サマーバケーションその7
話を聞いた椿は、しばらくの間、微動だにしなかった。余程ショックだったらしい。仲良くなり始めた友人の陰の部分を知ることが。
「この話は、皆にはナイショですよ。無論、親御さんにもね。脅しみたいで嫌なんですがね。あなたとそのご家族が、檜山家に消されてしまう可能性もありますから」
「そ、そんな、酷いです。私はそんな話聞きたくなかった」
「ええ、ですが、もう聞いちゃいましたからね。あなたが助かるには、ふふふ、早く檜山家を捕まえるしか無いですね。もしかしたら、この車に盗聴器が仕掛けられていたら、あなた、自宅に帰る前に、連中に拉致されて、マカオ辺りでバラバラに・・・・いえ、冗談ですよ」
椿は鬼塚を睨み付けると、勝手に車内のドアを開けて、外に飛び出して行った。
「鬼塚さん。やり過ぎですよ。訴えられたら負けますって、俺ら」
「ああ、だろうな。しかし、これで準備は整った」
「あの娘を餌に釣りですかい。あの娘に何かあったら、どう責任取るんですか?」
「車内に盗聴器なんかあるわけ無いだろ。彼女が警戒心を持って、檜山に接する。それだけで十分さ。それに、彼女はこれからも、俺達に情報を運んでくれるからな。何せ、自分の命が掛かってるんだ。早く檜山を潰さないと、自分の身が危ないと、あの娘は思っている」
「あんた、中々の悪党ですね」
「うるせぇぞ。藤田。上司には口の利き方ぐらい気を使えってんだ」
夜の電話
「はい。もしもし松嶋です。あ、椿ちゃんのお母様。お久しぶりです。え、椿ちゃんですか。あ、はい。17時頃に、皆と流れ解散で、ええ、高杉君と二人で帰ってました」
楓は電話の主の悲痛な声を聞いて、これはただ事では無いと感じた。
「そんな、まだ帰っていないなんて」
楓は素早く時計を見た。時刻は19時を回ろうとしている。遅い。遅すぎる。規則正しい彼女に限って、遅刻は有り得ない。
「あの、私も探してみます。はい。おばさまは高杉君の家に電話をお願いします。私は仲間を集めて、椿ちゃんを捜索してますから」
プツンと着信が切れた。こうしてはおれない。楓は早速、棗の家に電話を掛けた。
日記帳より
この世界は天秤だ。凄く辛いことがあれば、凄く楽しいことがある。私は今、とても楽しい。もしかしたら、これから凄く辛いことがあるかも知れない。でも、構うものか。私は今の幸せを享受するだけだ。
最近、父が母を殴る音が大きくなっている気がする。ああ、辛いことなら毎日起きていた。だから、せめて、学校では笑っていよう。さあ、今日はプールだ。皆で泳いで、騒いで、そうだ、最近気になる男の子、優君は私の水着を見たら、どう思うかな。奮発して、恥ずかしい水着買っちゃったから、それで彼の眼を釘付けに・・・・。あはは、ダメだ。これ以上は書けない。
今日も良い一日になりますように。