という一日を振り替える。

今日は、普通の夏休みの一日のはずだった。それが、優の家で友人の裏切りを聞かされて、そして・・・・。


「うああああああ」

楓は叫んだ。彼女は見てしまった。いや、見せつけられた。その後に、落ち込んだまま、公園のブランコに座っていた時である。棗が優と手を繋いでいるのを、見てしまった。そして、信じられないことに、棗は、楓を横目で見て、鼻で笑ったのだ。そう、まるで、ブランドのバックを見せびらかすように、低俗な方法で、彼女の心を傷付け楽しんだ。


「さあ、黒鬼よ。奴らを殺して」

楓の宣言と共に、彼女の使役する、黒い人影が姿を表した。その異様な姿に、棗達はぎょっとする。そして、次の瞬間、黒鬼の腕が伸びて、優の顔面に直進していった。

「ひっ、優、あぶな」

棗が言い掛けたその時、優の鼻から上の部分が、まるで、頭部を輪切りにしたように、ベチャッと床の上に落ちた。

「きゃああああああ」

そこにいた誰もが叫んだ。唯一、公平だけは青白い顔をしたまま、辛うじて、声を出さずにいた。いや、出せなかったのかも知れない。あまりの凄惨な光景に、腰が抜けることさえ無く、ただ、そこにいるので精一杯だった。


残された優の、頭部の下半分と、身体がぐらりとバランスを崩して、床に倒れた。最早、それは死体ですら無い。壊れた人形。玩具にしか見えなかった。


「に、逃げろぉぉぉぉぉ」

公平は叫ぶと、櫻と棗を庇うように前へと躍り出た。優の死により、この場に残された、最後の男として、決死の覚悟で、黒鬼の前に立ちはだかった。

「ふふ、公平君は偉いね。凄いよ。でも、その後ろにいるビッチを殺す邪魔はさせないよ」

「うるせぇ、テメーは俺達のダチだろうが。ビッチなんて言わせねぇ」

公平は両手を広げて、これ以上は行かせまいとした。しかし、そんな小手先の抵抗など、無駄に等しい。棗と櫻は、体育館の出口の下駄箱目指して、走っていた。そして、時折、不安そうに公平の背中を振り返って見ていた。


「あははは、まずは、その邪魔なお手を退けようね」

楓は黒鬼に命じた。すると、黒鬼は形容し難い唸り声を上げながら、両腕を伸ばし、それを鞭のようにしならせて、公平の通せんぼうしている、右と左の腕を叩いた。すると、彼の腕はその場でひしゃげて、青くなると、そのまま、ブラブラと力無く垂れていた。

「うがあああああ」

数秒の沈黙の後、公平は叫んだ。痛みと恐怖、それらが脳内でシェイクのように掻き混ぜられて、今のような咆哮へと変わっていた。


「さようなら、公平君」

「ぐぎぃぃぃぃ、か、楓ぇぇぇぇぇ」

ロープのように伸び切った、黒鬼の腕が、公平の腹回りに巻き付いて、そのまま強く締め付けた。

「が、あがぁ、くるし・・・・」

あまりの圧迫感に呼吸が止まる。公平は顔を青くさせると、そのまま、涎を垂らしながら、目を剥いていた。そして、次の瞬間、彼の身体は、リンゴを手で握り潰すように、血と肉を撒き散らしながら、その場で四散した。


「あはははは、面白いわ。でもね、棗、あなたはもっと面白く殺してあげるわぁぁぁぁぁぁ」

櫻と棗は体育館の出口付近にまで迫っていた。すると、棗が足を滑らせて、その場に転倒した。何て、不運なのか。櫻は彼女に手を差し伸ばそうとしたが、それを、彼女が拒否した。

「逃げて、早く、あんただけは生きて、あ、あたしはもうダメだから、分かってたの。あたしは最低の女よ。あの娘のことも考えずに、ぷぎゅ」

語尾が妙だったのは、棗の冗談では無い。いつの間にか、天井に張り付いていた、黒鬼が、棗の身体を、そのトンはありそうな体重で踏み潰したのだ。だから、そこに落ちている、潰れたトマトのような、赤い平らは物体は、棗本人で間違いないのだ。


「良いわ、すっきりした、ねえ、櫻ちゃんは殺さなくても良いわよね。だってぇ、もう棗ちゃんを殺したら、未練無くなっちゃったぁ」

楓は暗がりにいる、誰か別の人物と会話している。それが誰であるのか、櫻は気付いてしまった。しかし、気付いたところで、何か変わるわけではない。ただ、彼女は、金魚のように口をパクパクと開閉させて、それを見守っていた。そして、彼女の意識は糸のように、プツリとその場で切れた。


一つの終わり


後日、警察による現場検証が行われました。体育館の中は、おびただしい数の血液で彩られ、死体の損壊具合は、身元が分からないほどでした。

警察は分かりません。どうしてこんな惨事が、夏休みの、しかも深夜の体育館で行われたのか。何故、彼女らは殺されるためだけに、ここに集まったのか。分かるのは自殺では無く、他殺であるということだけ。そして、この奇妙な事件の真相は、闇の中。今では、ネットの掲示板サイトにある、オカルト板でひっそりと語られる、一つの都市伝説と、大して変わらないものとなっていました。

この事件は絶対に解明されないでしょう。だって、これは魔法なのですから、魔法で人を殺したのだから、証拠など出るわけもありません。そして、悲しいことに、それを知るのは、魔法界へと旅立った楓と、行方不明の櫻の二人だけ。死人にくちなし、今日も一日が過ぎて行く。

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