魔法の射手その2
神奈川県某所にて、河川敷で女子高生の顔面を引き裂かれた遺体が発見された。周囲は真っ赤な血で彩られ、殺害されたのが、女子高生であると分かったのも、彼女が、女子用制服を着用していたためであった。そうでなければ、こんな、顔面を縦に引き裂かれたものを、男性であるか、女性であるかなど、そう見分けが付くわけがない。
「鬼塚刑事、どうでしょうかね、犯人の目星は付きましたかい?」
新米刑事の藤田幸一は、先輩である鬼塚寛人に意見を求めた。
「アホか、俺達は今来たんだぞ。分かるかよ」
「怒らないで下さい。ただ、犯人は、この女子高生に強い恨みを抱いているか、あるいは、ただのイカれ野郎の犯行か、いずれでしょうね」
「ああ、しかし、酷い光景だ。犯人が同じ人間とは思えないね」
「鬼塚さんも人間じゃないんじゃないですか?」
「はぁ?」
二人の間に乾いた空気が流れた。
一方、優は教室にて、転校生の挨拶兼自己紹介をしていた。その姿はすでに、元の少年の姿に戻っていた。
「あの、あの、僕は今日から、皆さんと一緒にお勉強させて頂く、檜山優と申します。よろしくお願いします」
何回も練習した台詞である。しかし、本番になると、やはり声は震えるし、頭の中は真っ白になる。
「檜山君、よろしくね」
一人の女子生徒が立ち上がって、優を見て、ニコッと微笑んだ。彼女は、女子にしてはやや長身で、真っ赤な髪の毛を後ろで一本に結んだツインテールをしていた。胸は発育途中と言えど、すでに完成したかのように大きく、つり目がちで、優の第一印象では、気が強そうの一言で説明がつく気がした。
「あたしは、神田棗、よろしくね」
これだけで、彼女がこのクラスの盛り上げ役、ムードメーカーであると分かる。快活で健康美溢れる棗の姿に、優はしばらく、うっとりとしてしまっていた。
自己紹介が終わると、担任の黒沢和人が簡単な事務連絡をして、そのまま教室を後にした。一時間目の授業が始まるまでは、多少の自由時間が存在している。神田棗はその時間を、転校生である、優に使うことにした。
「やっほー、何固くなってんのよ。緊張してるの?」
「あ、いや」
棗はグイッと優の方に顔を覗き込ませた。。その人懐っこいとも、図々しいとも取れる態度に、優は苦笑した。すると、それを見兼ねたように、棗の背後から、二人の生徒が現れた。
「よう、悪かったな、うちのバカが」
一人は男子生徒で、身長190センチぐらいはあろうかと言う、長身でがたいが良かった。見るからに体育会系のノリで、優は少し苦手だった。そして、彼の隣には、長い黒髪を肩の辺りまで伸ばした、見るからに優等生という雰囲気の女子生徒がいた。彼女は、背が低く、比較的小柄な優よりも、さらに身長が下だった。瞳は大きく、童顔ということもあって、ここにいる誰よりも幼く見える。そして、身長は全て胸に取られたと言わんばかりの巨乳だった。いわゆる、ロリ顔巨乳である。
「私は、松嶋楓。一応、このクラスの委員長だから、その、何かあったら、私に相談してね」
「おおっと、楓ちゃん、早速アピールしちゃうの。そうやって彼氏候補を一人でも多く確保するつもりね」
「なっ、棗、違うってば」
二人は優のいる机の周りをクルクルと回って追いかけっこしていた。そんな様子を呆れ顔で見守る、長身の男子生徒は、場を引き締めるように、軽く咳払いをした。
「最後に、俺は高杉公平だ。まあ、仲良くしようぜ」
「う、うん」
優は何とか返事をすることができた。すると、さっきまで逃げていた棗が戻って来た。
「でさ、ものは相談なんだけど、あなた、うちの部活に入らない?」
「へ?」
「おい、棗、気持ちは分かるが、気が早いぞ。彼、引いてるし」
「もう棗は仕方無いんだから」
どうやら、三人は優を自分達の部活に勧誘するつもりらしい。三人の必死な様子を見るに、相当、部員数は足りていないのだろう。そこで、今日来ることが分かっていた転校生を、自分達の部活に抱き込む、学生らしい発想だった。
「その部活って?」
優が少しでも食いついたものだから、棗は大変だった。まるでマシンガンのように、口を一度も閉じる様子も無く、喋りまくっていた。
「であるからして、我々、新聞部は~」
「あ、新聞部なんだ」
話を最後まで聞いて、ようやく、彼女達の部活の名前が分かった。ということは、高杉公平も、新聞部ということになる。さっき、体育会系だと決め付けた自分を、優は恥ずかしく思いながら、彼にしては強い語調で言った。
「僕、入ります」
その言葉に、棗だけでなく、傍らにいた楓と公平も嬉しそうだった。